リサちゃん、野営準備をする。
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(魔法の練習も着々と、日課の剣振りも怠らず一ヶ月がたった。
魔法の方は、四大元素の生成魔法は難無く扱える様になり、四大元素を組み合わせた“物質生成”にも手を出している。
だが、一つ問題がある。私が魔法を編む時に、首から必ず灰が舞う事だ。
だからと言って、身体に何かしらの影響が出ているわけでも無いのだが、何も知らない他人に見られると、何かしら勘繰られる可能性があるので、人前では使わない様にしている。
剣技の方はと言うと、相変わらず筋力が付く気配は無いが、身体の扱い方はある程度、身になって来ている。
ヲルガはそんな私を見て、「剣では無く、細剣を持たせるべきだった」と嘆いているが、今剣を変えると、今までの鍛錬が水泡に帰すらしい。これは私の体質が原因なので、仕方無いと諦めている。
そして今日は、冒険者になってから初めての野営を行う。泊まり込みの狩りだ。
とは言っても、狩場は町から半日ほど東に歩いた、山の麓の森であり、基本的には小型の魔獣しか生息していない“比較的安全な狩場”での1泊だけ。
荷物自体は殆どないが、代わりに砂の重りを持って歩くらしい)
ギルドから訓練用の砂袋を受け取ると、ガルダーは皆のリュックの中に、適当な重さに分けて詰め込んでいく。
ヲルガは13kg、プラナは7kg、リサは5kg、そして自分のカバンには合計20kgの重りを入れている。
ヲルガ達のパーティは、珍しい事にサポーターが居らず、戦闘職であるハンターが多くの荷物を運んでいる。
それでも何の問題も無く、今まで長旅を続けてこられたのは、人並み離れた筋力を持ったガルダーに、現地調達能力に長けたプラナ。そして、高い解体技術を持っている、天才のヲルガだったからだ。
本来であればパーティに居るサポーターが、パーティ全体の荷物の半分を持つ。そうしなければ、戦闘職が戦闘に出遅れ、コレクターが現地の物を採集出来ないからだ。
星4は確実と言われる星3冒険者。彼等がそう呼ばれる理由は、戦闘面だけでは無いのだ。
「ガルダー、重りの内訳、詳細求む」
受け取った自分のリュックの中身を確認したリサは、ガルダーに何故この量の重りを入れたのかを尋ねる。
「毛布で1kg、水2kg、非常食と手当て用の道具で1kg、ポーションや魔道具で1kgだ。普通のハンターが持つ、最低限の物資量だな」
普通のハンター。つまり、サポーターが居る場合のリュックの重さだ。
たったの5kg。それだけ聞けば、昔の人なら教科書の入ったランドセルより軽いと感じるだろう。だが、それ以外にも武具を装備し、整備されていない道を歩くと考えると、たった5kgでも、山道に慣れていない子供にとっては大荷物だ。
そして、常に周囲を警戒し、咄嗟に抜刀できる様にしなければならず、リュックの肩紐に手を掛けていられる訳でも無い。
つまり“楽な背負い方”が出来ないのだ。
だが、これは“慣れていない子供”の話。だからこそ、ヲルガ達はリサに慣れさせる為に、訓練を行うのだ。
「では、ヲルガ達は何故、大荷物?理由求む」
「俺のは後から収集物と入れ替えるぞ。だから木箱に砂袋を入れているんだ。ガルダーは……趣味だな」
ヲルガの砂袋の内訳は、リサとプラナと同じ常用品とは別に、収集品としての重りを入れている。そこに、ハンモック用の布や固形燃料といった野宿用道具を入れ、約15kgの重さとなっている。
ガルダーの場合はそう言った理由は一切無く、ただのトレーニングとしてリュックに重りを入れていた。
そこに、自分の胴を覆い隠せる程の盾に、幅の広い長剣、プレートメイルを含めた防具類を合わせると、総重量は軽く40kgを超える。
(通りで、筋肉もりもりな訳だよ……)
自分より重い物を持ちながら半日以上歩くつもりのガルダーの体を見て、リサは溜息を吐く。
「リサの気持ちも分かるわ。この砂袋、破損や破棄した時は買取なの。5kgの方は銀貨1枚で、小さい方は銅貨2枚。それをアイツらは平気で捨てるのよ?他の冒険者が見たら発狂物だわ」
溜息を吐くリサの横で、プラナは彼らの無駄遣いに対して悪態を吐く。彼女は、「行きに収集品を担ぐ馬鹿がどこに居るんだ」と更に顔を顰める。
「別に良いだろ?帰りにマグゴートを1匹狩るだけでプラスなんだからよ」
「はぁ……リサ、アイツを基準で考えちゃダメよ?私もかなり前、それで痛い目見たから」
「了解」
そう話しながら準備を終えた4人は、荷物を背負うとギルドを後にした。
ギルドから出て行ったリサ達を見て、そのやり取りを聞いていた冒険者が“おままごと”と笑っているのを、3人の冒険者が殴り飛ばして服を脱がせたのは、また別のお話。
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時刻は昼をとうに過ぎ、貴族であればお茶会の準備を始める頃。リサ達4人は予定より少し遅れて、目的地である“スズルガラ山”の麓の森に辿り着いた。
スズルガラ山はテリの東にある山地の中の山の1つで、周りの山と比べて標高も低く、町からも近いと言うこともあり、周りの山より魔獣は弱い。そして、魔獣の数も比較的少なく初心者には優しいが、反面、狩場としての旨味はあまり無い。
採集目的で来るコレクターはチラホラいるが、その程度だ。
「プラナ、彼等は何を採集している?」
森に足を踏み入れ、すぐに見かけた冒険者を指差して、リサはプラナに問う。
「まぁ、キノコ類や乾果でしょうね。この山で態々ハーブや薬草は摘まないでしょうし」
普段、何事もヲルガに尋ねるリサがプラナに質問した理由は、彼女がコレクター……つまり“収集者”だからだ。
コレクターはその名の通り、植物や鉱石などの“採集”を生業としており、それらの見分け方や採取法、生息地を熟知した者だ。
そして、その者を守るのも、ヲルガやガルダーが生業としているハンターの仕事である。
「スズルガラで取れる物は、基本どこでも取れるからな。薬草に関しては、他の場所の方が質が良いし」
そう付け加えた後、ヲルガは「行くぞ」とガルダーに声を掛けて、再び4人は歩みを進める。
森の中、道という道が無い場所を、ガルダーを先頭に、プラナ、リサ、ヲルガと一列で歩く。
普段とは違い、ガルダーが先頭で隊列を組んでいる理由は、せっかく先頭の人が払い除けた枝葉や蜘蛛の巣に、図体の大きいガルダーが引っ掛かってしまうからだ。
1列で進む理由も同じ。先頭の人が道を切り開いているので、後続がそれに続くのだ。
森を探索をする話になった時、森の中の歩き方を教わったリサは、息を漏らして感心した。
しばらく歩いたヲルガ一行は、程よい空き地を見つけるとその場に荷物を降ろして剣を抜く。
「思いの外来るのに時間掛かったから、今の内に寝る場所を確保する。リサ、説明するからちゃんと聞けよ?」
ヲルガはリサを一瞥すると、他2人に待機を命じて、1人で野営の準備を始める。
「まず前提として、陽が落ちる数時間前から野営場所を決める。で、今みたいに見つけた後は、周囲に魔獣の棲家や毒物が無い事を確認するんだ」
そう言って、周りの茂みや背の高い草を剣で切り払いながら、生えている草や地面に穴が空いていないか確認する。
「よし。で、危険が無い事を確認したら、タープを張る位置と、焚き火を起こす位置を決める。今回は森の中だからタープじゃ無くてハンモックだが、まぁ大して変わらん。あ、タープの場合は地面を平さないといけないか」
程よく間隔の空いた2本の木を指差しながら、ヲルガはガルダーにハンモックを掛けるよう指示を出す。そして、プラナにはガルダーの近くで薪を集める様に言った。
その後、周囲に落ちている大きめの石を幾つか広い抱えると、空き地の中央に屈み込み、草を毟り始める。
「リサ、草毟るの手伝ってくれ」
声を掛けられたリサは、ヲルガの目の前に屈み込むと、膝を抱えてヲルガに尋ねる。
「了解。何処を毟る?」
「俺と同じ付近を毟ってくれ。焚き火をする場所を確保するんだ」
草を毟る範囲を指で示しながら、何故草を毟る必要があるのかを説明する。
「草を毟るついでに、枯草を取り除くんだ。そうしないと、爆ぜた火の粉が火種になって、あたり一体が燃える。そうならない為に草を毟るんだ」
そう言いながら草を毟っていき、ある程度の場所を確保すると、地面を掘って窪みを作り、そこを先程集めた石で囲む。
「森の中じゃ無くても、周りに草木が生えている場所で焚き火をする時は、窪みを掘って石で囲むんだ。で、風が通る様に石の下の地面を空ける。石の間隔を広げて置いてもいいぞ」
膝の上で肘を突きながらその作業を眺めるリサは
(なんだかキャンプ動画を見ているみたい。でも、見てるだけが一番楽しいのかも)
と、今後この作業を強いられる事を考え、気を落としていた。
「薪集めたわよ。だけど、乾いてないから固形燃料は必要ね」
「ハンモックも2人分掛け終わった」
そこに、作業を終えたプラナとガルダーが加わり、つまらなそうに欠伸をするリサを見て笑みを溢す。
「分かるわ、野営の準備って面倒よね。でも、不寝番はもっと面倒よ。ねぇヲルガ、今日はリサに不寝番はやらせるの?」
「あぁ。だが、リサが起きている間は3人だぞ」
プラナとヲルガのやり取りに、リサは首を傾げる。
「ヲルガ、不寝番の説明求む」
「ふしんばんってのは、要するに見張りだな。他の奴らが寝ている間、周りを警戒したり、焚き火を焚べたりするんだ。で、俺達は3時間で寝てる奴と不寝番を交代する。全体で6時間の睡眠を取るんだ」
ふ〜んと、鼻を鳴らすリサは軽く上を向いて考え事を始めた。
(この世界に来る前だったら、3時間しか寝れない事に文句言ってたなぁ。今はそもそも寝る必要が無いから苦じゃないけど……みんな凄いなぁ)
プラナは運んできた薪を窪みの中に幾つか置くと、残りの薪を横に置いて手に付いた土を払う。
「じゃあ、食べられる物探すわよ。リサ、貴女は私の護衛ね。頼んだわよ?」
「了解、暇だった。色々教えて」
プラナの言葉に、待ってましたと言わんばかりに立ち上がるリサは、軽く体を伸ばすと、プラナの真横に駆け寄る。
「俺は森の奥行って肉取ってくるぜ。何もないと思うが、何かあれば全力で逃げろよ」
ヲルガはそう言うと、手を振って森の奥へ走っていき、あっという間に姿を消した。
それを見送ったリサ達3人は、お互いに顔を見合った後、プラナの号令に従う。
「ガルダーは荷物管理任せたわよ。何かあったら笛吹くから。リサ、行きましょうか」
「了解!」
そして、プラナとリサはヲルガの向かった方向とは逆の方に歩き始めた。




