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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサちゃん 少女編
13/95

13

超絶プリチー天使のリサちゃん視点です


「んん……ふぁぁぁ……よく寝たぁ……って、へ?」


 数日ぶりの睡眠に、心地良い身体の硬直を感じながら、それをほぐす為に両手を上に目一杯伸ばした。その時、自分の顔に覆い被さっていた“何か”が手に当たり、同時に視界が変わった。

 まだ薄暗い茜色の空。涼やかな風に靡いた髪が、頬を擽る。そして、くすぐったさと寝起きの顔が混ざり合った、私の間抜けな顔を見下ろす瞳と目が合った。


「ーーーー?ーーーー」


 未だ見慣れぬ顔に、一瞬動揺してしまう。


「おはよ……。それで、ここはどこ?」


 起き上がり、身体を動かそうとするも、身体に纏わり付いた毛布がそれを邪魔する。が、邪魔をしていたのは毛布だけでは無かった。


「……なんで私、抱っこされてるの?」


 よく見ると、私はヲルガに抱き抱えられていた。膝裏と背中を支えられて、謂わば“お姫様抱っこ”の状態で、ヲルガの腕の中に固定されていたのだ。


(驚いた時に動かなくて良かった……)


 あの時、暴れでもしていたら、目を覚ました瞬間に再び気を失う事になっていただろう。そう思うと、私の身体を固定してくれていた毛布とヲルガには感謝しなければいけない。


「まぁ良いや、ありがとヲルガ。もう下ろして──」


 その時漸く、自分の声が普段と同じ事に気が付いた。


 意訳石が機能していない。そもそも、アレがどの様に動いているかは定かでは無いが、今はそんな事どうでもいい。


(これだと会話が出来ないじゃん!)


 慌てて捲れた毛布の隙間に腕を潜り込ませると、両ポケットの中に手を突っ込んで入っている物を全て掴むと、毛布から手を出した。


 左手には丸い水晶、右手には黒い石。それがある事を確認すると、ホッと、安堵の溜息を漏らしてから声を出す。


『あ、あー。うん。ありがとヲルガ、恥ずかしいからもう下ろして』


『立てそうか?』


『うん』


 心配そうに私から毛布を捲るヲルガに対し、足を揺らして頷くと、ヲルガはニコリと笑いながら私を地面にそっと下ろした。


『おはようリサちゃん』


『おはよう』


 地面に降りた次いでに、手に持った水晶たちをポケットに仕舞い込むと、プラナとガルダーが私に挨拶をする。


『おはよう二人とも』


 ニコリと笑みを浮かべながら元気に挨拶を返すと、プラナが此方に走り寄って来る。そして、私に思い切り抱き付くと、頭を撫で回してきた。


『おはようリサちゃん!』


『あだっ!いだいだい!胸の板押し付けないで!』


 咄嗟に顔を背けた事で、なんかと鼻だけは守ることが出来たが、代わりに頬骨がゴリゴリと音を立てて肉を潰す。その痛みに悲鳴を上げながら、私の頭を撫でるプラナの二の腕を掴むと、


『あっ、ごめんね』


と言って抱き締める力を緩めた。が、解放はしてくれなかった。

 プラナの行動に見兼ねたのか、ヲルガは溜息を吐くと、プラナに羽交い締めをして私から引き剥がした。


『いい加減にしろプラナ、リサも困ってるだろ』


『分かったけど、か弱い女性を羽交い締めにするんじゃないわよ!』


 その言葉通り、何の抵抗も見せないプラナを、ヲルガはケラケラと笑いながら解放する。そして、“デリカシーの無い”発言を繰り出した。


『何言ってんだよ!か弱い?女性?ッハ!何処にそんな可愛げのある女ごぶぁ!』


 繰り出そうとした。が、発言の途中に、目にも止まらぬ速さで繰り出されたプラナの拳が鳩尾に刺さり、言い終わる前に地面へ崩れ落ちた。


『面白い冗談ね、本当。今のは気持ちばかりのチップよ、足りなかったら言いなさい』


『あ…………りが……ま……。だい……じょ……っす』


 腹を押さえ、呼吸もままならない中、ヲルガはプラナに対して礼を述べて追加の報酬を固辞した。


『そう?なら良いわ。じゃあリサちゃん、行きましょうか』


 ニコリと綺麗な笑みを浮かべるプラナの目は笑っていない。が、それに対しての恐怖は一切芽生えなかった。あれは、ヲルガが一方的に悪いのだ。

 よく考えなくても、私をプラナから解放してくれた恩人ではあるのだが、その恩を返すには些か状況が悪かった。


(ごめんねヲルガ)


 ヲルガの方を見ながら、心の中で謝罪する。それに気付いたガルダーは、


『気にする必要は無い。いつもの事だ』


と私に伝え、ヲルガをその場に残して歩き始める。


 それに続いて、プラナは私の手を引いて歩き出したので、釣られて私も足を動かした。


(寝起きから、情報量が多過ぎるよ……)


 溜息を吐く私に、プラナは首を傾げる。それに対して『何でもない』と答えると、目を覚ましてから初めて周囲を見回す。


 茜色だった空はいつの間にか青空に変わり、見渡す限りの草原の葉を蒼く染め、宝石の様な朝露に光を反射させている。

 足元に伸びる茶色の道は、まるで永遠に続いているかの様に地平線まで伸びており、小高い丘や遠くの山が丸い世界に波を描く。

 案の定、人工物の類は見えない。が、代わりに動物たちの姿が散見出来る。羊の様なモコモコの毛を生やした生き物や、鶏冠の代わりに赤黒い角を生やした鶏。少し離れた場所には角を生やした兎までいる。どれも、図鑑やネットでは見た事の無い生き物だ。


 動物と触れ合う機会が殆ど無く、コンクリートジャングルで生まれ育った私にとっては目の前に広がる光景は新鮮で、心踊る物だ。それこそ、何故眠ってしまったのか忘れてしまう程に。


『わぁ……!』


『箱入りお嬢様には、この景色は新鮮か?』


 背後から聞こえた声に、満面の笑みで振り向く。


『あら、もう動けるの?』


 プラナの言葉に、ヲルガは苦笑いを浮かべた。


『満身創痍だよ……。で、リサ。どうだ?魔獣を知らないお前にとっては、見た事ない世界だろ』


 わざとらしく腹を押さえたヲルガは、私に再びそう聞いてくる。


『うん!その……まじゅう?ってのはよく分かんないけど、動物がいっぱい居るの初めて見た!』


 目を爛々と輝かせ、再び周囲を見回す。その時、道脇の草陰から小さな蛇が頭を出しているのを見つけた。


『あ!蛇だ!可愛い!あ、そうだ。……ご利益ご利益』


『……何してんだ?』


 蛇を見て盛り上がっている途中で、思い出した様に突然手を擦り合わせる私を見て、ヲルガは訝しんだ顔で首を傾げた。


『蛇は神様なんだ、ってパパが言ってた。だから手を合わせてるの』


 私はそう答えながら、草陰に戻ってゆく蛇に対して手を振った。


 何故、念仏の様に“ご利益”と唱えるかと言うと、珍しい物や縁起の良い物を見た時に、パパがよく言っているのを真似しただけで、特に意味は無い。


『蛇が神様かぁ……変わった宗教だな。って、そんな事言うべじゃ無いな』


『宗教じゃ無いよ』


『神と崇めて拝んでるのにか?……他国の価値観はよく分からんな』


 隣で話を聞いていたプラナも、ヲルガと顔を見合わせながら、私の言動に首を傾げていた。ガルダーに関しては話に興味が無いのか、前を向いたまま黙っている。


『……話は変わるんだけどさ、今ってどこに向かって歩いてるの?』


『あぁ、言ってなかったな。今は“テリ”って町に向かってるんだ。俺たちが受けた依頼の報告もあるし、冒険者や商人が多い分、面倒事も少ないからな』


 微妙な空気が流れたのを感じ、話題を今向かっている場所へと変えた。すると、ヲルガもすぐにそちらに話題を変え、そう答えた。


『ふ〜ん』


 私がそう答えたのは興味が無いからでは無く、深く聞き返し辛い内容だったからだ。

 その返事に、ヲルガは一切反応する事なく、


『後一、二時間もしたら町に着くぞ。もし疲れたら負ぶってやるから気軽に言ってくれよ!』


と言った。その言葉に


(気が利いて優しいのに、何であんな残念なんだろう)


そう、頭の中で思いながら、


『ありがと、でも大丈夫。歩くの得意だから』


と答えた。


 歩くのに得意も不得意も無いと思うが、そう答えるのが無難だろう。


『本当か?……正直助かるぜ。なんせ、夜の間ずっとリサを抱えて歩いてたから疲れてたんだ』


 肩をクルクルと回しながら、疲れを一切見せない笑顔を浮かべるヲルガに対し、プラナが睨み付けながら声を荒げた。


『何言ってるのよ!自業自得でしょう!?』


 プラナはそう言うが、あの場で寝てしまったのは私であり、ヲルガは関係無い。しかも、今まで文句を言わずに居てくれた相手に、私はお礼すらしていなのだ。


『ご、ごめんねヲルガ……』


 謝罪よりお礼を言うべきか迷ったが、ここは先に謝罪する。


『お嬢、その残念男の事は気にするな。疲れたら俺が抱えてやるからな』


『ガルダーまで俺をそう言うのか!?リサ!今のは冗談だからな!?冗談じゃ無いが……とにかく冗談だ!忘れてくれ!』


 仲間と思っていたガルダーにまで梯子を下され、慌てふためきながら支離滅裂な事を言うヲルガに、私は思わず吹き出した。


『んふふ!ヲルガ慌てすぎ!』


『なっ!だからって笑うなよぉ!おい!お前たちも笑うな!』


『あはははは!だってヲルガ、今すごい顔してたわよ!?笑うなって方が無理よ!』


『ガハハハハ!違い無い!あの間抜け面と言い、慌て振りと言い、良い話の種になりそうだ!』


 一人を除いて大声で笑い合っていると、道の先から僅かだが、建物らしき影が生えてきた。


『ねぇ、アレって……』


 笑いを一旦止めると、道の先を指差した。


『お、リサにも見えてきたか。あれがさっき言ってた、俺たちが向かってる町、テリだ』


 ここからではまだ、町がどの様な場所なのかは見えない。それでも、自然に囲まれた、訪れたことの無い町の影を見て、私は再び心を踊らせた。


『楽しみぃ!あ、そうだ!ねぇヲルガ、町に着くまで、さっき言ってたまじゅうの事教えてよ!例えば……アレ!』


 私はそう言うと、少し離れた場所からこちらを眺めるモコモコの動物を指差した。


『あぁ、アレは“マグゴート”、上に伸びた角が特徴だな。近付くなよ?アイツら攻撃的で、テリトリーに入った瞬間ブスッと刺してくるからな』


 私を脅かす様にわざと声を低くし、指で頭に角を作り出しながら、そう教えてくれた。


『ゴートなんだ……で、その“マグ”って何?』


 あのモコモコの生き物が、羊では無く山羊である事に驚きながらも、聞いた事ない頭文字に首を傾げる。


『マグってのは、魔獣を指す言葉だ。ゴートやラビットだけだと、言葉だけでは動物か魔獣かの区別が付かないからな。まぁ、先人が付けた記号みたいなもんさ。何故マグなのかは俺には分からん』


 記号……種族名の様な物だろうか。最初は動物の事をまじゅうと呼んでいると思っていたが、話を聞く限りこの国には、動物とは別に魔獣と呼ばれる生き物が居るらしい。

 この国の固有種では無く、この国特有の“突然変異種”と言った方が正しいだろう。その変異種の特徴は“赤黒い角”が生えると言った所か。であれば……


『じゃあ、あの兎は“マグラビット”……かな?』


 自分の考えを確かめる様に、遠くで飛び跳ねる角の生えた兎を指差して名前を口にした。すると、


『おぉ!賢いなお前!そうだ、アレはマグラビット。近付いたら角で刺されるから気をつけろよ!』


ヲルガは私の頭を撫でながら、追加の情報を教えてくれた。


 マグゴートならまだしも、マグラビットも角で突いてくるのが特徴なのかと、一律された個性を憐れむ。

 兎であれば、その頑丈な前歯で噛み付いたらどうだ。そう思ったが、兎に喰われる事を想像してしまい、自分の考えに後悔した。


『……角だけで良かった』


 そう安心したのも束の間。


『アイツら噛み付いてもくるからな』


 と、更に追加された不必要な情報を聞いて、顔から血の気が引く。


『それは聞きたく無かった……』


 私の想像の中の可愛らしい兎の姿が一瞬にして崩壊し、人肉を喰らう凶暴な物へと形を変える。今後、癒し動画に出てくる兎と飼い主を、どの様な目で見れば良いのか。そう考える頭の中では、過去の癒し動画が、不注意で見てしまったスプラッター物へと差し代わりかけていた。

 話題を変えなければ、kawaii記憶の物たちが、yamikawaに染まってしまう。それはそれで可愛いが、私の求める物では無い。


『じゃ、じゃああれ、アレは何?マグ……チキン?』


 すごく離れた場所で数羽で集まって屯している鶏を指差した。チキンは正確には鶏肉という意味だった気もするが、そこは気にしない。


『惜しいな、アレはマグチックだ。アイツはここらに居る魔獣の中で一番凶暴だが、一番必要不可欠な魔獣だ。近付くなよ?アイツらの縄張りに入った瞬間、鉤爪で引き裂かれるか、嘴でミンチにされるかの二択だからな』


『チック……』


 この流れで角を使って攻撃してこない事と、動画で見た事ある鶏らしい攻撃方法に一周回って拍子抜けする。所詮は鶏、角が生えてもその程度か。そう、心の中で馬鹿にしたが、その時、彼らの容姿に若干の違和感を覚える。

 かなり離れた場所に居るはずの鶏たち。それなのに、私の近くで跳ねる兎と同じ……いや、それより大きく見える。


『なんか、あの鶏大きくない?私の気のせい?』


『気のせいじゃ無くて馬鹿でかいぞ。普通のサイズでもリサと大差無い身長だし、かなり重い。100キロ近くあるんじゃないか?』


『凄い大きいんだね。……あ、必要不可欠ってそう言う意味?』


『そうだ。アイツらは数も多くて可食部も多い。村人たちにとっては食の救世主って訳だ。皮肉だがな』


 皮肉とはどう言う意味だろう。食肉に掛けているのであれば座布団一枚だが、笑いの感性が同じとは思えないし、冗談を言っている様子でも無い。


『皮肉って何が──あ、声が戻っちゃった」


 話の途中で突然、意訳石の機能が停止してしまったので、再度、意訳石を使用する為にポケットに手を伸ばすと、ヲルガに腕を優しく掴まれた。

 何事かと思いヲルガの顔を見ると、言葉が通じない事を理解しているヲルガは首を横に振る。そして、傍に抱えた毛布を広げると、私に手招きして両腕を広げた。


 まだ聞きたい事が沢山あるのに。動物と魔獣の違いや、道の近くにいる海月の様な生き物の事とか、他にも色々。

 だが、誰よりも会話を楽しんでいるヲルガが止めると言う事は、何か理由があるのだろう。恐らくだが、意訳石の存在を知られたく無い理由が。


 今は確かめる術は無いし、その必要も無い。そう判断した私は、ヲルガの顔を見て黙って頷くと、広げられた腕の中に潜り込んだ。

 ヲルガは私が目覚めた時と同様に、私を覆う様に毛布を巻き付けると、左手に嵌めた盾を右手に嵌め直してから私を抱き上げる。他の人たちから私の顔が見えない様に、盾を覆い被せながら。


 そして、抱き抱えられながら暇な時間を過ごす事小一時間。私は町の全容を拝む事が出来ないまま、テリの町に辿り着いた。

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