リサちゃん、魔法を編む。
あら本編……って、どうしたのよ、その格好。
……へぇ。間話ちゃんに感化されて……ねぇ。
でも、モデルがいきなりイメージチェンジって、事務所的にどうなのよ。
まぁ……過去を改変できるアナタなら、問題無いのかもしれないけど。
少しはファンの事を考えなさいよ?
煤人間事件から約1週間後。空き地の煤掃除から解放されたプラナとリサは、ヲルガとガルダーを連れ、4人揃って町の外の、狩場として機能していない草原の一角に陣取り、魔法の練習を始めようとしていた。
プラナは、一部の村人や冒険者から“煤人間討伐の功労者”として一目を置かれたが、一部の衛兵やギルド職員達からは“シンデレラ”と馬鹿にされていた。
そのシンデレラは今、リサ達3人の前で「先が思いやられる」と言いた気に溜息を吐いていた。
「前はちょっとトラブルが起きたけど……此処なら誰も文句を言わないわ。だけど……何で貴方達2人も教わる側なのよ」
呆れ口を叩きながらプラナは、リサの挟む様に立つ男2人をジトリと睨む。
「いや〜、リサとマグラビット狩ってた時に、すごく不便だったからな。それに、今後の事を考えると、使えないままはマズイだろ」
「俺は今日暇していたし、どうせなら生成後の操作を教わろうかと」
ヘラヘラと笑うヲルガと、反対に真面目な表情で「戦闘中の不意打ちに使える」と応えるガルダーの間で、リサはあまり乗り気では無いのか、2人の手を握りながら唇をへの字に曲げている。
「私、煤掃除もう嫌。魔法諦める」
そう呟くリサに対して、ケラケラと笑い声を上げたヲルガは、空いた右手でサムズアップを向けると、問題無いと伝える。
「此処ならどれだけ汚しても問題無い!それに、そもそも町中で魔法の練習をするのが間違ってるんだよ。なぁ、シンデレラ?」
「くっ……確かにアレは私の判断ミスだけど、その呼び方はやめなさい……」
ヲルガの言葉に何も言い返せないプラナは、せめてもの反抗でヲルガを更に強く睨み付ける。
「……はぁ、じゃあ、生成魔法について教えていくわよ。ヲルガは黙って聞く様に」
リサに視線を移した後、再度ヲルガを睨み付けると、プラナは2人に分かり易い様に、噛み砕いて説明をする。
「生成魔法は単純に言うと、この世界を造り上げている“四大元素”を生成する魔法よ。四大元素とは、火、水、土、風の4つの自然物。……ここまでは良いかしら?」
「問題無い!」
リサが理解しているか確認をすると、再び説明に戻る。
「四大元素はこの世界を構成する物。だから魔素が形を形成し易くて、私達も物体を想像し易い。そして、姿形を気にしなくて良い生成魔法は、魔力操作が出来れば誰でも使える、物凄く初歩的で一般的な魔法よ」
プラナの説明を聞き終えたリサとヲルガは、成程と頷いてお互いに顔を見合う。
「何か、思ったより簡単そうだな。コレなら俺でもすぐ出来そうだ」
「プラナの説明、凄く分かり易い。先生向いている」
褒められて照れているのか、ニヤニヤと頬を緩めながらこめかみを掻くプラナは、声を上擦らせながら魔法を編むコツを2人に伝える。
「さ、最初の内は、手から魔法を出すように意識するとやり易いわ!更に言うと指先。触覚が一番鋭い場所から編んだ方が、感覚が掴み易いのよ。じゃあ、先ずは安全な水生成から」
プラナの助言を聞き、人差し指を立てて空中を指差すと、2人は同時に呪文を唱える。
「「水生成!」」
すると、リサとヲルガの身体の中で何かが巡り、指先に集まると、空気中の魔素と混ざり合……う事は無く。ただ、自分の脈動を感じ取っただけで終わった。
「…………っ!」
「リサ!泣くのはまだ早い!まだ慌てる時間じゃない筈だ!うおぉぉ!唸れ俺の魔力!なんか出てくれぇ!」
唇を固く結びながら瞳を潤ませるリサを励ましながら、自分の右手首を左手で掴み、ヲルガは大声を上げて全身を強張らせる。
「……言い忘れていたけど、生成する物を思い浮かべないと意味無いわよ?」
呆れ顔でそう言い、2人のポカンとする表情を見て次は肩を落とすと、首を振って自分の落ち度だと訂正する。
「……いえ、伝えて無かった私が悪いわね。魔法を編む時は、何を編むのかを明確に想像する必要があるの。例え、姿形を思い描かなくて良い生成魔法でも、何を、どれくらいの量生成するのか、ちゃんと考えないと」
それを聞いて安堵の表情を浮かべた2人は、再び構え直すと、人差し指に気を集中させ、生成する物体を思い描く。
(水……水かぁ。井戸の水……だとイメージし辛いなぁ。蛇口から出てくる水の方が見慣れてるし……取り敢えずそのイメージで)
そして、明確なイメージを作り上げたタイミングで、リサは魔法の呪文を口にした。
「〈水生成〉!」
すると、指先から10cm程離れた何も無い空中に、突如、ビー玉ほどの水球が渦を巻きながら生成され、そのままの大きさを保ちながら、地面に向かって流水を打つ。
「おぉ!水でた!プラナの言う通り!」
首元にチリチリとした感覚を残しながらも、魔法が使えた事に喜び、両手を自分の胸元に引き寄せて拳を握る。
魔力の供給を失った水球はその場で弾けると、音を立てて地面に落ちた。
「す、凄いじゃない!最初からその量の水を生成出来るなんて、才能あるわよリサ!」
「本当!?ヲルガ、今の見た!?……?ヲルガ、何してる?」
喜ぶリサの言葉に全く反応しないヲルガは、先程と同じ様に自分の右手首を左手で握り、全身を強張らせながら大声で叫ぶ。
「…………〈水生成〉!」
だが、先程と全く同じで何も起こらない。その後、何度も呪文を叫んでいるが、一向に水が生成される気配が無い。
プラナ、ガルダー、リサの3人は、ヲルガのその姿を何とも言えない表情で見つめる。
それから十数分、何度も呪文を唱え続けたヲルガは、額に汗を浮かび上がらせると、嬉々とした表情でその汗を指差し、リサに顔を近付ける。
「み、見てみろリサ!水が出て来たぞ!何故か手じゃ無くてデコだが!」
その、屈託の無い笑顔を直接向けられてしまったリサは、自分の手を後ろに回し、物凄く悲しい笑顔でヲルガに対して
「流石ヲルガ。私には出来ない」
と、ヲルガを褒め称えた。
リサの言葉に嘘偽りは無い。本当に尊敬しているし、自分には出来ない事だと思っていた。
何度も諦めずに声を張り続け、己が額に浮かび上がった努力の結晶を誇らしげに見せる所を、素直に讃えたのだ。
「大丈夫!俺でも出来たならリサもその内出来る様になるさ!ほら、もう一度やってみろ!」
リサの言葉を額面通りに捉えて、大きな勘違いをしながら、リサに対して励ましの言葉を送るヲルガに、3人は哀れみの眼差しを向ける。
「どうしたリサ?そんな顔して。まぁ、俺は天才らしいからな。俺と比べるのはやめた方が良いぞ?」
「うん。ヲルガ天才。私、後で魔法練習する」
そう言って、魔法の練習を終わらせようとするリサの肩に、ガルダーは優しく手を乗せてこう言った。
「リサ、現実を教えるのも優しさだ。ヲルガにリサの水生成を見せてやると良い」
「ん?何だ?もう少し練習するのか?」
首を傾げるヲルガは、何を勘違いしたのか「流石だな」とリサを褒め始め、更には「分からなければ、俺が教えてやるよ」と胸を張って言い出した。
(ヲルガ……なんで普段は自分のやる事を“普通”って言ってるのに、こう言う時に天才を自称するの……もしかして、自分を鼓舞してるのかな?)
リサはそう考えるが、そうでは無い事を他の2人は知っている。何故なら、“以前”も同じ事をしているからだ。
「……分かった。ヲルガ見てて、私の生成魔法」
リサはガルダーの言葉に頷きを入れると、人差し指を何も無い空中に向け、呪文を唱えた。
「〈水生成〉」
その瞬間、先程と同じ様に、首元のチリチリとした感覚と同時に、空中にビー玉程の大きさの水球が生まれ、音を立てて水を流す。
「な…………な、な……な……!!」
ヲルガは目を見開き、口を何度もパクパクさせながらリサを見つめ、信じられない物を見ているかの様に、リサに向けて指を差す。
申し訳無さそうな表情を浮かべるリサに反して、プラナとガルダーは半分呆れつつも、ヲルガの動揺する姿を見て笑いを抑える。
そして、ほぼ同時に3人はヲルガの視線の違和感に気付く。
リサの隣にいるヲルガは、水球の方を向いていない。視線も高く、よく見るとリサ自身に指を差している。
3人がその違和感に気が付いた瞬間、ヲルガはリサの首元を指差しながら、言葉を続けた。
「首!リサの首から燃えた灰が出てるぞ!」
それを聞いた各々の反応は違っていた。
ガルダーは咄嗟に水生成で水を作り出し、出来ないと言っていた生成後の操作を難無くこなして、リサの首元に水を掛ける。
ヲルガは何度も水生成と叫びながら、前髪を捲り上げてリサに額を見せつけていた。
プラナに関しては、それを聞いた瞬間に全速力でその場から逃げ出した。あわよくば、第2、第3の煤人間の誕生を願って。
渦中の存在であるリサ本人は、煤掃除はもう勘弁だと考えながら、濡れた髪をそのままに天を仰いでいた。
その光景を遠目から見ていた通行人は、慌てて何処かへ走り出すと、何故か衛兵を連れて戻ってくる。
その後、衛兵に誤解だと弁明した後、何事も無かった事に安堵する3人に、プラナだけは、期待が外れた事に対して舌を鳴らした。
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