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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサちゃん 冒険者編
24/95

リサちゃん、魔物に会う。

いいねと評価ありがとうございます。


 来た道を戻る様に森の中を進むプラナとリサは、殆ど会話する事なく、顔すらあまり合わせない。


 仲が悪い訳では決して無い。普段であれば、食べ物の話や今日起きた出来事、前にも聞いた話や下らない話を永遠と続けられる程、かなり打ち解けあっている。

 だが、今はそう言った会話をする余裕が、リサには無かった。


 護衛という大役を任され、尚且つ見慣れない森。本来であれば最低でも2人で護衛をする所を、大した場所では無いからと、1人で護衛をさせられていた。


 それらの要因が合わさった結果、リサは過剰なまでに周囲を警戒し始め、プラナの話に空返事で返すを繰り返し、とうとうプラナが話し掛けるのを諦めた。


 ここでもし、大声を出して驚かせたらどうなるのだろう。と、プラナは邪念を抱くが、それをしてしまうとリサに嫌われ、尚且つヲルガ達に〆られる未来が見えたので、その考えを握り潰す。


 だが、少しでもリサの緊張を解いてやりたい。そう考えたプラナは、その場で立ち止まると後ろを振り返り、いきなりリサに抱きついた。


「(ななな、何で!いきなり何で!?いきなり驚かさないでよ!)」


「アハハハハ!リサったら、また母国語が出てるわよ!ほら、そんなに緊張しないで。訓練なんだから、もっと気楽で良いのよ」


 ペチペチと、軽くリサの背中を叩いた後、プラナはリサから離れて和かに語り掛ける。


「今回初めての護衛だし、1人だものね。緊張するのは分かるわ。だけど、体に力を入れ過ぎていると咄嗟に動けないし、話を聞いていないと作戦を聞き逃すわよ?」


 プラナの優しい、励ましに似た指導を聞いたリサは、一度その場で深く深呼吸をした後、自分の頬を両手で軽く叩くと「よし」と、胸の前で両拳を握り


「プラナ!もう大事ない!私護衛遂行する!」


 プラナに元気良く意気込みを伝えた。


「その調子よリサ!後、大事ないじゃなくて、大丈夫の方が一般的よ」


 その意気込みに笑顔で答えるプラナは“変人”から教わったであろう、リサのその独特な言い回しを訂正した。


 先程までの雰囲気とはガラリと変わり、和気藹々に笑い合いながら再び足を進めるリサとプラナは、採集物の説明を聞きながら、順調に食材を集めていった。


 そして、食材も集め終わり、持っている巾着が売却用の収集品で膨れ上がったのを見た2人は踵を返して、来た道を目印を頼りに引き返す。


 極度の緊張の所為でリサは気付いていなかったが、ここに来るまでの道中、先頭を歩くプラナは採取用の短剣で、木に目印になる跡を付けていたのだ。

 それについても道中でリサに説明していたが、話を聞き流していたリサは、今頃になって感嘆の声を上げる。


 もし、これがプラナの単独行動であれば、印を付ける必要は無い。いや、プラナでなくとも、コレクターであれば目印など必要無いのだ。

 草木の形状や採取痕、自分自身の踏み締めた地面の状態。それらを観察して、自分が通ってきた道が分かるからだ。

 コレクターが痕跡をつける理由は、他の事に注意を引いているハンターの為なのだが、プラナの場合は違った。


 今回、プラナは等間隔に印を付けているが、間隔が広く、今いる場所の痕跡から次の痕跡が見えない状態だ。コレではハンターが気付けないので意味が無い。

 しかも、印は一種類のみ。本来であれば印は3種類使用し、決められた順番に付けていくのだ。そうしなければ、急な戦闘で方角を見失った時、帰り道とは反対に進んでしまう可能性が出るからだ。


 プラナは、ヲルガとガルダー以外の者とは、数える程しかパーティを組んだ事がなく、その者達とは整備された場所でしか探索を行わなかった。故に、プラナも常識人ぶってはいるが、一般的な冒険者の知識には乏しいのだ。


「プラナ凄い。何故遠くの痕跡見える」


「覚えているからよ。それに、通ってきた場所を戻ってるだけじゃない」


 真顔でそう答えるプラナを見て、リサは達観した表情でプラナを見詰めて、感情を見せない声色を発する。


「プラナ、私を絶対に置いて行かないで欲しい。私1人では、森出られない」


 その時、自分達の左側の茂みが揺れる音を聞いて、咄嗟にリサは左脇に差した剣の柄に右手を翳すと、小声でプラナに合図を送る。


「プラナ、そこの茂みの中、何か居る。私達に近付いている」


「了解。リサ、まずは自分の安全第一よ?護衛とは言え、今は訓練中なんだから」


 プラナはリサの合図に反応して、抜刀しながらリサに自身を守る様に伝えると剣を構える。


「音から察するに小型の相手ね。ラビットか、ウィーゼルか、ラクーンか、その辺りでしょう」


「動物だと嬉しい。だけど、近づいてくる。魔獣確定、残念」


 茂みを揺らす主は、プラナの抜刀音や2人の敵意に一切臆する素振りを見せず、ジグザグに草木を掻き分けながら、着実に2人の元に近付いている。

 その音を聞いて、リサはガッカリとした表情を浮かべながらも、腰の金具から鞘を外し、構えを取った。


 音の主はそれでも速度を落とす事なく、草木を掻き分け2人に走り寄り、その勢いのまま薮から飛び出しプラナに向かって飛び掛かった。


「プラナ!」


 リサは思い切り剣を弾くと、鞘をプラナに飛び掛かる相手に向けて飛ばす。

 鞘は空中で半回転しながら、先端を向ける様に相手に飛来して、半ば正面衝突に近い形でその相手の頭部に直撃すると、何かが砕ける音と共に、勢いが相殺されたのか相手諸共その場の真下に落下した。


「わぁお……まさか、ヲルガのやってる鞘飛ばしを真似するなんて……」


 プラナはリサの技に思わず声をあげて、目を見開きながら称賛を送る。


「不意を突いた飛び道具、護衛に必須。ヲルガ言ってた」


 リサはプラナの褒め言葉に、大した事ないと言いたげにそう説明すると、自身の飛ばした鞘を拾い上げ、隣で頭部を潰して息絶えたウサギを掴んでプラナに見せる。


「リサって、何だかんだ言って剣の扱い得意よね。野蛮だ〜、って言いながら毎日剣振りを欠かさないし。…………って、それ魔物じゃ無い!何でスズルガラ山に!?」


 頭部の潰れたウサギを見たプラナは、いきなり大声を上げると、リサからウサギを受け取り、そのまま走り出した。


「プ、プラナ!?置いて行かないで!」


「分かってるわよ!でも、今は急いで頂戴!後で説明するから!」


 空き地はすぐ近く。走って1分も経たない場所であったが、慣れない山道を必死で走ったリサにとっては、かなりの距離に感じた。

 そんなリサを横目に、プラナは空き地で荷物番をしていたガルダーに声を掛け、手に持ったウサギを見せつけて叫んだ。


「ガルダー魔物よ!魔素溜まりが発生してる可能性があるわ!」


 焚き火の前で座っていたガルダーは、徐に立ち上がると普段と変わらぬ口調でプラナの呼びかけに答える。


「魔物か、珍しいな。スズルガラ山に魔素溜まりが出来るとは思えんし、隣の山から降りて来た可能性の方が高いだろう。もしくは、魔石を食い過ぎたのか」


 プラナが持っている魔物と呼ばれたウサギを掴み取ると、ガルダーはそのウサギの身体に付着している紫色をした水晶を思い切り引き抜いた。

 その水晶は嫌な音を立てながらウサギの身体に空洞を作り、その空洞からは黒いヘドロと紫色の霧を垂れ流す。


「いつ殺した?」


「ついさっきよ……魔素化が早いわね。じゃあ、ガルダーの言う通り他の山から来た弱った個体か、魔物堕ちのどちらかね……」


 プラナは安堵の溜息を吐くと、その場に膝を折り「よかった」と心の底から湧き出た感情を声に漏らす。


「魔素溜まりに過剰に反応するのは構わんが、それで慌てて行動するのはどうなんだ。“次はリサを失うぞ”」


 ガルダーの言葉に激しく肩を跳ね上げると、何も分からないといった表情を浮かべて自分を見るリサに駆け寄り、思い切り抱き着く。

 リサは顔にぶつかり、今もなお自分の顔に押し付けられた鉄板に顔を歪めながらガルダーに助けを求める。


「ガルダー、救援求む!このままでは私の顔、世に出せなくなる!」


「今だけは我慢してやれ」


 少女の悲痛な叫びを聞き入れずに、ガルダー黙って頷き、閉じることの出来ない口から溢れ出る唾液で、リサは自分の顔を濡らし、プラナはそれをお構い無しで抱きしめ続ける。


 その光景を草むらの向こうから見ていたヲルガは、何をしているのかと訝しみながら、担いだマグボアを持ち直した。


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