リサちゃん、森でお肉を食べる。
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明日の投稿は12時と18時です。
「へぇ、魔物か。……で、その魔結晶か」
ヲルガは担いだマグボアを降ろした後、やっと落ち着きを取り戻したプラナとリサに話を聞き、焚き火の真横に置かれている複数の紫色の水晶を見て呟くと、その魔結晶と呼んだ水晶を手に取った。
「あれ?これ、核じゃ無くて侵食した部分か。核は何処にあるんだ?」
プラナは「さぁ?」と首を傾げると、水生成で顔を洗っているリサに声を掛けて、魔物の持つ核について尋ねた。
「リサ、この魔物の核はどうしたの?」
だが、核やら侵食部やらを知らないリサは、濡れた顔を髪を風生成で乾かしながら首を傾げ返す。
「核、魔物、分からない。教えて」
「魔物ってのは、魔素で肉体を創り出した凶暴な生き物の事だ。今回のは、魔素に肉体を侵食された魔獣……“魔物落ち”だったらしいがな。で、その魔物にある魔素の濃い魔結晶を核と呼ぶんだ。額から紫色のやつが生えてなかったか?」
魔獣や核については把握した。だが、ヲルガの言う額から生えた魔結晶についてだけは、把握する事が出来なかった。何故なら、リサが見た時にはウサギの頭部は潰れ、額が何処にあったかさえ分からない状態だったからだ。
「私が見た時、もう頭潰れていた。角も見ていない」
「いや、核はかなり硬いから簡単には砕けないんだが……プラナとガルダーは死体を見たんだろ?その時付いてなかったのか?」
「いや…………まてよ?もしかすると、頭が潰れた拍子に額の魔結晶が吹き飛んだ可能性があるぞ。流石に鞘だけでは頭は抉れんからな」
「弱ってた個体ならあり得るわね……魔素化が進行し始めて、肉体との結合部が緩んでたのかも」
2人は、魔物の死体の頭部を思い出しながら、何故魔石が無かったのかを考察し、一つの結論に至ると、肩を落として溜息を吐いた。
「あの感じだと、遠くに飛ばされていても不思議じゃないわね……はぁ」
「今日は森の中で核探しか……仕方無い。プラナ、行くぞ」
「え、嫌よ!……ヲルガ!お願い代わりに探してきて!今度美味しい物奢るから!あ、セクハラよ!離しなさいガルダー!」
ガルダーは重い腰を上げると、駄々を捏ねるプラナの腕を引っ張り上げてから脇に抱え、そのまま先程プラナ達が来た方角の森の中に姿を消した。
その姿を見て、申し訳無さそうに2人を見送ったリサは、ヲルガに詳しい説明を求めた。
「ヲルガ、私失敗した?2人、尻拭いをしているの?」
「ん?何も失敗してないぞ。寧ろ、プラナを守ったんだろう?護衛任務成功じゃないか!」
「でも、プラナ暴れてた。ガルダーも嫌々何処か行った」
「核をその場に放置しておくと、そこらの草木や動物が変容するんだ。だから核を回収しに向かったんだが、まぁあれはプラナの失態だな。小型の魔物は核がどっかに飛ぶ事があるのに、アイツはそれを忘れて駆け出してきたんだから」
そう言いながら、腰に差した解体用のナイフを抜き取ると、ヲルガはマグボアの解体を始めた。
既に内臓は抜かれており、血抜きまでされていたマグボアを、近くの木の太枝に逆さ吊りにして、素早く皮を剥ぎ取るとリサに水生成を頼み、血や汚れをしっかりと洗い流した後、余らせた足の皮部分を木の幹に打ち付けて干し始める。
その後、足先から順に骨から肉を剥がしていき、更にそこから脂身と赤身に切り分けていく。
その間、リサはやる事が無く、焚き火を焚べたり、近くに落ちている枝を拾ったりしながら時間を潰し、今は風生成でマグボアの毛皮に風を当てている。
チリチリとしたむず痒さに首元を掻きながら、目の前に積まれていく肉の山を見て涎を垂らしていると、ヲルガに笑われて顔を赤く染めた。
「もうすぐ解体終わるから我慢しろよ?それにアイツらもそろそ……って、噂をすればだな」
あれから3時間弱、肉の解体を終えたヲルガの元に、核を持って疲れ切った顔をしたプラナと澄まし顔のガルダーが帰ってくると、解体された肉を見て歓喜の声を上げた。
「あぁ……!私の苦労が報われるわぁ。ねぇ、早く食べましょうよ!」
「鉄串持ってきた。早く準備するぞ」
解体し終え、骨を地面に埋めるヲルガを横目に、リサの前に積まれた肉達をどんどん串刺しにしていく2人を見て、リサも手をあげて喜ぶ。
その後、骨を埋め終えたヲルガの手をプラナが水生成で洗い流すと、先程採取したキノコ類も鉄串に刺していき、焚き火の周りに突き立てていった。
そして、次々と焼き上がった肉達に、先程採取した香草と持参した塩を振り掛けて、4人は食事を堪能した。
食事を食べ終えた頃にはすっかりと陽も落ち、リサの視界に赤く照らされた世界とモノクロの世界が出来上がった頃、4人で焚き火を囲みながら明日の事について話し合う。
「明日は夜が明けると同時に出発。そのまま森を出て、昼頃には町に着く予定だ。マグボアの毛皮と脂も手に入ったし、道中で狩る必要も無い。プラナの要望通り、砂袋も捨てなくて済むぞ」
「それは良かったわ。で、不寝番の順番はどうするの?」
「最初はリサとプラナで良いだろ。で、ガルダーと交代だな。俺は通しでいく」
「了解だ。なら、先に寝るとしよう。時間になったら起こしてくれ」
ガルダーはそのまま焚き火から離れると、ハンモックの掛けられた木の根元にプレートメイル以外の武具を外して置くと、ハンモックに寝そべり、すぐに眠りに入った。
人間とはそんな一瞬で眠りに就ける物なのかと、リサは驚愕の表情を浮かべるが、ヲルガとプラナから見たら、冒険者として必須の技術であった。
冒険者だけでは無い。街や城を守る衛兵や、戦地で戦う兵士にとっても、必須の技術である。
だが、平和な世界からやってきたリサにとっては、とても真似することの出来ない苦行だ。そう考えた時、リサは自分の特異体質に喜んだ。
ニコニコとして喜ぶリサを不思議に思いながらも、ヲルガとプラナは殆ど会話をする事がない。
ガルダーが寝ているという理由もあるが、単純に夜の森で声を出す事が危険だと、体に染み付いているからだ。
人間は大した脅威では無い。問題は、夜目利く夜行性の魔獣や、特別な感覚器官を持った魔物達。
彼等は此方の発する声に導かれて集まる為、同じ場所で普通に声を発し続けるだけで、魑魅魍魎に囲まれる事態に陥ってしまう。
ただ、物音程度は枝葉の擦れる音が掻き消してくれるので、2人は黙々と自身の作業に没頭していた。
ヲルガは、乾いた猪の皮から脂肪や肉を削ぎ落としていた。
プラナは、ヲルガが切り取ったマグボアの脂身を持参した深い鍋でグツグツと煮込んでいる。
リサは、そんな2人を見ながら生成魔法の鍛錬を行う。
生成魔法とは言っても四大元素と呼ばれる姿形の無い元素では無く、四大元素を複合させた形ある物の生成……物質生成の鍛錬を行っていた。
今行っているのは水と土の複合である“氷”の生成。物質生成の中では比較的簡単な部類に入る氷生成は、使えると何かと重宝させる有用な物だ。
物質生成の中で氷生成が簡単な理由に関しては、水と土が不定形であるものの、元素とは名ばかりの“物質”であり、氷生成はそれを編み合わせて形を整えるだけの代物であるからだ。
とは言っても、誰しもが簡単に使える物では無く、そもそも、同時に別元素の生成魔法を編む事自体が難しいので、一般的に使える者は少ない。
だが、リサは幸いな事に魔法を編む能力に長けており、複数の元素魔法を同時に編む事を、難なくこなす事が出来た。
そして今、右手で作り上げた氷の容器に、左手で生成した熱湯を注ぐという作業を、淡々と熟している。
氷を生成し、熱湯を注ぎ入れ、溶かす。この繰り返し。
氷に熱湯を注げば溶けるのは当たり前だろう。と、魔法を知る前のリサであれば答えていた。だが、魔法で生成した氷は、注いだ魔力量によって強度を増し、熱しても溶ける事が無いのだ。……限度はあるが。
リサは魔法を編む事には長けているが、魔力を注ぐ行為自体は一般より苦手である。それもその筈、リサが魔法を知り、使い出したのはつい最近の事なのだから。
それ故の鍛錬。その為の鍛錬である。
ふぅ、と一息入れるリサは、自分の首から出る灰と焚き火から出る灰が混ざり合い、天高く舞い上がるのを、星空を眺めながら見詰めていた。




