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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサちゃん 冒険者編
26/95

リサちゃん、不寝番をする。


 月が浮かばない星空を見詰め、幾つもの輝きを瞳に映しながら、静かに流れる時間を過ごし、パチパチと薪の爆ぜる音を聞いていると、あの夢の事を思い出す。

 あれから約1年、冒険者になったあの日以降、あの不思議な夢を見ていない。

 そもそも、私はこの1年寝た記憶すら無い。気絶をした事も無く、死んだ事すらも……。

 あの夢は何だったのだろう。咲き誇るガーベラに薪の音、木と肉の焼けた芳しい香りに、鮮やかな赤い羽を持つ鳥。


 夜空に舞う赤を纏った黒い灰は、端を白く散らせながら気温を感じない夜空に溶けていく。

 星が、また一つ増えた。そう見えたのは、灰が消えて姿を現したから。


 ふと、視線を落として目の前に座る2人の男女を見ると、彼等も此方の視線に気付き、ニコリと笑うと自分達の手元に視線を戻して作業を再開する。


 薪と肉の焼けた匂いに包まれた森の空き地。少女は焚き火の中のガーベラを見詰め、それを手折ると夜空に掲げた。

 ガーベラの花びらが赤い鳥の姿に変わり、天高く飛び立つ姿を見た少女は、満足した笑みを浮かべると、中断していた作業を再開する。


ーーーーーーーーーー


 夜は暗闇であり、一寸先も見えない暗黒の世界である。殆どの人間がそう感じ、夜から逃げる様に灯りを求める中、リサだけはこの世界を有難いと感じていた。


 普段の色鮮やかな世界とはかけ離れたモノクロの世界。背景に溶け込んだ生物達はその個性を失い、油断している姿が一方的に見える世界。

 だが、リサ以外にもこの世界を待ち望んでいた生物がいる事を、リサは理解している。

 正面の木の枝にぶら下がり、此方を見詰める長い蛇を見詰めながら、互いを観察し合う。

 蛇はどう感じているのだろう。蛇は何を考えているのだろう。そんな事、リサには知る由も無い。

 でももし、魔物や魔獣、動物達の声が聞こえるのだとしたら、彼等は何を話しているのだろうか。

 リサは、数ヶ月前まで使っていた意訳石の事を思い出しながら、手元に火と土で小石を作り出してから、更に魔力を込めると、興味を失った様に地面に投げ捨てた。

 そして、再び時間を潰す為に氷を生成して熱湯を注ぐ作業に戻る。


 ヲルガはそんなリサを横目に、乾いたマグボアの皮を自分の膝に押し当てながら、脂肪の膜を丁寧にナイフで削ぎ落としていく。その手付きはかなり慣れたもので、小一時間も経たずにその作業を終えると、長い木の枝を更に紐で結び合わせ、リサと同じ位の長さの枝を4本作り上げた。

 そして、皮の手足部分にその枝を括り付けると、焚き火の上に来る様に毛を下側に向けながら、反対側の枝先を地面に突き刺す。


 その頃にはプラナの脂を煮る作業も終了しており、焚き火から鍋を退かして地面に置くと、木の板を被せてその上に石を乗せる。


 手持ち無沙汰になったヲルガとプラナは、リュックから茶葉を取り出すと、リサに熱湯を注いで貰って茶を沸かし、リサが生成した氷をコップに入れて茶を注ぐ。

 

 3人で茶を啜り終わると、プラナは溶けたマグボアの脂を布で漉しながら瓶に入れ、2Lの瓶2本を脂で満たしたら風生成で粗熱を取り始める。

 ヲルガはとうとうやる事が無くなってしまった様で、自分も魔法の練習をと思い、小声で「〈水生成〉」と言いながら地面に手を翳し始めた。


 余談であるが、リサとプラナは無詠唱で生成魔法を発動している。理由は、生成魔法の扱いに慣れて、声に出さなくともある程度イメージが出来るからである。

 これは、他の魔法を使う者達も出来る事だが、よく魔法士が戦闘中に魔法名を発している姿を目撃する。あれは、周りの者に“私は今からこの魔法を発動します”という合図なだけで、伝える必要がない場合は無詠唱が基本である。

 寧ろ、言語が通じる敵の前で魔法名を発すると、周りの者から非難される事もある位だ。


 魔力をかなり使い疲労感を感じ始めたリサは、魔法の練習を止めると再び夜空を見上げながら、周囲の音に耳を澄ませて足を揺らし始めた。


 ただボ〜ッとして空を見上げ、何もしないで時間が過ぎ去るのを待つ。リサは元々そういう時間を好み、あえてその様な時間を過ごす為に、予定を空ける事もある程だ。

 それは瞑想に近い。何も考えず、ただ無心に。時の流れすら忘れて現世の情報を遮断する。

 他人から見たら睡眠と大差無いそれは、事実睡眠と変わりない。


 だがそれは、豊かで平和な元の世界だから出来た事で、憎しみと破滅が蔓延るこの世界は、その行為を許してはくれなかった。


 背後の茂みが揺れる。その瞬間、リサの意識は覚醒し、慌てて立ち上がりながら剣の柄に手を掛けてヲルガの顔色を伺った。


 ヲルガもリサと同様、その場に瞬時に立ち上がるとリサと同じ構えを取りながら、ガルダーの方に小石を投げて合図を送ると、それに気が付いたガルダーが目を覚まし、下に置いていた剣を手に取る。

 プラナは抜刀して、右手だけは焚き火に向けている。そして何故か3人とも片目を瞑っていた。


 リサは両目で茂みを注視し、草葉の隙間から見えるシルエットを確認すると、見たものを後方の2人に伝える。


「ウルフ2匹、片方小さい。多分親子」


「……スズルガラ山にウルフはいないと思っていたが……油断したな。まぁ、これだけ良い匂いさせてたら寄ってくるよなぁ」


 自分の額に拳を当て、溜息を吐きながら失敗したと嘆くヲルガは、リサにゆっくり此方に来る様指示して、リュックに入れていたマグボアの肉を取り出し、茂みに向かって投擲した。


 その様子を隣で見てたリサは、目を輝かせながらヲルガを見詰め、自分もやりたいと懇願する。


「ヲルガ優しい。私もウルフ、ご飯あげたい」


「優しさじゃ無い、お互いに戦闘を避ける為だ。向こうも、俺達が武装していると臭いで分かっているから、飛びかかって来なかったんだ。武具が無かったら喰われてるぞ?」


「無駄な殺生避ける。尊敬」


 大きい方……恐らく親ウルフは、投げられた肉の匂いを懸命に嗅ぎ、それが献上された物だと認識すると、肉を咥えて子ウルフと一緒にリサ達から遠ざかっていった。


 それを、音と気配で察知したヲルガ達3人は構えを解いて納刀すると、それを見たリサも柄から手を外す。


「行ったか。にしても、よく見えたなリサ。……って、あぁ悪いガルダー」


「こっちこそ悪いな。……ったく、間の悪いウルフだ。一番怠い時に起こされた」


 ガルダーは悪態を吐きながら大きく伸びをすると、剣を元の場所に戻して再びハンモックの上に寝そべった。

 その後、話を続ける様にヲルガが小声で


「で、話を戻すが、よくウルフが見えたな。リサは夜目が利くのか?」


 とリサに聞いた所、プラナはリサと最初に会った時の事を思い出して、それを口にした。


「そう言えば、リサと最初に会った時、夜の森の中を普通に歩いていたわね。……あれ、今考えるとおかしいわよね」


「何がおかしいんだ?あの時雲は無かったし、夜目が利けば星明かりの下でも動けるだろ」


「そっちじゃなくて、リサの持ってた魔石の方よ。あの時はエンチャントか魔道具生成で光らせていたと思ってたけど、リサにそんな事出来ないわよね」


 プラナが訝しんだのは、リサの夜目では無く、リサが持っていた青白く光る魔石。

 約1年、一緒に暮らしていたリサが、ああいった高度な魔法は使えないと分かっているプラナは、その時の出来事を改めて訝しんだのだ。

 その話にヲルガも「確かに」と頷き、当時の状況を思い出しながら首を捻る。


「そういや、あの魔石返ってこなかったな。リサは拾ったって言ってたし、もしかしたら魔法陣が描かれていたのかーー」


「ーー無いわね。大きい方には傷一つ無かったし、小さい方にもそういった形跡は無かったもの」


 2人の頭を悩ませる姿に、リサは驚きを隠す事なく、その2人に対して自分の抱く疑問をぶつけた。


「2人共、何故疑問抱く?魔石、触ると光る。当たり前」


 その言葉に、2人は夜の森の中だという事を忘れて、大きな声でその言葉を否定した。


「いやいやいやいや!触っても魔石は光らないからな!?多分、その魔石に細工されてたんだろ!」


「そ、そうよね、私が見落としていただけの可能性が高いわ。……そうだ、マグボアの魔石をリサに持たせてみれば良いじゃない。そしたら、光らないって分かるから」


 ヲルガは「そうだな!」とケラケラ笑いながら、リュックから小石サイズのマグボアの魔石を取り出し、差し出されたリサの掌の上に乗せる。


「…………ね?触れると光る。当たり前」


 青白く照らされた顔を互いに見合いながら、ヲルガとプラナはキョトンとした顔をして、互いのアホヅラに吹き出して笑い始めた。


「ブアァハハハハハ!プラナお前、なんて顔してんだよ!」


「ブフフフフフフ!ヲルガ、貴方こそ、その間抜け面は何よ!」


 互いの表情を見ながら、突然腹を抱えて笑い出す2人を見て、若干の恐怖を覚えたリサは顔を引き攣らせながら、2人に近寄る大きな影を見て更に恐怖する。


 瞬間、2人の頭部に槌が振り下ろされ、骨と骨が激しくぶつかり合う音を森に響かせると、涙を浮かべた2人が自分を殴って正体を睨み付けた後、顔を引き攣らせて乾いた笑い声を上げた。


「「アハハ」」


「お前達…………」


 怒気を孕んだ声の主……ガルダーは、2人を睨みつけながら大きく息を吸うと


「騒がしいんじゃ〜〜〜い!」


 周囲の音を掻き消さんとばかりの大声を上げ、2人を叱りつけた。

 その爆発音に似たガルダーの雄叫びに、周囲の生き物は慌ててその場から逃げ去り、森全体がそれに合わせて騒ぎを起こす。


 そんな事をお構い無しに2人を叱るガルダーを横目に、光る魔石を膝の上に乗せて夜空を見上げるリサは、一度だけ正面の木の枝に目を向けると、再び夜空を見上げた。


 此方を見詰めていた蛇の姿は、もう何処にも無い。


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