リサちゃん、技をみる。
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「じゃあ、今から面白い物見せてやるからな!」
早朝、私とガルダーはヲルガに連れられ、町の外の草原に来ていた。
街道から逸れたその場所は、魔獣の姿が殆ど無く、その為、他の冒険者の姿も殆ど見かけない。筈なのだが……
「おぉ!ヲルガ!何をやってくれるんだ!?」
「失敗しろ!失敗してダサい所見せろ!」
「脱げ〜!全部脱げ〜!」
何故か数人の冒険者がこの場に居合わせ、ヲルガに野次を飛ばして笑っている。その野次を飛ばしている物達は、先程、ギルドに立ち寄った時に偶然顔を合わせた冒険者達だ。
その者達が私に「今日は何処に行くんだ?」と尋ねてきたので、「ヲルガ、面白い物見せてもらう」と答えた所、面白がってついてきてしまった。
「騒ぐなよ!マグラビットが近寄って来ないじゃねぇか!」
「なんだよ、マグラビットを狩るのか?だが、リサちゃんは普通に狩れてるだろ」
ヲルガの言葉に首を傾げる冒険者達は、少々冷めた感じで呆れた顔をする。
「まぁ、普通に狩れるな。だから面白い物を見せるって言ってるんだ。お前等からしたら、大した事じゃ無いぞ」
そう言いながら右脇に刺した短剣を鞘ごと外し、止め紐で鍔と鞘を縛り上げると、マグラビットと対峙する。
「頑張れヲルガ!」
頑張る程の事でも無い事は分かっているが、そう口に出したのはただの癖だ。
私に続く様に、隣で声を上げる冒険者達は、ただの冷やかしだろう。その証拠に、1人はずっとヲルガに対して「脱げ〜!脱げ〜!」と叫んでいる。
「見てろよリサ。マグラビットが飛びかかって来たら……こう!」
ヲルガの言葉に合わせる様に、マグラビットはその驚異的な脚力で地面を蹴り上げ、正確に喉元に飛び掛かると、鋭く生え揃った2本の前歯を剥き出しにする。
瞬間、ヲルガの右腕と手に持った短剣がブレ、空気に溶け込む様に形を消したと思ったら、滞空しているマグラビットが、突然地面に吸い寄せられたかの様に、垂直に地面に落ちる。
地面に落ちたマグラビットは動かない。が、何故か胸元を膨らませ続け、水風船の様にタプタプと、膨らんだ皮を風で揺らす。
ヲルガはその場に屈み、マグラビットの水風船の様に膨らんだ胸部に、解体用のナイフで軽く穴を開ける。すると、全開に捻った蛇口の様に、勢い良く赤い液体を吹き出して萎み始めた。
「どうだ?こうしたら、毛皮が傷付かないだろ?興奮しないから肉も臭くならないし、血抜きも一気に出来て、凄く良いぞ」
生き生きとした眩しい笑顔を此方に向けてくるが、一体何をしたのか理解出来ない。いや、理解出来ないと言うより、見えなかった。
説明を求めようと、隣に立っている冒険者達に目をやるが、顔を引き攣らせながら棒立ちし、何故か顔を青く染めていたので、諦めてヲルガ本人に何をしたのか説明を求めた。
「ヲルガ、何したか分かりません!く……く、く……詳細求めます」
「詳しくな。く、わ、し、く。……簡単だぞ、飛びかかって来たマグラビットの心臓部を、鞘先で小突いただけだ。最初は力加減が難しいと思うが、慣れれば心臓だけ潰せるから、覚えると良いぞ。他の小型の魔獣にも使えるしな」
「…………?ガルダー、分かる説明、お願いします」
「いや、俺も出来ないのだが……そうだな、心臓に物凄く強い衝撃を与えると、心臓が止まるんだ。何故だかは知らぬが……それで殺めたと言う事だ」
ガルダーの説明に、間髪入れずに否定する。
「いや違うぞ。心臓に衝撃を与えて破裂させたんだ。肉も骨も内臓も、そうしたら傷が付かないだろ」
ガルダーとヲルガの説明を両方聞き、ある程度の予想はついた。
まず、ヲルガが見せた今の狩り方は、一朝一夕で出来るものでは無く、ずば抜けた才能か、弛まぬ努力、もしくはその両方が必要だ。
心臓の位置を正確に覚え、そこを絶妙な力加減で突かなければいけない。その為には、自分で魔獣を解体して、正確な内臓の位置を覚える必要がある。基本的に心臓の位置はどの動物も変わらないだろうが、多少の構造の違いはあるだろう。
ヲルガは今の狩り方を大した事ない様に言っているが、隣の冒険者の反応や、ガルダーの言い方からして、天才のヲルガだから出来る“技”と考えた方がいいかも知れない。
「ヲルガ、それ出来ない」
「魔法より簡単だぞ?試しにやってみろ」
ヲルガはそう言って私に鞘に入った短剣を渡す。
短剣とは言っても、私の腕とほぼ同じ長さのソレは、私が腰からぶら下げている剣と、大差ない長さに重量だ。
この数ヶ月、毎日剣を振って鍛錬をしているとは言え、見た目が変わらないその腕は、剣先を細かく揺らしている。この状態でヲルガの様に素早く正確に、動くマグラビットの胸を突く事など不可能だ。
「頑張れリサ〜」
マグラビットと対峙する私に、ヲルガは声援を呑気な口調で声援を送ってくる。先程まで顔を青く染めながら黙り込んでいた冒険者達も、今は活気を取り戻して此方を見つめていた。
あまり大勢に見られながらは恥ずかしいので、早い所終わらせたい。だが、ヲルガの様には到底……
そう考えているのも束の間、完全に意識を他所にやっている私を見たマグラビットは、チャンスとばかりに勢い良く飛び掛かってくる。
私は咄嗟に、空中に剣を固定したまま大きく右にズレた後、重力に任せて剣を下に降ろしながら、地面に水平になる様に体を傾けて、反時計回りに全身を回す。
そして、重力と遠心力で加速した短剣を、満月を描くように振り翳すと、そのまま空中にいるマグラビットの後頭部に振り下ろし、骨を粉砕する音を立てると、地面に思い切り叩き付ける。
勢い余った短剣は、空中に半月を描くと、ようやく勢いを失い私の体と共に止まる。
「油断した。驚き!」
私は素直に油断した事をヲルガに伝え、教えに背いた事に謝罪する様に頭を下げた。
「流石に気を抜き過ぎたな。こりゃ、中型魔獣はお預けか」
「…………!」
私はその言葉にショックを受け、思わず口を強く結び、顔を熱くしながらヲルガに情けない目を向けてしまう。
「う、嘘だ嘘!今日マグゴートを狩る約束だもんな!だからそんな顔するなって!」
慌てふためきながら私に謝るヲルガを見て、ハッとなった私は、慌ててヲルガに頭を下げた。
「ごめんなさい!私の油断の所為、ヲルガ正しい!」
「そ、そうか?……まぁ、どっちにしても、最初はマグゴートを狩る所を見せるだけのつもりだったからな。気にするな」
ケラケラと笑いながら私の頭を撫で回すヲルガは、私が殺したマグラビットを指差して、嬉しそうに声を上げる。
「それに見ろよリサ!上手く頸椎を砕いたお陰で、使う場所の皮は無傷。内臓も肉も傷付いてないし、即死!流石だな!足を切って血抜きしたら、最高額で買い取って貰えるぞ!」
「本当!?買取楽しみ!」
ヲルガはそのままマグラビットの足を、抜刀ついでに剣で斬り飛ばし、鞘に収めた後、マグラビットの首を鷲掴みにしてブンブンと振り回し始める。
そして、かなりの量の血液を辺りに散布した後、胴や足を軽く絞り、中に残った血液を絞り出す。
「じゃあ、すぐにギルドに戻るか!カカライにコレ、自慢しに行こうぜ!」
「了解!ガルダー、行きましょう!」
「分かった。……おい、お前達は……どうした、真顔で佇んで」
わいのわいのと騒ぎながらその場を後にする私とヲルガを見て、真顔で佇む冒険者達を見たガルダーは首を捻り、彼等の顔を覗き込む。
「い、いえ……俺達は後から向かいますんで、ヲルガさんとリサお嬢様に宜しく伝えて下さい……」
「本当にどうしたのだ……?まぁ良いか」
此方に視線を合わさずに、遠くを見ながら、何故かさん付けやお嬢様呼びをする彼等を訝しむが、まあ良いと考えてガルダーは仲間2人の後を追い掛けた。
そして、町の中へ彼等3人が消えて行ったのを確認した3人の冒険者は、その場にへたり込むと、同時に乾いた笑い声を上げ始めた。
ヲルガ達を、令嬢のお遊戯隊だと笑っていた、昨日の自分達の言動を思い出しながら。




