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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサちゃん 少女編
16/95

リサちゃん、冒険者になる。

誤字、脱字を見つけた際はご報告下さい。


『ーー問題はある。悪いリサ、お前にも知っていて欲しい事があるんだ』


 そう言うヲルガの表情は、物凄く真剣で、物凄く言い辛そうな感情を露わにしている。


 恐らくクルルのことだろうと私は察し、一度深呼吸してから覚悟を決めてヲルガを見詰める。


『…………分かった。本当の事教えて』


『……ああ、俺が見た、本当の事を教える。ギルドマスター、さっきの村での話、あれは嘘だ。今から事実を話す』


 目を瞑り、軽く息を吐き出すと、机の一点を見つめながら、村で起きた出来事を1から細かく私達に伝え始める。


『さっきはクルルが発狂してリサを襲いそうになったと言ったが……実際にリサは襲われている。肩を潰され、粉砕した鎖骨は胸部をズタズタに引き裂いた。リサも、そこら辺は覚えているだろう?』


 私は視線を下に落としながら、静かに頷く。

 だが、対面に座るグラブは、嘘を吐くなと言いたげに眉間に皺を寄せ、歯を食い縛る。


『そして、リサにも話したが、クルルを引き剥がした後、リサの全身が突然燃え出した。問題はその後だ。ーーーークルルの手や腕に付着したリサの血が、燃えた紙切れの様に舞い上がったんだ。“クルルの腕を炭化させながら”。俺は咄嗟にクルルの腕を切り落としたが、その侵食は止まらず……』


 それを聞いた私は、意外な事にあまり驚かなかった。


 何故なら私は、それを“知っていたから”。


 精神的に追い詰められた状況下、私の正気を保つ為、意図的で無意識に、あの光景を封じていたのだ。

 マンイーターボア。あの魔獣が私の腸を食い荒らした後、口から大量の灰を垂れ流し、跡形も無く消えていく所を。

 その時の、マンイーターボアが垂れ流した糞尿すら、次に目を覚ました時には消えていた。私から生成された赤い水溜りに浸かっていたからかは分からないが、臭いさえも残さず。


 猪と狼の魔獣の時とは違い、クルルは私の血を浴びただけ。その二つと違う状況に、違う原因。だが、彼は身につけている物以外何も残さず、跡形も無く消えた。


『だけど、クルルを引き剥がした時に、俺達にも血は付いていたんだが、俺達の方には何も異常は出なかった。その事を考えると、リサの能力は“自身を傷付けた者への自動反撃”だ。威力は……話した通り、人1人は余裕で消し炭に変えられるレベルだな』


 これが俺の見た真実だ。と、話を締めくくると、私を見て『ごめん』と頭を深く下げる。


 瞼を閉じ、視界を遮断した私は、ヲルガが頭を下げている事に気付かない。それどころか、思考の海に浸かっている所為で、謝る声すら聞き逃してしまった。


 だが、それも束の間。私の意識は怒声と共に引き摺り出される。


『そんな嘘を吐いてやり過ごせる程、私は馬鹿ではない!コレでもテリ支部のギルドマスターだぞ!?』


『お、おっさん……いきなり怒るなよ……』


 ヲルガの説明に、やはり納得がいっていなかったグラブは、キッと此方を睨み付けながら言葉を続ける。


『私も元冒険者!そんな大怪我を負って、しかもそれが数日前の話だ!今ここでピンピンと会話が出来る訳が無い!王族ですらそんな大怪我、跡形も無く治す事は不可能だ!』


 手形がつくのでは無いかと思う程、グラブは思い切り机を叩き、上に乗っていたカップやポット、魔道具が宙に浮いて、不恰好に着地する。


『気持ちは分かるがそれが事実だ!そもそも、嘘を吐く理由が何処にある!』


『お尋ね者になったと、さっき自分で言っていただろう!嘘を吐くには十分な理由だ!』


『あ……。いや、そうだが、勘違いなんだよ!』


 コンコン。と鳴り響く部屋の扉が、2人の言い争いに割って入る。


『後にしてくれ!今は手が離せん!』


『いえ、此方も至急お伝えしなければいけない事がーー』


 その声はミーファの物だ。


『後にしろ!それとも、コイツらに関係ある事なのか!?』


『はい、ギルドマスター。それで、何故ドア越しの私と意思疎通が取れているのですか?』


『何言ってるんだ!遮音の魔道具を使っているのに、意思疎通が取れる訳ないだろ!……?取れないよな?』


『はい。遮音の魔道具が“起動していれば”室内の声は聞こえませんから』


 その言葉を聞き、先程まで赤かった額を青く塗り替える。


『ど……何処から…………』


『“お尋ね者になったと、さっき自分で言っただろう”と、最初に聞こえて来ましたよ。失礼します』


 ミーファはグラブの断り無く扉を開け、室内に足を踏み入れると私達に一礼する。

 そして、散らかったテーブルの上を素早く片付け、魔道具を起動させ直すと、グラブの横に立ち、再び私達に頭を下げた。


『お嬢様に対しての無礼、並びに、此方の不手際で情報を漏洩させてしてしまい、大変申し訳ございません』


『無礼云々は一旦置いといて、一般人に不当な圧力をかけた事と、情報漏洩の件はちゃんと詫びて貰うからな』


『勿論。後日、本部から然るべき処罰を下します』


 それを聞いたグラブは更に顔を青く染め、頭を抱えながら『やばい……』と独り事を呟いている。


『して、依頼の話し合いの方は如何しますか??宜しければ此方で改めて場を設けますが、お嬢様一向の都合もあると存じますので』


『あ〜……悪いが、リサはお嬢様じゃ無いらしいんだ。そこら辺も詳しく聞きたいし、もう少しこの部屋を借りても良いか?』


 ミーファは二つ返事で頷くと、グラブを連れ出すかどうか尋ねてくる。


『分かりました。ギルドマスターは同席させますか?』


『寧ろミーファもこの場に残ってくれ。俺とギルドマスターだけでは決め辛い』


『承知しました。……席を開けなさい』


 そう言うと、今だに蹲るグラブのスキンヘッドを、ペチンと良い音を立てながら引っ叩く。

 それに驚いたグラブは、バッと顔を上げて自分の頭を叩いた人物を睨み付けるが、『ヒェ……』と情けない声を上げて、ソファの端に寄ると縮こまる。


『プラナさんみたいだね……』


『リサは大人になってもああなるなよ?気の強い女は婚期を逃すーー』


 ヲルガは私に何か言いかけると、ミーファさんを見詰めて固まってしまう。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。

 逆に、ミーファさんはヲルガを見てニコニコとしている。が、プラナの時同様、眼に光を宿していない。


『ヲルガ、ヲルガ。大事な話があるんでしょ?ヲルガ』


 何度も呼びかけながら頬を突き、腕を激しく揺らした所で、ようやくヲルガは我に返り、思い出したかの様に呼吸を再開すると、話を始める。


『あ、ああ、そうだったな。リサ、お前は異国の平民なんだよな?』


『うん。多分大陸が違うと思う。私の国は島国だし』


『そうか……森で目が覚めたらって言ってたが、その前は何処で何を?』


『自分の家で寝てた。それ以外は分からない。』


『そうか…………となると、誘拐では無さそうだし、国家関係のイザコザでも無さそうだな』


『転移魔法をかけられたか、その類の魔道具の誤発……恐らく後者かと。ですが島国ですか……』


 ミーファは少し考えた後、私を見て言い辛そうに言葉を続けた。


『私達の国のある大陸は、島国との交流が一切ありません。ですので、地図には載っていませんし、海図も正確な物は……それらを踏まえると、リサさんが母国へ帰るのはほぼ不可能かと……』


『そうなんだ……』


 分かっていた。そもそもここは異世界、私の国が存在しないのだから。

 だが、知っていても、他人から事実を突き付けられると、心にくるものがある。

 ママとパパに会えない。その事実は、子供である私の心に大きな傷をつけた。


 自分の意思とは無関係に涙が溢れ落ち、喉を痙攣させて声にならない声を上げる。

 この世界に来てから、人前で泣いてばかりだ。前の世界は、泣く様な出来事すら無かったと言うのに、この世界に来てから泣いてばかりだ。


 泣いている私の姿を見て、ヲルガは慌て、ミーファは罪悪感に蝕まれた様に顔に影を落とす。あのグラブでさえ、私を見て動揺していた。

 また、誰かを困らせている。だが、泣き止まなければと考える程、それに反して涙が溢れ出る。


『うっ……ズッ……!ごめ……ヲルガ……』


『なんで謝るんだよ。泣き止めって』


『むり……むりぃ……!』


『……リサ、話の続きだ。そのままで良いから聞いてくれ』


 ヲルガは、泣き止まない私の頭を撫でながら言葉を続ける。


『リサ、お前さえ良ければ、俺と一緒に冒険者をやらないか?身分もギルドから保証して貰えるし、俺もリサの世話が出来る。お金を貯めれば、海を渡って他の大陸にも行ける。そしたらきっと、お前の国にも戻れるかも知れないだろ?』


『……そうですね。このままでは孤児院行き。それに、冒険者では養子を取れませんし、旅をすれば同郷の者に会えるかもしれません。リサさん、私からも、冒険者になる事をお勧めします』


『ぐずっ……で、も……私、運動音痴……だし』


『大丈夫だ!一人で2日も、あの森で生きていけたんだ!それを考えたら大体の事は余裕だぜ!』


 だから、な?


 冒険者がどういうものなのか全く分からない。それを続けても、絶対に家族の元へは帰れない。でも、この異国の地で生きていくには、そうするしか無いのだろう。


『分かっ……私、冒険者……なる』


 その決断は、私の人生を大きく変える。それが、私にとって良い物であったかは、まさに神のみぞ知ると言えるだろう。だが、私はそれを“良い事”だと信じる。


 例え、神が最悪の決断だと罵ったとしても。


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