リサちゃん、ギルドに伝える。
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リサを中心に広がるガーベラの花びらから避ける様に、不審な男はその場から飛び退くと、すぐ近くの木の枝の上に乗る。
「おぉ、危ないねぇ。おじさん、灰になって消える所だったヨォ。でも良いのかい?お嬢さんを守ってくれた男達を燃やしちゃってさぁ」
そう言いながら自身の下に転がっている2人の男を指差した不審な男は、リサの隣に座り込むビリソウを見て首を傾げた。
「んん?どうして燃えていない?ふぅむ……」
顎に右手を当てながら、腿に付けたベルトにもう片方の手を伸ばし、投げナイフを取り出すとビリソウに向かって投擲した。
だが、その投げナイフがビリソウに届く前に、金属部は音を立てて蒸発し、それ以外は煤になって空気に溶ける。
「…………この熱気の中、普通に居られるとなると……この魔法はおじさんにしか効かない様だねぇ。そんなに嫌われてるなんて、おじさん悲しいヨォ」
不審な男は分かり易く嘘泣きを見せると、ケロリと表情を戻してその場に立ち上がり、リサを一瞥する。
「良いなぁお嬢さん、その力、本当に良い。今度は姿を変えて友好関係を作るとするヨォ」
そう言い残して、不審な男は木の枝を伝ってその場から消えた。
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ゴゥゴゥと音を立てて首筋から青色の炎を吹き出すリサは、不審な男がこの場から消えるのを確認するが、それでも尚生み出した炎を消す事は無かった。
大きく開いたガーベラの花びらは冒険者達を包み込み、大量の煤を巻き上げながら周囲に闇夜とは別の帳を降ろす。
暫くした後、その煤の膜は弾け飛び、ガーベラの花びらがリサを覆う様に閉じてから、足元に吸い込まれる様に消えた。
ガチャガチャと、金属のぶつかり合う音が聞こえ、重なり合っていた2人の男が立ち上がると、呆然と自分の身体を見つめる。
それを見たビリソウは口を何度も開閉させると、足を震わせながらその2人……ザザとドルトリウスの元へ駆け寄って声を掛けた。
「ザザ!ドリー!い、生きてる!生きてるのか!?」
その言葉に反応する様に身体をビクリと動かす2人は、徐に振り返りながら嗚咽を堪えて掠れた声を出した。
「ビリソウ……俺……腕が、治ってる……」
「俺は……分からないが、生きてるんだよな?」
「あぁ!あぁ!生きてるんだよ!2人と……リ、リーダーとジジは!?」
ビリソウがそう言うと、丁度そばの草むらが揺れて2人の男が姿を現した。
「生きてますよ……僕も、リーダーも。しかも、リーダーの肩の傷も治ってます」
「おうよ、何故かこの通り綺麗さーーおいおいおい!松明地面に置いてんじゃない!草木が燃えるだろうが!」
リーダーは慌てて投げ捨てられていた松明を拾い上げると、チリチリと燃える雑草に水生成で水を掛けた。
そして、その場に立ち尽くしながら、大量の灰を自分の周囲に舞い上げる少女を見詰めると、彼女の元に歩み寄る。
「なぁ君、その灰はどうした?しかも、さっきの男は何処に?」
「…………」
「どうした?一体何が……おいドルトリウス、ザザ、ビリソウ、何が起こった?」
「いや、俺達2人は気を失ってたから何も……」
「ごめん……僕も半分気を失ってたから……ただ、男がジャンプした瞬間に辺りが火の海になったのを見た……けど、よく分からない」
「となると……高度な幻覚魔法?いや、他の精神系の魔法か?」
リーダーは顎に手を当てて首を傾げると、何も喋らないリサに対してもう一度声を掛ける。
「なぁ君、良い加減話してくれないか?てか、その目の色どうした?」
「…………ーーーーあ。(あれ?あれ?うわっ!何この灰!)」
「何言ってんだ?もしかして、精神魔法の影響下にあるのか?……どうしたものか」
「うぇ!?え?幻覚?……大丈夫、私普通に戻った!だからその水生成降ろして欲しい!」
リサは慌ててリーダーの目の前に浮かんだ水球を見ながら、手をバタつかせて正気である事を伝える。
「良かった……でも、その様子じゃあ、さっきの出来事も見てなかったのか」
「ごめんなさい、必死で見てなかった。何があった?」
「俺達も気付いたらこのザマさ。君と同じ……って名前は?俺はギーズィ」
「リサ。ギーズィ、よく分からないけど即時帰還するべき。あの男の存在、ギルドに報告する」
「そうだな。おいお前達!目ぇ覚ましてすぐに悪いが出発するぞ!」
ギーズィの掛け声と同時に、陽が昇り始めて辺りを赤色に染め上げた。
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樹海を歩いて約2時間。ギーズィ達のパーティと共に痕跡を追って樹海を抜け出すと、リサはリーダーであるギーズィに今いる場所と方角を尋ねる。
「ギーズィ。今の場所と方角を尋ねたい。正確に分かる?」
「分かるぞ。ジジ、地図を出してくれ」
ギーズィはジジから地図を受け取ると、それを広げてリサに見せる。
「この印が俺達のいる場所だ。それで、あっちがトリト村でその北がテリだ」
「……分かった、私テリまで走る。私を救ってくれた事、感謝する。お礼はいつか」
そう言うと、リサは彼等に手を振って樹海に沿って北東に走り出した。
(それにしても、幻覚魔法?だっけ。あれは2度と受けたく無いな〜)
リサは走りながら、先の戦闘について考える。
幻覚魔法、ギーズィがそう言った魔法の事をリサは知らないが、見た光景と文字通り幻覚を見せる魔法である事は、容易に想像出来る。
だが、アレが本当に幻覚であるのかと、首を傾げる。
骨の砕ける音、血の鉄臭い匂い、腕が飛び、首が飛び、命が散る。あの全てが、本当に幻覚だったのか。
何方にしても、彼等は自分を救ってくれた事には変わりない。それなのに、あの態度は良く無かったと、今になってリサはそう思った。
(助けてくれた事、ちゃんとお礼を言うべきだったなぁ。せめて、トリト村まで送って……って、あの村に顔を出したら村長になんて言われるか……)
そう考えると、彼等について行かなくて良かったと考えて、足の速度を早める。
そして、走る事丸一日。太陽が昇り切った頃、漸くリサは自分が樹海に踏み入れた場所を見つけると、草原の道を辿ってテリの町に辿り着いた。
そしてすぐにギルドの門を潜り、一般受付に居るミーファに話を掛ける。
「あれ、リサちゃんだ。今日はどうしーー」
「至急伝える事がある。ギルドマスターを呼び部屋を用意すべし。意訳石も求む」
「…………承知しました。リサ様、此方へ」
ミーファは態度を急変させると、スイングドアを開きリサを奥の扉へ誘う。
その後の用意は早かった。リサを遮音の魔道具がある部屋へ案内すると、ギルドマスターを呼びに行き意訳石を用意する。
『遮音の魔道具の作動を確認。リサ様、お話願えますか?』
『ミーファ……なんで俺まーーいえ。リサ、話を聞こう』
リサは樹海で起きた事をミーファとグラブに事細かに伝えた。
ハグリン樹海で不審者達に襲われた事、小屋の地下に監禁部屋がある事、不審者達の親玉である黒髪灰眼の男の事。一応、自分を救ってくれた冒険者達の事も。
『……と言う事なの。その不審者さんは幻覚魔法?を使ってきて、凄く大変だった!』
『黒髪灰眼か。手配犯にはその様な男は居ないが……』
『幻覚魔法の使い手であれば、本来の姿とは別の姿の可能性も。であれば、人攫いの集団の方を調べ上げるべきかと』
『だがなぁ……リサの能力でソイツらはーーい、ご、ごめんリサ!そんなつもりじゃ』
『ううん。辛く無い訳じゃ無いけど、あの人達にも原因はある訳だから……それに、犠牲になったのが私で良かったよ』
リサは作り笑いを浮かべると、ソファから立ち上がった。
『話は全部伝えたから、私は少しお休みするよ……』
『そうか。貴重な情報感謝する。ミーファ、リサを宿屋まで送ってやれ』
『御意。リサ様、宿の部屋までお送り致します』
そう言いながら出ていく2人を見送ったグラブは、再び机に向き合うと、考えを整理する様に独り言を呟き始めた。
『ハグリン樹海に行き、不審者に誘拐された後、樹海の南東辺りから出てテリまで戻ってきた……?たったの2日で?』
その疑問に答える者は居ない。聡明な彼女も、今さっき見送ったばかりだ。
『……それより、誘拐集団の調査が先か』
グラブは自分の膝の上に手を置きながら立ち上がると、遮音の魔道具を止めて部屋から出ていく。




