リサ、入学試験を受ける。
無事、第1試験を終えたリサは、実質的な合格を言い渡される。
次に挑む第2試験。その内容は、大勢の教員の前で自分の魔法を披露する物。
そして、受験者達の魔法を見た教員が、誰を自分の生徒として請け負うのかを決める場でもある。
ざっと見て、教員の数は受験者より多い。が、その中にも当たり外れはある。
懸命に魔法を教えてくれる者もいれば、誰も請け負わないので嫌々その受験者を請け負う者もいる。
その場合、自分の納得出来る授業を受けられる事は無くなるが、逆に先生が誰も就かなかった場合は、第2試験は失敗と見做され、入学は見送られる。
一応、次の第3試験で教員が生徒を決め直す事もあるので、結局の所、誰が教員になるのかこの試験だけでは分からない。
第2試験も1人ずつ行い、最初にこの場に来た者から順に行う。リサは最後から2番目。そして、問題のビルは何があっても一番最後に試験を受ける事になっていた。
「1人目、始め!」
その掛け声と同時に、広場の奥に人と同じ位の大岩が生成された。
順番を呼ばれて前に出て来たのは20歳前後の女性。その女性は冒険者なのか、皮の防具に身を包み、鉄の胸当てをしており、右手には柄の部分に青い宝石が嵌め込まれた細い棒を持っている。
そして、大岩に向けて棒の鋒を向けると、青い宝石を淡く輝かせて
「〈水矢〉!」
そう呪文を唱えると、棒の鋒から水が生成されて細長い形に変形していく。
その水は右手に構えた棒と同じ……いや、更に細くさせると、先端を鋭利に膨らませて、形成し終えると勢い良く大岩に向かって飛んでいった。
その矢を象った水は大岩にぶつかると、大岩の表面を軽く削って空中に霧散した。
「〈水球〉!」
冒険者風の女性はそれを見ると、間髪入れずに新たな魔法を生成して、再び大岩目掛けて発射した。
そして、先程削り取った場所に命中すると、そこの部分が少し抉れた。
その後、何度も何度も水魔法を同じ場所に当て続け、大岩を破壊すると女性は棒を下ろした。
「終わりました」
「……よし。では次!」
冒険者風の女性と入れ替わって前に出て来たのは、再び棒を持った女性。先程の女性と違う所は、普段着である事と棒の柄に嵌め込まれた宝石の色が赤い事くらい。
リサはその事を疑問に思い周囲の受験者達に目を配ると、この場にいる受験者の大半が女性であり、男性の数がビル含めて9名しかいない事に気がつく。
そして、その女性達全員が大きさや形、嵌め込まれた宝石の色は違えど、変な棒を持っていた。
そして、今試験を受けている女性が使っている魔法は炎魔法。赤い宝石を淡く光らせながら魔法を編む姿を見て
(あの宝石の色に合った元素の魔法を使ってるのかな?さっきの人は水だったし。じゃあ、あの黄色い宝石は土で、エメラルド見たいな宝石が風……かな)
リサはそう考える。そしてその考えは当たっており、案の定、黄色い宝石の棒を持った女性は土魔法を、翠の宝石の棒を持った女性は風魔法を編み、大岩を破壊していた。
「あの棒面白いな〜。でも、宝石付いてるから高そう」
リサは彼女達の持つ杖に興味を示すが、その言葉を隣で聞いていたビルは首を傾げながらリサを見る。
「ん?リサちゃんは杖持ってないの?」
そして、手に彼女達と同じ様な物を持っていない事に気がつくと、何故杖を持っていないのか尋ねた。
「杖?」
だが、リサはその杖という物を知らない為、首を傾げ返す。
「そう杖。女性が魔法を使う時に、精度や威力を上げるための補助?強化?まぁ、役に立つ物だけど、知らない?」
ビルは杖だけでは意味が伝わらなかったと考え、杖に関して大雑把に説明してみるが、リサは首を傾げたまま知らないと答えた。
「うん。私の知り合いで使ってる人見た事ないし、それが無くてもみんな生成魔法は使えたから」
それを見て、もしやと思いビルは言葉を続ける。
「ええと、リサちゃんってもしかして、あんまり魔法や魔術に詳しくないの?……じゃあ、あの男の人のあれは?」
そして、丁度順番が回って来た男性を指差して、リサに彼の使う魔法を見る様に促した。
ビルが指差した受験者の男性は、先程の女性達と違い杖と呼ばれる物は持っていない。
それを見たリサは、自分と変わらないでは無いかと思いながら、彼が魔法を使う所を黙って見詰める。
男性は空いた右手を大岩に向ける。その瞬間、翳した手の前の空中にいきなり赤い模様が浮かび上がり
「〈火球〉!」
男の唱えた呪文と同時に、浮かび上がった模様から火の玉が生成され、大岩目掛けて飛んでいった。
その摩訶不思議な光景をみて、リサは唖然と立ち尽くす。
「あ〜……その感じだと、アレを見るのは初めてか。……どんだけ田舎に住んでたの?」
「…………今のは?」
「“魔法陣”だよ。男性が魔法を使う時に描く模様。女性が使う杖と同じだよ。魔力で空中に術式を描いて、描いた通りの形状や威力の魔法が出てくる仕組みさ。女は感覚、男は頭脳。魔法の基礎だよ?」
「初めて聞いたけど……」
「はぁ……いい?基本的に女性は魔力を形成するのが得意なんだ。だけど、男性は女性と比べてそれが下手。だから、魔法を式に置き換えて固定化する。それが魔法陣なんだよ」
「……全然分からないけど、要するに、女性は感覚で魔力操作が出来る。男性はそれが苦手だから、魔力を流すだけで魔法が使える魔法陣を作ったって事?」
「まぁ……大体合ってる。魔法陣に変な文字が見えるでしょ?あれは、込める魔力量や魔法の速度、他にも動き方とか色々あるけど……魔法に指示性を持たせる物なんだよ。逆に、それを利用すると……」
ビルは試験中の男性の前にある魔法陣に人差し指を向けると、空中を撫でる様に下に滑らせる。その瞬間、男性の前にあった魔法陣は音を立てて割れた。
「……あんな感じで発動を失敗させる事が出来るんだ。魔術士相手に役立つから覚えておくと良いよ」
魔法陣が割れて慌てふためく受験者を横目に、ビルはニコニコとリサにそう伝えた。
だがリサは、鬼の形相をしたオールバックの男が近づいてくるのを見て、私は無関係ですと言う様に、ビルを指差してその場から後退りする。
そして、怒られているビルに手を合わせていると、自分の番が回って来た。
「次の方〜どうぞ〜」
(あ、受付のお姉さんだ)
リサはその紫髪のお姉さんの元へ駆け寄り、頭を下げてから大岩に向き直る。
(当たり前だけど、誰も生成魔法を使ってなかったなぁ……。取り敢えず、傷付けられそうな石生成を使ってみよ)
リサは首元から火花を散らせると、自分の胸の前に頭程の大きさの岩を創り出し、大岩に向けて発射する。
岩の速度は他の受験者の攻撃魔法と大差ない。だが、その岩は大岩にぶつかった瞬間、音を立ててバラバラに砕けて空中に霧散した。勿論、大岩の方は無傷だ。
「君、次からは魔法名もお願いね」
「は、はいぃ……」
一番可能性のあった石生成で傷一つ付かずに、早々に心が折れかけていたリサは、紫髪の女性の言葉に情けなく返事を返して、再び首元に火花を散らす。
「み、〈水生成〉……」
呪文を唱えた瞬間、周りの受験者から嘲笑に似た……いや、嘲笑そのものを受ける。
教員からも、がっかりした様な表情や溜息が見られ、リサは涙目になりながらも、創り出した水球を大岩に向けて発射する。水球は大岩に当たると、シミを作るだけで傷を付けることは無かった。
「ううぅぅぅ……」
「えっと……終わり?」
リサは首を激しく横に振って見せると、紫髪の女性に岩に近づいても良いか尋ねる。
「岩の近くに行って良いですか……?」
「ごめんね、公平性を期す為に、その場所からの攻撃しか認めてないの」
それを聞いたリサはとうとう涙を溢してしまう。
だが、泣きながらも岩に向き直り、再び火花を散らしながら呪文を唱える。
「〈氷生成〉〈煤生成〉」
呪文を唱えた瞬間、大岩を取り囲む様に峰を黒く染めた氷剣が生成されると
「〈着火〉」
その合図と共に、8つの氷剣は爆音を鳴らしながら物凄い勢いで大岩にぶつかりーー
表面を軽く削ると粉々に砕け散った。
「うぅぅぅぅ……!」
攻撃魔法と生成魔法では、威力も強度も違う。それを身をもってリサは体験した。
魔物や魔獣相手に調子に乗っていた。このままでも星3冒険者になる力がある。そう考えていたリサの心は綺麗に折られた。
バチバチと激しく火花を散らしながら泣くリサは、大量の煤を生成し大岩を覆い隠す。
これは、最後の手段だった。前に一度事故を起こしてしまい、ヲルガ達に使用を止められた、魔法とは呼び難い現象。それを引き起こす為。
煤人間の生成では無い。それこそ、最後の手段だ。リサが行うのは、自分が生成した可燃性の煤を利用する“粉塵爆発”。
周囲の魔素や魔力の影響を一切受けないその魔法は、リサが唯一使える“攻撃魔法”だ。
だが、そんな事を知らない周囲の者達は、子供が癇癪を起こしたとしか考えずに嫌な笑みを浮かべながら眺めていた。
だが、数人の教員とオールバックの男は何かを察知して、その煤の周囲を何重もの岩で覆った。
瞬間、地面が細かく振動し、岩で出来たドームが大気を震わせる。
笑う者はいなかった。そのひび割れた岩の壁を見て、腰を抜かす者までいた。
岩のドームは術者が解く前に音を立てて崩れていき、地面に空いた穴を見せつける。
まるで、龍が孵化した様なその光景に、ビルだけは大笑いしながらこう言った。
「流石リサちゃん!じゃあ俺はもっと凄い物を見せないとだね!」
その声に我に帰った教員達が慌てて立ち上がると、オールバックの男が高らかに宣言した。
「第2試験終了!受験者は一列に並べ!先生方は自分の持ちたい生徒の元へ行ってくれ」
こうして、リサの第2試験は散々な結果で終わってしまった。
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