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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサちゃん 冒険者編
19/95

リサちゃん、技をみる。

いいねと評価ありがとうございます。


「じゃあ、今から面白い物見せてやるからな!」


 早朝、私とガルダーはヲルガに連れられ、町の外の草原に来ていた。

 街道から逸れたその場所は、魔獣の姿が殆ど無く、その為、他の冒険者の姿も殆ど見かけない。筈なのだが……


「おぉ!ヲルガ!何をやってくれるんだ!?」


「失敗しろ!失敗してダサい所見せろ!」


「脱げ〜!全部脱げ〜!」


 何故か数人の冒険者がこの場に居合わせ、ヲルガに野次を飛ばして笑っている。その野次を飛ばしている物達は、先程、ギルドに立ち寄った時に偶然顔を合わせた冒険者達だ。

 その者達が私に「今日は何処に行くんだ?」と尋ねてきたので、「ヲルガ、面白い物見せてもらう」と答えた所、面白がってついてきてしまった。


「騒ぐなよ!マグラビットが近寄って来ないじゃねぇか!」


「なんだよ、マグラビットを狩るのか?だが、リサちゃんは普通に狩れてるだろ」


 ヲルガの言葉に首を傾げる冒険者達は、少々冷めた感じで呆れた顔をする。


「まぁ、普通に狩れるな。だから面白い物を見せるって言ってるんだ。お前等からしたら、大した事じゃ無いぞ」


 そう言いながら右脇に刺した短剣を鞘ごと外し、止め紐で鍔と鞘を縛り上げると、マグラビットと対峙する。


「頑張れヲルガ!」


 頑張る程の事でも無い事は分かっているが、そう口に出したのはただの癖だ。

 私に続く様に、隣で声を上げる冒険者達は、ただの冷やかしだろう。その証拠に、1人はずっとヲルガに対して「脱げ〜!脱げ〜!」と叫んでいる。


「見てろよリサ。マグラビットが飛びかかって来たら……こう!」


 ヲルガの言葉に合わせる様に、マグラビットはその驚異的な脚力で地面を蹴り上げ、正確に喉元に飛び掛かると、鋭く生え揃った2本の前歯を剥き出しにする。


 瞬間、ヲルガの右腕と手に持った短剣がブレ、空気に溶け込む様に形を消したと思ったら、滞空しているマグラビットが、突然地面に吸い寄せられたかの様に、垂直に地面に落ちる。

 地面に落ちたマグラビットは動かない。が、何故か胸元を膨らませ続け、水風船の様にタプタプと、膨らんだ皮を風で揺らす。

 ヲルガはその場に屈み、マグラビットの水風船の様に膨らんだ胸部に、解体用のナイフで軽く穴を開ける。すると、全開に捻った蛇口の様に、勢い良く赤い液体を吹き出して萎み始めた。


「どうだ?こうしたら、毛皮が傷付かないだろ?興奮しないから肉も臭くならないし、血抜きも一気に出来て、凄く良いぞ」


 生き生きとした眩しい笑顔を此方に向けてくるが、一体何をしたのか理解出来ない。いや、理解出来ないと言うより、見えなかった。

 説明を求めようと、隣に立っている冒険者達に目をやるが、顔を引き攣らせながら棒立ちし、何故か顔を青く染めていたので、諦めてヲルガ本人に何をしたのか説明を求めた。


「ヲルガ、何したか分かりません!く……く、く……詳細求めます」


「詳しくな。く、わ、し、く。……簡単だぞ、飛びかかって来たマグラビットの心臓部を、鞘先で小突いただけだ。最初は力加減が難しいと思うが、慣れれば心臓だけ潰せるから、覚えると良いぞ。他の小型の魔獣にも使えるしな」


「…………?ガルダー、分かる説明、お願いします」


「いや、俺も出来ないのだが……そうだな、心臓に物凄く強い衝撃を与えると、心臓が止まるんだ。何故だかは知らぬが……それで殺めたと言う事だ」


 ガルダーの説明に、間髪入れずに否定する。


「いや違うぞ。心臓に衝撃を与えて破裂させたんだ。肉も骨も内臓も、そうしたら傷が付かないだろ」


 ガルダーとヲルガの説明を両方聞き、ある程度の予想はついた。

 まず、ヲルガが見せた今の狩り方は、一朝一夕で出来るものでは無く、ずば抜けた才能か、弛まぬ努力、もしくはその両方が必要だ。

 心臓の位置を正確に覚え、そこを絶妙な力加減で突かなければいけない。その為には、自分で魔獣を解体して、正確な内臓の位置を覚える必要がある。基本的に心臓の位置はどの動物も変わらないだろうが、多少の構造の違いはあるだろう。


 ヲルガは今の狩り方を大した事ない様に言っているが、隣の冒険者の反応や、ガルダーの言い方からして、天才のヲルガだから出来る“技”と考えた方がいいかも知れない。


「ヲルガ、それ出来ない」


「魔法より簡単だぞ?試しにやってみろ」


 ヲルガはそう言って私に鞘に入った短剣を渡す。

 短剣とは言っても、私の腕とほぼ同じ長さのソレは、私が腰からぶら下げている剣と、大差ない長さに重量だ。

 この数ヶ月、毎日剣を振って鍛錬をしているとは言え、見た目が変わらないその腕は、剣先を細かく揺らしている。この状態でヲルガの様に素早く正確に、動くマグラビットの胸を突く事など不可能だ。


「頑張れリサ〜」


 マグラビットと対峙する私に、ヲルガは声援を呑気な口調で声援を送ってくる。先程まで顔を青く染めながら黙り込んでいた冒険者達も、今は活気を取り戻して此方を見つめていた。

 あまり大勢に見られながらは恥ずかしいので、早い所終わらせたい。だが、ヲルガの様には到底……

 そう考えているのも束の間、完全に意識を他所にやっている私を見たマグラビットは、チャンスとばかりに勢い良く飛び掛かってくる。


 私は咄嗟に、空中に剣を固定したまま大きく右にズレた後、重力に任せて剣を下に降ろしながら、地面に水平になる様に体を傾けて、反時計回りに全身を回す。

 そして、重力と遠心力で加速した短剣を、満月を描くように振り翳すと、そのまま空中にいるマグラビットの後頭部に振り下ろし、骨を粉砕する音を立てると、地面に思い切り叩き付ける。

 勢い余った短剣は、空中に半月を描くと、ようやく勢いを失い私の体と共に止まる。


「油断した。驚き!」


 私は素直に油断した事をヲルガに伝え、教えに背いた事に謝罪する様に頭を下げた。


「流石に気を抜き過ぎたな。こりゃ、中型魔獣はお預けか」


「…………!」


 私はその言葉にショックを受け、思わず口を強く結び、顔を熱くしながらヲルガに情けない目を向けてしまう。


「う、嘘だ嘘!今日マグゴートを狩る約束だもんな!だからそんな顔するなって!」


 慌てふためきながら私に謝るヲルガを見て、ハッとなった私は、慌ててヲルガに頭を下げた。


「ごめんなさい!私の油断の所為、ヲルガ正しい!」


「そ、そうか?……まぁ、どっちにしても、最初はマグゴートを狩る所を見せるだけのつもりだったからな。気にするな」


 ケラケラと笑いながら私の頭を撫で回すヲルガは、私が殺したマグラビットを指差して、嬉しそうに声を上げる。


「それに見ろよリサ!上手く頸椎を砕いたお陰で、使う場所の皮は無傷。内臓も肉も傷付いてないし、即死!流石だな!足を切って血抜きしたら、最高額で買い取って貰えるぞ!」


「本当!?買取楽しみ!」


 ヲルガはそのままマグラビットの足を、抜刀ついでに剣で斬り飛ばし、鞘に収めた後、マグラビットの首を鷲掴みにしてブンブンと振り回し始める。

 そして、かなりの量の血液を辺りに散布した後、胴や足を軽く絞り、中に残った血液を絞り出す。


「じゃあ、すぐにギルドに戻るか!カカライにコレ、自慢しに行こうぜ!」


「了解!ガルダー、行きましょう!」


「分かった。……おい、お前達は……どうした、真顔で佇んで」


 わいのわいのと騒ぎながらその場を後にする私とヲルガを見て、真顔で佇む冒険者達を見たガルダーは首を捻り、彼等の顔を覗き込む。


「い、いえ……俺達は後から向かいますんで、ヲルガさんとリサお嬢様に宜しく伝えて下さい……」


「本当にどうしたのだ……?まぁ良いか」


 此方に視線を合わさずに、遠くを見ながら、何故かさん付けやお嬢様呼びをする彼等を訝しむが、まあ良いと考えてガルダーは仲間2人の後を追い掛けた。


 そして、町の中へ彼等3人が消えて行ったのを確認した3人の冒険者は、その場にへたり込むと、同時に乾いた笑い声を上げ始めた。


 ヲルガ達を、令嬢のお遊戯隊だと笑っていた、昨日の自分達の言動を思い出しながら。


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