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追憶2

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 遠い遠い遥か昔。魔女が魔女として隠れ住んでいた頃。人も、獣も、魔族も、恐れるが故に魔女を守り、生きる為に他者を拒み、魔女を殺す者が現れるのを信じていた。そこに、1人の強欲で傲慢な人間の王に使える、1人の怒れる人間の騎士が魔女に挑む為に軍を率いて進軍する。

 これは、忠義も分別も持たない、寛容の精神を失った魔女のお話。

 魔女を魔女たらしめた、人が産んだ魔女の為の御伽話の、その1ページである。


ーーーーーーーーーー


 カザンドール王国の北西にある多種族が住む山、通称〈魔女の楽園〉が議題に上がり、国王〈トルタラゴン・カザンドール〉は眉間に皺を寄せて頭を抱える。

 国土であるその場所を、国民以外のならず者が屯し、そこを一つの国であると主張しているからだ。

 数年前まで、そこはただの山だった。領土として管理している者もいた。だが、今では魔女の為の場所に成り果ててしまったのだ。


 魔女の楽園……それは、気まぐれに目を覚ました魔女が、次の寝床として選んだ場所を指す。そこには、魔女を追って魔女の庇護下に入った者達も集まり始める為、「動く戦場」や「旅する国」とも言われていた。


 国王トルタラゴンは眉間の皺を更に濃くすると、親指の腹でほぐす様に押し上げて、再び皺を作り出す。


 魔女の楽園の出来た領地内の経済は回り、元々大した恵みの無い山なので、居座られても損失は無い。だが、気に食わない。

 自分より力を持った魔女が。自領より金を持った奴等が。自国より名を持った楽園が。

 奪われる事、逆らう事、威張られる事。全てが気に食わなかった。


 それが、自分が行ってきた事と同じだったとしても、自分がされる側に立つのが許せなかった。


 国王トルタラゴンは眉間の皺を無くすと、頬を吊り上げ顎に溜まった贅肉を揺らす。


「決めた。あの魔女の楽園を……殺戮の魔女を……我が、我が国が滅ぼそうではないか」


 その場に居合わせた大臣達や貴族達は色めき立ち、次々と我が国王に対し称賛を送る。


 流石国王。それでこそ我が国王。この世の全ては、国王陛下の為にある。


 ただその中で1人、伯爵位を持ちながら王国軍最高司令官である〈ライドール・インドリア〉は、道化と狂人達の夢物語にも似た滅亡の予言を聞き、奥歯を噛み締めていた。


(あの災厄を滅ぼす?馬鹿を言うな!小さな子供でもアレの恐ろしさを知っていると言うのに、脳みそまで脂肪に置き換わったのか?)


 この場は国の大事を決める会議の場。戯言が許される場では無い。故に、王も、大臣も、貴族達も、お互い目論みは違えど、本気で魔女を滅ぼそうと話し合いをしているのだ。

 正気では無い。そう思いながら、ライドールは奥歯を擦り減らしていく。


 この話し合いが終わる頃、国王はこう言うであろう。


(では、魔女を滅ぼす為に早速動こうでは無いか。金は幾らでも出す、作戦等は王国軍最高司令官であるライドールに一任する」


 こうして、歴史に残ることの無い愚者達の会議が終わり、歴史に残る愚者を産まない為の物語が始まった。


ーーーーーーーーーー


 下らない会議を終えて屋敷へ向かう馬車の中、ライドールはあの場で反論を述べる事なく押し黙っていた自分を恨む。

 最高司令官の座から下されようが、爵位を剥奪されようが、打ち首になろうが、それでも、あの場で国王の発言を真っ向から否定すべきであった。

 例え、どんな罰を下されようとも、魔女に手を出すよりはマシである。もし、それで家族が処刑されたとしても、その方が幸せだ。


「くそっ!あの豚王め!民や兵、国の事なんか一切考えていない!得られもしない名声の為に、一体どれだけの犠牲を……!」


(今更断れない。今断れば自分のみならず、無関係の部下達にも処罰が下る。であれば、自分が道化となり、狂人にならなければいけない)


 目から正気を失い、唇を吊り上げながら引き攣った笑い声をあげる。爪を噛み、肉を噛み、骨をしゃぶる。そして真顔に戻ると、削れた親指にポーションをかけて再び頬を吊り上げる。

 頭のネジはもう取れた。痛みを快楽に変えられる程狂気に堕ちた。後は、それを感染させるだけ。


 屋敷に戻った後、最後の拠り所である自分の家族を国外へ逃すと、人の心を捨てた。


 狂乱の会議から数日後、部隊長を集めた会議を開き、先日の会議で決められた魔女討伐の件を、集まった者達に伝える


「と、我々は魔女討伐の命を受けた!全て私に一任されているので、私の言う通りに動く様に!」


 その言葉に反論する者は居なかった。

 忠実だから?違う。愚者だから?それも違う。


 ライドールの狂気に満ちた笑みを見て、握られた剣を見て、殺気を孕んだ瞳を見て、その場にいる全員が、恐怖に震え上がり、狂気を植え付けられたのだ。

 魔女の狂気が、国王の狂気が、ライドールの狂気が、兵から兵へ伝達し、全ての兵が狂気に堕ちる。

 人が狂うのは容易い。いや、もしかすると、予め撒かれていたのかもしれない。そして、魔女討伐という養分を経て開花したのかもしれない。


 何にしても、その狂気のお陰で物事は順調に進んでいった。


 止める者は居らず、同じ狂気に染まった者同士は歪な協調性を産み、手段を選ばず鍛え上げ、有り余る財で物資を揃える。

 民など関係ない。兵など関係ない。命など関係ない。ただ、魔女を殺す為の糧として、消費して行く。


 そこまでして、漸く魔女を討伐する為の準備を終えたカザンドール王国は、村の子供までもが狂気に堕ちていた。


 出来上がった兵は2万弱。国民を殺してまで巻き上げた国財で揃えた、エンチャントされた武具に身を包み、国土を手放してまで手に入れた強大な魔道具を抱えながら、魔女討伐を目前に控えていた。


「今日!我々は伝説になる!凶悪な魔女を打ち滅ぼし、世界に平和と安寧を齎した勇者として!幾年も語り継がれる英雄譚の一節に、我々はなるのだ!」


 重なり合う雄叫びに空が揺れ、何度も踏みつけられる地面が波打つ。


「全軍、魔女の楽園を包囲しろ!そして、合図とともに魔封じの魔道具で結界を張るのだ!」


 ライドールの号令で兵が作戦通りに分散する。

 そして、人間の大人と同じ高さの魔石……魔封じの魔道具を魔女の楽園を取り囲む様に8個設置すると、合図を送り合い魔道具を起動する。

 その後、起動完了の合図が送られたのを見たライドールが、信号弾を空に向けて高らかに宣言した。


「侵攻開始!!」


 その声に見合わず情け無い音を立てながら、信号弾は天高く飛んで破裂すると、雄叫びと共に兵士たちは楽園に足を踏み入れて行く。


 獣を焼き、人を刺し、魔物を裂く。元々生息していた生物諸共、殺戮の限りを尽くして楽園を荒らしていく。


「お前達に魔女は殺せない!だからこれ以上荒らすな!」


「五月蝿いぞ、魔女に縋る分際で!死ね!」


「魔女が起きる!騒ぎを起こすな!」


「その魔女を今から殺すんだよ!死ね!」


 魔女の楽園の者達は抵抗する事なく殺されていく。だが、それに疑問を抱く兵士は一人もいない。

 魔封じの結界が張られているから抵抗出来ないのだと、そう考える。だがあの竜種ですら、兵士達を傷つける事はしなかった。獣達も牙を使わない。言葉を発する者はやめる様にとしか言わない。

 それに気を良くした狂人達は次々と死体の山を築き上げ、楽園の中心、魔女の寝床へ向かっていく。


 そして、全てを殺し尽くした兵隊達は、目的を果たす前から歓喜の雄叫びを上げている。

 ただ1人、ライドールを除いて。


 ライドールは魔女の寝床を死んでも尚守っている白いドラゴンに目をやる。

 左目は抉られ、翼は捥がれ、尻尾の先を失い、本来の白い鱗が見えない程に赤く染まった体を見つめ、その中央に1人の少女が倒れているのを発見する。


「魔女……殺戮の、魔女」


 ライドールは裂けそうな程に唇を吊り上げると、右手に持った魔剣を少女に振り下ろす。


 魔法を封じた魔女など、ただの長生きした少女に過ぎない。

 言い伝えにある再生能力も、この魔剣の形そのものを切断する力で無効化出来る。その力で首を斬り落とせば、頭という概念を失った体は永遠に動かず、体という概念を失った頭は考える事以外何も出来ない。


「にいいいいぃぃぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」


 ライドールは言葉として認識出来ない奇声を発しながら、魔女の首を跳ね飛ばした。

 断面から血が吹き出すことはない。この剣が斬ったのは肉体では無く、形そのものだから。


 ライドールは、安らかな顔をした少女の、切断された頭部の髪を鷲掴みにすると、天に掲げて雄叫びを上げた。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 その瞬間、ライドールの体は炎に包まれ、一瞬にして灰燼に帰した。


 それを見た兵達は、呆気に取られた様に上げた手を下ろすと、武器を手放した。


 先程まであった狂気はもう何処にもない。喜びも、苦しみも。ただあるのは純粋な恐怖のみ。発狂すら許さないその恐怖は、何もしなくとも近くに居る兵達の命を刈り取った。


「愚かだ……実に愚かだ。抵抗しない命を無駄に刈り取るその行い、万死に値する」


 その声を聞く者はこの場に居ない。だが、魔女は空に手を掲げながら言葉を続けた。


「この行いを協力した者、この行いを策略した者、そして、この行いを案じ、賛同した者。勿論この惨状を生み出した者達も、全て万死に値する」


 吐き捨てられた呪言と共に、魔女を中心として炎が波打ちながら広がっていく。

 生きた兵も、殺された者達も、木も草も岩も、全てを関係無く飲み込んでいき、山全体を包み込んでも尚、その赤い炎は広がり続ける。


柵も、家も、村も街も王城も、そこに居る生き物全てを包みながら、カザンドール王国全てを飲み込んだ。


 それは一瞬の出来事だった。一瞬で王国全てを包み込んだ炎は、呪言に該当する生物を悉く灰燼に帰し、王国の空を黒く染め上げた。


 そして、黒い空と赤い大地が溶け合う様に現世から消え失せると同時に、楽園が息を吹き返して、色めき立った声を上げる。


 流石魔女!それでこそ魔女様!私達は、魔女様の為に居る!


 ただその中で1人、魔女の異名を持ちながら普通の少女でありたいと願うリサは、魔族と人間達の笑い話にも似た綺麗な掌返しを聞き、苦笑いを浮かべていた。


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