リサちゃん、山羊に会う。
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ギルドでマグラビットを売りに行った後、私達は再び町から出て、いつもとは違い、町から少し離れた場所を狩場にする。
先程売ったマグラビット2羽は、ヲルガの方は銅貨7枚、私の方は銅貨6枚で売れた。私の方が1枚少ないのは、骨が細かく砕けて過ぎて、取り除くのが困難なのが理由らしい。ヲルガの方は全身使えるので満額なのだとか。
それはさておき、私とヲルガとガルダーは、マグゴートが群をなす場所まで辿り着くと、辺りを見回して様子を窺う。
時刻は昼時、今朝のやり取りや、一度キルドに戻ってマグラビットの解体を待っていたので、かなり出遅れてしまい、辺りにはチラホラと他の冒険者の姿がある。
彼等も私達と同じで、目当てはマグゴートらしく、至る所で戦いを繰り広げている。とは言っても、冒険者の一方的な殺害と言えるその光景は、決して胸が高鳴る物では無い。
正直、この光景を見ると、意図的に肉を食べない者達の気持ちも分かる。だが、人間も自然界に生きる動物の一種、多種を喰らって悪と呼ぶなら、この世に善は無い。
私は少し離れた場所で戦っている冒険者とマグゴートを眺めながら、ぼんやりと、意味の無い事を考える。
その時、辺りを見終えたヲルガが私に声を掛けると、諦めた様に首を横に振って
「出遅れちまったな。この狩場のマグゴートはかなり警戒しているから、すぐ逃げられるだろう。それに、逃げない奴は逆に面倒だしな」
そう言いながら、近くでのんびり草を食べているマグゴートを指差す。
「ああいう奴はかなり手強い。何回も冒険者と対峙して、人間慣れしてる。まぁ、どこまでいってもマグゴートだから大した事ないが、初心者は気を付けないと大怪我する」
それに付け加える様に、ガルダーは話を引き継ぐと、人間との戦闘に慣れた相手の危険性を教えてくれる。
「草原にいる魔獣は、比較的温厚で草食だからあまり問題にはならないが、森や山、荒地にいる凶暴な魔獣が対人慣れを起こすと、積極的に人間を襲う様になり、周囲の町や村に被害が及ぶ。だがら、もし討伐依頼に失敗した場合は、ギルドに報告せねばならん」
人の戦い方に慣れた獣。頭脳戦や罠が通じず、単純な肉弾戦に持ち込まれ、星3冒険者ですら、徒党を組んでも無傷とは言えない戦いを強いられる。その為、討伐依頼に失敗した場合、その依頼の難易度が無条件で格上げされる。星3下位適正であれば中位に、中位であれば上位に、上位であれば星が繰り上げされ、星4下位に。これは、冒険者全員が教わる“義務教育”だ。
このマグゴートも、ギルドに告発すれば問題に取り上げられるだろう。だが、それをする者は殆ど居ない。理由は“大した事じゃないから”。
「だが、誰かがいつかは討伐せねばならん。リサ、見ておくと良い。そして、俺の勇姿を綺麗なお姉さんに吹聴してくれ!」
ガルダーは高らかにそう言うと、腰にぶら下げた太い長剣を抜き、盾を構えて草を毟るマグゴートに突進する。
それを見た歴戦のマグゴートは、受けて立つと言わんばかりに頭を低く構え、ガルダー目掛け突進する。
そして、ガルダーの盾とマグゴートの角が、火花を散らしながら激しい音を立て、そのままの勢いですれ違い、お互いの元いた位置で立ち止まる。
「おぉ〜〜」
空から落ちてきたマグゴートの角が、お互いの居る地面の中央に突き刺さり、膝から崩れ落ちるマグゴートを見て、私は思わず声を上げる。
その、絵画の1枚になりそうな相対する二つの影は、戦歴の猛者達が命懸けで作り上げた舞台の様で。
ガルダーは地面に突き刺さった角を引き抜くとマグゴートの元へ行き、まだ息があるのを確認すると、手に持った長剣で首を切り落とした。
「安らかに眠れ」
そう口にしたガルダーの顔は、今までの空気を全てぶち壊す程のキメ顔で、今にも弾みそうな足取りで私達に近付くと
「お前達、俺が伴侶を見つけて、パーティを抜けても泣くんじゃ無いぞ」
屈託のないその笑顔は、どんな妄想を思い描いているのか、幸せに満ち溢れていた。
「リサ、今の戦い、絶対にマネするなよ。マグラビット相手でもな」
「了解。今の戦い、記憶から消す」
「お、おい!真似は良くないが記憶からは消さないでくれ!綺麗な女性に吹聴してくれ!」
私達の態度に、懇願する様に叫ぶヲルガを真顔で無視して、マグゴートの死体に歩み寄り、ヲルガから身体の構造や、解体の手解きを受ける。
「うわ、切断面綺麗だな。リサ、マグゴートの様な中型以上の魔獣は、持ち運びが大変だから、希少な部位や皮、後は討伐の証に変異角と魔石を取り出すんだ。魔石はどの魔獣も基本肺の中、マグラビットもそうだっただろう?」
「うん。肺に溜まった魔素、結晶化する。胃も見る」
「そうだ。肺に無かったら胃を見る。よく覚えてるな。中型以上の魔獣は、解体の仕方で買取額が大きく変わる。部位毎に上手く切り分けないと価値は下がるし、断面が汚いとそれでも下がる。骨は重いし嵩張るから基本肉から外したいが、肋骨は付いていた方が買取額が高い」
そう言いながら、解体用のナイフでマグゴートの腹を裂き、内臓を掻き出して肺を破り、魔石を取り出す。
そして、素早く丁寧に皮を剥がしていくと、剥がした皮の上で解体作業を始めた。
「本当なら何かに吊るしてやるんだが、吊るすものが無いから皮を敷いて解体するんだ。ガルダーが首を斬ってくれたお陰で、血も抜けているから良いが、血抜き前に解体すると後々面倒だから気を付けろよ?後、この解体方法は早くしないと皮の価値が下がる。皮が血を吸って腐りやすくなるからな」
説明の間、ヲルガは一切手を止めず、本体から足や腕、肋骨を取り外して、胴についた肉を綺麗に削いでいく。
「足や腕は下手に骨を外す位なら、骨付きの方が買取額は高い。だがその分すごく重い。今日持ち帰るのは足1本、腕2本、腹肉全部と背肉少しだ。胃を傷付けなかった時は、腹肉を優先して持ち帰れ。そっちのが高い」
解体を終えたヲルガは、リュックから肉を保護する為の木綿を取り出し、持ち帰る肉に巻きつけていく。
そして、ガルダーのリュックには足肉を、ヲルガのリュックには腕肉と腹肉を、私のリュックには背肉を入れ、リュックの上に包めた毛皮を乗せる。
リュックの中には撥水加工された木箱が入っており、肉から出る液体でリュック内が汚れる心配は無い。そして、木箱内には鉋で削り落とした柔らかい木屑が詰められており、木箱内で肉が揺れる事も無く、持ち運びしやすい。
とは言っても、木箱と皮を含めて軽く10kgを超えたリュックは、重い荷物を持ち運び慣れていない私からすると、とても持ち辛く、背負うだけで肩と膝が情けない悲鳴を上げる。
「リサ、持ち方が悪い。重いリュックを背負う時は、腰じゃ無く肩で持て。肩紐を縮めるんだ。そして背中とリュックの間に隙間を作るな」
そう言って、ヲルガは私のリュックの肩紐の長さを調節する。ベルトの様に段階式で長さを変え、金具で固定する様に出来た肩紐は、程よく私の肩に巻き付くと、不思議と先程までの重さが消えた。
「な?楽になっただろ?」
「ヲルガ賢い。何故軽くなる?」
「知らん!」
こうして、行きより長い時間をかけて帰路へ就くと、私達はギルドに向かった。
「カカライ、肉の買取を頼む」
「リサ、今日は大荷物だな。その毛皮、マグゴートか」
「ガルダーが狩った。解体ヲルガ」
横でヲルガがカカライに向かって「おい」やら「無視するなオッサン」やら色々言っているが、それを完全に無視してカカライは私と話を続ける。
「そうか、今日は見学か。勉強になったか?」
「記憶消した」
「…………?まぁ良い。……足1本、腕2本と腹肉……が結構あるな、後は背肉と毛皮か。流石に手際が良いな……計算するからちょっと待ってろ」
木箱から取り出した肉を奥の部屋へ運んで行くと、暫くしてから紙を持って受付へ戻ってきた。
「足が銀貨2枚、腕が合わせて銀貨2枚。腹肉の中段が銀貨4枚、下段が銀貨2枚。背肉が銅貨3枚で、毛皮が小金貨2枚だ。リサ、この額は一般冒険者じゃ稼げない。これが当たり前だと勘違いするなよ?」
「そうなの?」
私が首を傾げると、ヲルガの方を睨み付けながら、嫌々理由を教えてくれた。
「普通、マグゴートの首は刎ねれん。ウチのギルマス並に筋力があるか、余程の業物でも無い限りな。そして、この解体技術。余計な事はせず、丁寧に分けて解体してある。しかも、運び方が丁寧だ。ウチで働いて欲しいと思える位だ」
成程、ヲルガを褒める事が癪に障るのか。もしくは照れ隠し……それは無いか。
だが、ヲルガ達はやはりと言うべきか、かなり凄腕の冒険者だ。実際に見て分かってはいたが、ギルド職員から見ても、彼等は本当に腕が立つらしい。
「褒めるなら、代わりに買取額に色を付けてくれよ。良いとこに売れば、相場より高く扱ってくれるだろ?」
「黙れ。ほらよ、買取額の小金貨3枚と銅貨3枚だ。リサを置いて早く消えろ」
「誰が置いてくかよ!行くぞリサ、早く帰って飯にしようぜ」
「うん!さよならカカライ!」
そして、一般受付で換金を済ませたガルダーと合流して宿屋に向かった後、プラナを呼んで4人で食事を取ったのだった。




