リサちゃん、決める。
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樹海誘拐未遂事件から数日後、討伐遠征から帰還したヲルガ達に、リサは自分の身に起きた出来事を伝えた。
「ゆ、誘拐!?たたたた、大変じゃない!変な事されてない!?怪我は!?」
「本当に無事で良かったぜ……。連れ攫われてそのまま別の国。ってなったら、探し出すのは運だからな。逃げ出したのは正解だぜ!」
「本当だな。だがリサよ、何故誰ともパーティを組まずに単独で樹海に向かった」
「それはそうだけど、反省しているし良いじゃない。それに、リサだって冒険者なんだから」
「そうだぞ。そもそも、人攫いにあったのは運が悪かっただけだろ」
「ヲルガ、プラナ、ガルダー、私慢心した。助言無視して単独行動した事、それと武具を無くした事、ごめんなさい」
リサの謝罪はこれで3度目だ。
「謝る事なんて何も無い!武具はまた買えば良いし、1人で行動する事は悪い事じゃない!ただ、絶対にギルドに行き先を伝える事だな」
「了解」
「よし、じゃあこの話は終わりだな!明日から10日間、俺達は休暇を取るつもりだから、その間リサはマグラビットで解体の練習だな」
ヲルガは早々にこの話を切り上げ、リサの意識を他の物に逸らす為に話題を変える。プラナとガルダーも便乗して話を切り替えると、リサも表情だけ変えて彼等の話に混ざった。
一方、ギルドの動きに関しては、リサから話を聞いてすぐに緊急依頼を貼り出し、ギルド職員と星3冒険者達でハグリン樹海の捜索、及び人攫いの捕縛に向かった。
だが、まだ捜索途中であり、一般冒険者には情報は開示されていない。
一応、被害者のリサには紛失した武具の話は来ているが、見つかってはいないそうだ。
リサの武具以外にも、消えた人攫いが手にしていた物全て、あの場所から消えていたらしい。
そして、先日テリに辿り着いたギーズィ達の情報を得て、捜索範囲を拡大しつつ、他のギルド支部にも応援を出して貰っているそうだ。
それに加え、フィリア王族領とカガネラ王族領の領主にも話を伝え、騎士団の派遣も望めるとの事だ。
そこまで話が大きくなったと言う事は、樹海の中で何かが見つかったのだろう。冒険者達はそう噂しているが、事実その通り。
捜索開始から10日程経ち、ギルドに帰還した捜索隊の者達が、小屋にある監禁部屋を見つけ、その中で幾つもの骨や腐肉を発見したと報告した。
そこから更に10日程経ち、冒険者達と入れ替わるように騎士団がハグリン樹海の探索に赴き、それ以降、冒険者の方には情報は流れてこなかった。
冒険者達は最初の内こそ、その話で盛り上がっていたが、騎士団が引き継ぎ情報が途絶えた事で徐々に興味を失い出し、捜索初日から30日程経った今では、誰もその話をする者は居なくなった。
ヲルガも、プラナも、ガルダーも、リサの事もありその話を口に出す事は無かった。
ただ1人、リサだけはあの日の出来事を、黒髪から覗かせる灰色の目を時折思い出しては、顔を顰めていた。
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「細剣に変えてから随分経つが、やっぱり最初から細剣を持たせるべきだったな」
細剣を軽やかに振り回しながら黒髪を靡かせるリサの横で、ヲルガは腕を組みながら頷く。
「1年も経てば細剣じゃなくても使い熟せるよ。だって、あんなに剣振りしたんだから」
そう言いながらリサは細剣を腰にぶら下げた鞘に収め、両腕を腰に置くと、ない胸を張った。
「あんだけ剣振りしたのに筋肉つかないのは、もう才能だよな」
全く成長してないその胸と腕を見ながら、ヲルガはケラケラと笑って馬鹿にする。
「う、うるさい!剣は野蛮だからこれで良いの!私は魔法をメインで使うんだから!」
頬を膨らませながら空中に氷で出来た剣を生成すると、炎生成で生み出した火球を魔法操作で動かした氷の剣で切り刻み、ドヤ顔を見せた。
「あ〜〜……その事なんだがな」
すると、ヲルガは気まずそうに頭を掻きながら、ゆっくりとリサから視線を逸らす。
「どうしたの?」
首を傾げながら言葉の続きを待つリサは、ハッとした表情を浮かべると、思った事を口にする。
「分かった!こくはーー」
「ーー違うわ!ったく……。あのなリサ、つい先日、俺は星4冒険者に昇格しただろ?」
「うん。凄いよね〜、テリで他に居ないもんね」
ヲルガの言う通り、つい先日、昇格依頼を達成したヲルガは星4冒険者となり、ギルドから一目置かれる存在になったのだ。
星4冒険者は星3までとは違い、ギルドから名指しで依頼を渡される事もあるらしく、プラナとガルダーが星4へ昇格すれば、今と比べ物にならない程忙しくなる。
「そうだ!俺は凄い!……だがな、そうなると、星2下位のリサとはパーティが組めなくなるんだ。知ってるだろ?星4下位からは、星3以上としかパーティが組めない事」
星4下位からは、星3と比べて依頼の難易度は桁違いに上がる。星3が何度も仕留め損ねた歴戦の相手や大型の魔物、更には飛行系の相手をすることになり、必要な戦闘スキルや知識も格段に増える。
その分報酬も格段に上がるのだが、危険性を考慮し、尚且つ人材を腐らせない為に、星4冒険者は星2以下の冒険者とパーティを組む事を禁止されているのだ。
「それと、こっちのが言い辛いんだが……このままのリサでは星3に上がる事はできない」
「なっ!何で!?確かに腕っぷしは無いけど、魔法は使えるんだよ?」
「その魔法ってのが、生成魔法でしか無いからだ。ギルドのさだーー」
「ーーそんな!だったら、私とヲルガと戦ってる所を、グラブさんに見せれば良いじゃん!」
声を荒げて抗議するリサに対し、宥める様に両手を前に出すヲルガは、言い掛けた言葉を再び伝える。
「話を聞けって。グラブさんもリサが魔法を使って戦えるのは知ってる。だが、ギルドの定めた基準ってのがあるんだよ。魔法士であれば、攻撃魔法をどれ位の威力で使えるか……とかな。星2の昇格試験は野営と中型魔獣討伐だっただろ?星3はそれより難しい物になる」
「じゃあ……攻撃魔法を覚えれば良いんだね?」
「そうだ。だが、攻撃魔法ってのは教えてもらう相手が肝心だ。そこらに居る独学の魔法士より、基礎から学び、色々な人から得意な分野の魔法を習った方が、効率が良い。……そこで、だ」
ヲルガは軽く息を吐くと、リサの両肩に手を置いて真っ直ぐに瞳を見つめると
「……告白?」
「だから違う!ーーーーリサ、帝都の魔法学校に行って、魔法を学ぶ気は無いか?」
それは、リサにとって告白よりも衝撃的で、物凄く魅力的なお誘いだった。
魔法学校。リサも、そういった施設がある事は聞き及んでいた。簡単に言えば魔法を学ぶ為の専門学校である。
世界全体を見た時の学校数はそこまで多く無く、入学できる者は少ないとは言え、卒業出来れば魔法士として引っ張り凧になれる程の技術を得られる場所。
そして、グリーダ帝国の帝都には〈シオン魔導学校〉と呼ばれる、大魔道士シオンが創設した有名な魔法学校が存在する。
だが、入学する為には多額の金が必要であり、駆け出し冒険者であるリサにとっては、無関係の場所だ。そう、先程まで思っていた。
「て、帝都の魔法学校って……シオン魔導学校?」
「そうだ。3ヶ月後に入学試験がある。だからリサ、決めるなら今しかない」
「え、い、いきなりだね……でも、魔法学校ってかなりお金掛かるでしょ?そんなお金用意出来ないよ」
「ふふふ……ハーハッハッハ!それには心配及ばんぞ!それ位の端金、幾らでも用意出来るわ!」
リサのその言葉に、ヲルガは高笑いしながら胸を張ると、鼻を空に伸ばしてニヤリと笑う。
「ええ!?いやいやいや!だとしても!私、ヲルガ達に恩返し出来てないのに、更に学校分のお金まで……私……」
リサは今まで受けてきた恩義を返せていないと、泣きそうになりながら言葉を詰まらせた。
「いや、これはリサに対する投資だ。俺達のパーティには魔法士が居ないから、それを育てる為の資金だよ。簡単に言うとだな、魔法学校に行けば、俺達と長年パーティを組むことになる。……嫌か?」
ヲルガの悲しそうな目を見たリサは、そのままヲルガに抱きついて胸に顔を埋める。
「ううん!寧ろそれで役に立てるなら、一生ヲルガ達のパーティについていくよ!……でも、本当に良いの?」
そして、ヲルガの顔を見上げるリサの頭を撫でる。
「ああ、プラナとガルダーの3人で話し合って決めた事だ。逆に、嫌って言っても連れて行くつもりだったがな!」
ケラケラと笑い出すヲルガから「もうっ!」と言って離れながら顔を赤くするリサの頬は、太陽の光をキラキラと反射させていた。




