リサちゃん、町へ帰る。
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ガルダーの説教の後、時間は早いがそのままガルダーと不寝番を交代して数時間後。リサとプラナは陽が出る前に床から起きると、下に置いていた剣を腰に掲げ、ハンモックの片付けを始めた。
ヲルガとガルダーはそれを見ながら、沸かしていた茶を余ったコップに注ぎ、片付けを終えた2人に渡すと焚き火を消して、木炭と灰を小さいスコップで掬い上げると分けて瓶に入れる。
そして、リサとプラナが寝ている間に、ヲルガがマグボアの肉を燻して作った燻製肉を皆に手渡し、それを朝食にしながら、陽が出るのをのんびりと待っていた。
「リサ、その燻製肉は日持ちする様に作ってないから、残して半分ポッケに入れたりするなよ?」
「了解。ヲルガ、さっき何故木炭と灰、瓶に入れた?買取してもらう?」
「いいや、売るんじゃ無くてあげるんだ、木炭も灰も色々使い道があるからな。灰なんか特に良いぞ?肥料にも使えて、糞尿の臭いも消してくれる」
「ヲルガ賢い。私、また一つ賢くなった」
「だろ?あ、すまんガルダー、砂袋一つ持ってくれ。瓶がギリギリ入らん」
ヲルガは自分のリュックから砂袋を取り出すと、隣にいるガルダーに5kgの砂袋を渡して、空いたスペースに瓶を二つ入れる。
その後、丸めた毛皮を紐で軽く縛ると、リサのリュックの上に括り付けた。
準備を終え、最後にプラナが焚き火跡に水を掛けると、日の出と同時に4人はその場を後にした。
昨日来た時と同じ隊列で森を歩いているが、昨日と違ってプラナがガルダーに進む方向を指示しながら、道なき道を歩き続ける。
道中で見つけた小さくて赤い木の実を収集してから森を出ると、見慣れた草原の見慣れた道を歩き出す。
その頃には隊列も元に戻っており、ヲルガとガルダーが並んで先頭を歩き、プラナが殿を勤めている。リサはいつも通り隊列の真ん中だ。
今いる場所は町からかなり離れており、早朝という事もあって狩りをする冒険者の姿は無い。逆に、普段見かけない相乗り馬車や荷馬車が何度もリサ達の真横を通り過ぎ、道に車輪跡を残していく。
時折、馬車の御者がリサに向けて頭を下げるので、リサもニコニコと笑みを浮かべながら手を振って答えるが、何故頭を下げてくるのかは理解していない。
中には、態々馬車を止めてまでリサに頭を下げて、商品である甘味類を渡す者も居た。
御者に疎いリサはその行為が当たり前なのだと思い、お礼を言って受け取ろうとしたが、ヲルガとプラナが慌てて止めに入り、その者を追い払う。
戸惑うリサにヲルガは何故彼らが手を振り、リサに甘味を渡そうとしたのかを説明する。
「さっきの人もそうだが、手を振ってくる御者の殆どが商人だ。リサの服装や肉付き、歩き方なんかで、貴族の令嬢だと勘違いしてるんだ。さっきのも、『ウチの商品を御贔屓に』って意味だ。貴族じゃ無いのにそれを受け取ったら、騙した感じになるだろ?」
「そうなの?みんな、あれ普通、違う?町の人もくれる」
「おおおおい!初耳だぞそれ!知らん人から貰ったものなんか、危ないから食うな!」
「献上品食べる、信用の証。ミーファ言ってた」
「けんじょっ……!……そうだな、リサは何も悪く無い。……帰ったら覚えとけよミーファ…………!」
ヲルガは小声でミーファに対する怒り事を呟くと、右手を握りしめて青筋を浮かべた。
「何怒ってる?それよりヲルガ、馬車の隣歩く冒険者、あの人達も手を振ってた。あれも営業?」
「ん?あぁ、あれはリサが可愛いだけだろ。アイツら、絶対俺に嫉妬してるぜ!」
ケラケラと大声で笑いながら腹を抱えるヲルガを見て、プラナとガルダーは馬鹿言ってると目を細めた。
馬車の護衛をする冒険者。あの者達も、リサに顔を売ろうとしている事を、2人は気付いているからだ。
片や、小煩いケチなオッサン。片や、可愛らしい金持ちの少女。荷を運び、護衛するのであれば、どちらを雇い主に選ぶか聞くまでも無い。
とは言っても、商人からしか得られないコネや情報もあるし、貴族によっては気に食わなければ無礼討ちである為、結局の所、護衛依頼の雇い主の人柄は事前情報がない限り“運”である。
だが、それを知っている冒険者だからこそ、商人相手にも本物の笑みを浮かべて手を振る、物腰の柔らかい常識を知らなそうな少女は、護衛対象として理想的だった。
故に、ヲルガの言った「俺に嫉妬」という言葉も、あながち間違いでは無い。
リサが若干抱いていた違和感も、それが理由である。
リサを見て、テリに向かう護衛の冒険者は顔色が良くし、テリから来た護衛の冒険者は逆に雰囲気が暗くなる。その、少しの違和感の理由。
前者は運が良ければテリで護衛を受けられると表情を明るくし、
後者は、少し待てば少女の護衛を受けれたかもと自分を恨んだ。
だが、彼らの内情は、リサ以外の3人も気づく事は出来なかった。
何故なら、リサは同じパーティの仲間であり、護衛対象では無いから。彼らの考える事が、頭の片隅にも過ぎる事が無かったからだ。
数時間歩き続け、街に近づく程冒険者の数も比例的に増え、見覚えのある顔も幾つか見掛ける。
中には、前にリサとマグラビットの討伐法を見学した3人の姿もあり、ヲルガ達の姿を見つけると、頭を下げて声を上げる。
「お、ヲルガの兄貴!お勤めお疲れ様です!」
「リサお嬢さんもお元気そうで何よりです!」
「どうぞ!先程まで私が来ていた服です!お納め下さーー」
「ーー馬鹿か!早くその服着ろ!リサに変なモン見せんな!」
ヲルガは、下着1枚で自分の服を掲げて跪く男を殴り飛ばし、リサの前に視界を塞ぐ様に佇む。
「ねぇヲルガ、レディの私も彼の姿見えてるのだけど?」
「はぁ?寝言は寝ていブルルァ!」
ヲルガの顔面が歪な形に歪んだと思うと、奇声を発しながら肩からリュックを滑り落とし、先程の男性冒険者の比では無い勢いで体を回転させながら、放物線を描いて吹き飛んだ。
その姿に、他の冒険者2人は膝を笑わせて顔を急激に窶れさせると、震えた声で「プラナの姐御流石です」と頭を思い切り下げる。
リサとガルダーは最早何も言わない。ガルダーがヲルガのリュックを前に背負い、リサと共に無言で町の方角に歩き始める。
プラナは一度だけ鼻を鳴らすと、ヲルガを置いて2人の後を追った。
新種の魔物“煤人間”を単独撃破した噂は本当だったんだ。3人は口を揃えてそう言うと、自分達の狩りを中断して完全に伸びたヲルガを担いで町まで戻るのだった。
リサ達3人は町に着くとすぐにギルトへ赴き、一般受付で帰還報告を済ませ、買取受付で収集物と解体した肉の売却、木炭と灰の納品をする。
マグボアの毛皮は加工する必要がある為、解体受付にリサが持っていった。
「よぉリサ、今日はマグボアの毛皮か。で、ヲルガはどうした?」
「答えられない。直来る」
「そうか。……この毛皮、ある程度処理されてるな。ん?アイツ毛皮を燻しやがったな」
マグボアの毛皮を受け取ったカカライは、鼻先を動かすと顔を顰めてそう言った。
「うん。良くなかった?」
「いやまぁ……火は通ってねぇし、鞣す段階で匂いも取れるから問題無いが……しかも、下処理まで丁寧にしてあるしな。満額だが……納得いかん」
何が納得行かないのか理解できないリサは、取り敢えず満額ならそれで良いかと、頭を抱えるカカライを無言で眺める。
「マグボアの毛皮は燻した程度じゃ色は変わらん。状態も良いし、形もだ。さっきも言ったが、満額で小金貨1枚。丁寧に処理してくれてある分色を付けて、合計小金貨1枚と銀貨1枚だな。持ってけ」
「カカライ、感謝する。ヲルガも喜ぶ」
リサはカカライに手を振ると、隣の受付で丁度買取を終えたプラナの元へ行き、カカライから受け取ったお金を手渡した。
「カカライ、色付けてくれた」
「ラッキーね。ガルダー、もう戻れる?」
「あぁ、砂袋の返還も終わった。数も合ってて破損も無しだ」
「良かったわ。じゃあ、その分美味しい物でも食べましょうか。でも、その前に宿で体を拭きましょ。行くわよリサ」
「了解」
行きと比べ物にならない程、潰れて軽くなったリュックを背負い直し、3人はギルドを出ると、すぐ隣の宿屋の自室に戻り、桶に張った水と手拭いで身体を綺麗に拭いた
その後は3人で近くの食事処に足を運んで、その日は1日ゆっくりと過ごすのだった。
次の日、右頬を腫らして不機嫌なヲルガに会うと、3人とも気まずそうに「忘れてた」と呟いた。




