リサ、模擬戦を行う。
オールバックの男の号令で受験者達は1列に並ぶ。
リサも両手で顔を覆いながらその列に並んでいるが、教員達が受験者達の元に並ぶ姿を見ずに、1人で落ち込んでいた。
(あぁ……終わった。生成魔法しか出来ないし、泣くしで、良い所を見せられなかった……。それより、攻撃魔法と生成魔法であんなに火力が違うのかぁ。ギルドも基準として定める訳だよ……)
すると、落ち込むリサの肩を先程の紫髪の女性が軽く叩き、声を掛ける。
「君、顔をあげて。私達の話を聞いてくれると嬉しいな〜」
リサはポケットに入れたハンカチで顔を拭くと、声のする方を向く。
そこには3名の教員が立っており、その中の1人の紫髪の女性がリサに対して質問をする。
「えっとね?私達3人の中なら、誰を師匠……教師にしたい?」
「…………え?」
いきなりの質問にリサは間抜けな声を出しながらも、パッと思い浮かんだ事をその人に伝えた。
「……攻撃魔法を教えてくれる人」
「それは皆使えるかな。他には?」
「他?う〜ん……剣と魔法を使った近接戦闘を教えてくれる人?」
「そ、それは逆に居ないかな…………。えっと、じゃあこっちで決めますね〜」
ポカンとするリサを横目に、そう言う女性は他の教員と話し合いを始めた。
何なんだ首を傾げながら、リサは隣にいるビルを見ると、丁度オールバックの男と教鞭を執る相手の話し合いをしている。
どうやら、ビル担当の教師はオールバックの男に決まった様だ。
それを羨ましそうに眺めていると、再び紫髪の女性がリサに近付き
「お待たせしました〜。君の師匠に私がなる事になりました。よろしくお願いしますね?」
頭を下げてニコリと笑う。
リサは意味が分からないまま頭を下げて
「よ、よろしくお願いします……?」
と困惑気味に返事を返すと、辺りをキョロキョロと見回す。
周囲の受験者達はリサやビル同様、自分の元へ来た教員と話し合いをしていた。 第2試験前に説明を受けた通り、仮の弟子を決めているのだ。
その事に気がついたリサは、やっと紫髪の女性が自分を生徒として取ってくれた相手だと気付くと、再び頭を下げて挨拶をする。
「あ、え!よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。でも、まだ決まった訳じゃありませんけどね〜。第3試験を受けてからのお楽しみですよ?」
お互いに挨拶を終えると、隣にいたオールバックの男が再び皆の前に立ち、次の試験の内容を伝える。
「全員、仮教員は決まったな?今年は全員スムーズに決まったが……第3試験は、その仮教員と模擬戦闘だ!これが最後の試験になり、これから2年間の学校生活で、お前達に教鞭を執ってくれる相手が決まる大事な試験だ!」
「なっ……!!」
そして、第2試験と同じ順番で第3試験“模擬戦闘”が始まった。
ーーーーーーーーーー
リサは、他の受験者達の戦闘を見ながら頭を抱えていた。
自分が攻撃魔法が扱えない事にでは無い。
対人の模擬戦もヲルガやガルダーと共に何度も行った。
頭を抱えているのは自分の体質である、血を浴びた敵対者に対する審判。
ヲルガやガルダーと模擬戦をしていた時は寸止めで怪我をすることは無かったので分からないが、一応、血が付いただけでは何の影響も無い事は、魔獣相手に試している。
だが、自分を攻撃してきた相手や、周囲の敵意を向ける者にリサの血が付着してしまうと、灰燼に帰してしまう。
もし仮に、模擬戦相手に怪我をさせられ、相手や周囲に血が付着してしまった場合、リサ自身どうなるかが分からない。
リサは何かあった時の為に、瞬時に傷口を煤で覆い、血が出ない様に特訓をしている。それでも、自分が気絶した時の対処は出来ていない。
対人相手に怪我をする行為は極力避けたい。かと言って、第3試験を蹴る訳にもいかない。そこでリサは紫髪の女性に提案する。
「あの……えっと、私はリサって言います。お姉さんは?」
「私は〈ラズリー〉ですよ〜。それで、どうしましたか?」
「えっと、ラズリーさん。模擬戦で私に攻撃しないで貰えると助かるんですけど……」
「ああ、リサさんは攻撃魔法が使えないんですものね。ですが、これは戦闘技術を見る試験。避けるのも大事ですよ〜」
「で、ですよね〜……」
それを聞き、リサは諦めた様に溜息を吐くと、どうすれば良いか思考を巡らせる。
(他の人達のを見てる感じなら、怪我する心配は無いと思うけど……早めに決着をつけるべきだよね。でも、第2試験であの感じだし、魔法が通じるとは思えない。これなら剣を持ってくれば良かった……)
そんな風に頭を抱えながら、1人、また1人と試験を終えて、リサの順番が回ってきてしまった。
リサは嫌々立ち上がり、ラズリーに模擬戦闘のルールを確認する。
「ラズリー、私が降参するかどちらかが決め手を与えると、模擬戦闘は終わりなんだよね?」
「そうですよ〜。ウフフ!リサさんは寸止めとか気にしなくても、私そこそこ強いので大丈夫ですよ〜」
「うわぁ……。じゃ、じゃあ、最初から氷の剣を1本作っても良いですか?私は戦闘中、剣を使って戦っているので」
「普段からそうであるなら問題ないですね、構いませんよ〜。ですが近接戦ですか……加減が難しそうですね」
ラズリーの呟きにリサは顔を引き攣らせつつ、お互い広場の端と端に移動する。
「では、開始!」
魔法という物は、何も空気中にある魔素を使用して使う物ではない。
リサの煤魔法の様に自分の魔力だけで創り出す物もあれば、魔素の代わりに元素その物に魔力を流して操る方法もある。
松明の炎の形を変える事や、水の流れを変える事、地面に穴を開ける事も、魔力操作が得意であれば可能である。
更に言えば、それを応用して無機物の操作も可能である。鉄の剣を操る事も理論上可能であり、中には金属で出来た人形を操る者もいる。
そして、リサはそう言った物質操作が得意であり、火や水、土や風などの単純な物であれば、かなり精密に、そしてかなりの力で動かす事が可能だった。
その実力は、単騎であれば天才のヲルガと妨害行為のみで渡り合える程である。
そんな彼女が開始の合図と同時にとった行動、それは
相手の足場を沼化し、首から下を沈めて地面を固めるといった戦法だった。
「…………え?え!?体が動かない!」
地面から顔を生やして困惑するラズリーの目の前の地面を操作して、ゆっくりと岩の棘を生成すると、そのままゆっくりラズリーの眼球に向けて伸ばしていく。
「あわわわ!〈石弾〉!」
ラズリーは慌てて石の棘に向けて石礫を飛ばし根本からへし折るが、再生する様にゆっくりと再び棘を生成する。
「ラズリー、降参してくれると嬉しいんだけど……」
「リサさん、今のは慌てましたが、魔法士は体が無くても魔法は使えるんですよ〜?」
ラズリーのその言葉に、リサは呆れた様に手をあげて首を振った。
「1つ教えてあげると、その棘はわざとゆっくり生成してるんだ。その意味分かる?」
その言葉に、ラズリーは顔を引き攣らせながら冷や汗を流した。
「もう1つ教えてあげると、棘を生成する場所はそこ以外にも、地中から生やす事も出来るよ。まぁ、そんな事しなくても地面を固いまま動かすだけで、ラズリーの胴体は無くなるけどね」
言葉を続けたリサの顔を見て、ラズリーは顔を真っ青にしながらリサに提案を投げ掛ける。
「も、もう一度チャンスをくれない?リサさんが生成魔法しか使えないと思って、私油断しちゃったの」
「え、う〜ん……まぁ良いけど」
リサはラズリーの案を呑むと、ラズリーの周りの地面を泥化させ、足元に岩を生成して押し上げる。
「ありがとうリサさん」
「気にし……た方が良いけど気にしないで」
リサがラズリーの案を呑んだ理由は2つ。
まず1つは、コレだけではしっかりとした評価が貰えないと考えて。
そしてもう1つは、自分の対人戦法を試してみたいという欲求が出てきたからだ。
とは言っても、リサの魔法の中で今の魔法が一番対人性能が高い。だからこそ、その魔法無しの実力をリサは試したいのだ。
「ではもう一度……始め!」
その瞬間、リサは透き通る氷の壁を前方に覆う様に生成して、後ろへ飛び退く。
それと同時にラズリーが放った石弾が氷の壁に衝突すると、氷の壁にヒビを入れて空間を歪めた、
リサは自分の周囲に氷で出来た板を生成すると、太陽の光を反射させてラズリーの視界を奪う。
だが、ラズリーはそれに怯む事なく、目を腕で覆いながらリサの方に石弾を乱れ撃つ。
「本当に寸止めする気あるの!?」
リサは自分に一発食らわせるつもり満々の攻撃魔法に文句を垂れながら、石生成で階段を作り氷の壁を飛び越えて、石の柱を複数生成すると、器用にその上を飛び渡り、ラズリーの元へ向かう。
それを見たラズリーはしたり顔で笑うと
「〈炎弾〉!」
先程までと違い炎魔法の呪文を唱えると、リサに向けて火球を物凄い速さで飛ばしてきた。
至近距離から放たれた〈火球〉より速い〈炎弾〉。ラズリーは回避不可と分かっているから、当たっても大怪我にはならない火魔法を選んだのだ。
当たった。誰もがそう思った。
だが、軽い爆発音と共にリサの氷剣は素早く振り下ろされ、炎弾を2つに斬り裂いた。
「な……!」
「甘いよラズリー!」
リサはヒビの入った氷剣をラズリーに向かって投げ付け、瞬時に氷剣を生成してラズリーに肉薄すると、2人の間に開幕に作った物と同じ透き通った氷の壁が、投げられた氷剣を飲み込みながら生成された。
「そこまで!受験生側の勝利!」
「え?どうしてでしょうか?まだ決め手はーー」
オールバックの男の判決に不服を申し立てようとラズリーは口を開くが、オールバックの男が自分の背後を指差すのを見て言葉を止めて、振り向く。
そこには、今にも振り下ろされそうな状態で空中に止まる3本の氷剣が、ラズリーを逃すまいと囲っていた。
「……確かに、私の負けですね」
ラズリーの言葉を聞き、リサは生成した氷や石などを霧散させると、変形させた地面を軽く平した。
「ラズリーが手加減してくれなかったら私、あの炎弾の時に死んでたよ。油断大敵だね」
「や、やめてください……そのお世辞、かなり心にくるので」
そう言い合う2人は、お互いに苦笑いを浮かべながら広場を次の試験者達に譲った。
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