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残念金髪イケメンお兄さん視点です。まだロリコンじゃ無いです。
『プラナ!準備しろ!』
俺はプラナたちが待つ部屋の扉を勢い良く開け放つと、少女の頭を優しく撫でながらニマニマと笑みを浮かべるプラナにそう言い放った。
するとプラナは肩を跳ね上げながら、悪くするんじゃ無いかと心配になるくらい勢い良く顔を上げて此方に振り向いた。
『──っ!ちょっと!びっくりするじゃない!ノックぐらいしなさいよね!』
こいつ、今の状況を理解しているのだろうか?そう思ってしまう程、プラナは寛いでいた。
『何寛いでんだよ……そんなにその子が可愛いか?悪いが、愛でるなら町に戻ってからにしてくれ』
普段絶対に見せない様なプラナの気の抜け様に、悪態を吐きながら両手の盾を床に置き、クローゼットの中に入れていた自分のリュックを掴んで背負うと、自分の背中に密着する様に肩紐を締め上げる。
本来であれば、麻袋を肩からぶら下げる方が得策だが、正規のサポーターが居ない内は仕方ないと、内心でリュックに対する不満を吐露しながらも、次いでにガルダーのリュックもクローゼットから取り出して本人に渡す。
リュックを受け取ったガルダーは、一度大盾を背中の金具から外すと壁に立て掛け、俺と同じ様にリュックを背中に固定した。
準備は万端。そう意気込もうと気絶する少女に目を遣ると、未だに何の準備もしていないプラナと目が合った。
『……何やってんだ?』
『え、リサちゃんを撫でてるんだけ──』
『違うだろ!なんで準備してないのか聞いてんだよ!……ったく、本当にどうしたよ。まぁ良い。プラナ、今から俺たちはこの建物から脱出し、村を出て町へ向かう。作戦を伝えるから準備しながら聞け』
怒鳴りながら、
(こいつ、変な趣味とか無いよな?)
と内心で心配する。そして、漸く動き出したプラナを横目に、ベッドから毛布を剥がし取り、横たわる少女を包みながら話を続ける。
『いいか?建物の入り口上に、換気用の丸い十時窓があるだろ?あそこから外に向かって火矢を放つ。最悪建物に火が着いても構わない。リサが燃えてたんだ、違和感は無いだろ。……よっと』
少女を包み終えると、抱き抱えてベッドの上に寝かせる。
『火矢か。その後はどうする』
ガルダーの質問に、準備を終えたプラナが頷きながら俺を見る。
『注意を引いている間に、この部屋の窓を蹴り壊して外へ出る。順序はその時に説明するから、ガルダーは隣の部屋から毛布を持って来い。プラナ、お前は俺と一緒に広間に向かうぞ。“火”が必要だからな』
そして、俺たちは少女をベッドの上に残したまま部屋を後にする。
ガルダーは隣の部屋へ向かい、それを見送る事なく俺とプラナは広間に向かうと、クルルのリュックを漁り始める。
「確か弓がここに……あったあった。で、矢は反対側か。言っちゃぁ悪いが、アイツがリュックを背負ったまま消えなくて良かったぜ」
俺はクルルのリュックの左サイドポケットに仕舞われた、折り畳まれた小型の弩と、反対側のサイドポケットに仕舞われた矢筒を取り出すと、一度床にそれらを置いて、リュックの中にある松明用のボロ布と油を取り出した。
そして、弩を組み立て矢筒から矢を四本取り出すと、ボロ布を細く割いて鏃に巻き付け油に浸し、残った布と油はリュックへ戻す
その時、丁度毛布を運び終えたガルダーが此方に来たので、クルルのリュックを部屋まで持って行かせた。
準備は完了。後は鏃に火を着けるだけ。
「プラナ、頼んだ」
そう言うと、四本の矢をプラナに手渡す。
「了解」
矢を受け取ったプラナは、右手を胸の前に出して手のひらを上に向けた。その瞬間──
ボウッ
と音を立てて、手のひらから数センチ離れた何も無い空中から突然、拳より一回り小な“火の玉”が現れた。
その火の玉に、プラナは左手に持った矢の鏃を突き刺すと、塗られた油に火が燃え移る。
「はい。全部外すなんてダサい真似、しないでよね?」
「当たり前だろ?まぁ、外しても問題は無いがな」
プラナの挑発……もとい鼓舞に、自信満々に答えながらも、外した時の保険をかけた。そして、プラナが今行った行為に対して羨望の声を漏らす。
「だが、何度見ても“魔法”は本当に便利だよなぁ。やっぱり俺も覚えようかな」
「その方が良いわよ。何回も言ってるけど、解体の時に毎回川を探したり、私を呼んだりしなくて済むのだから」
本当に何度も言われた言葉だが、毎度の事ながらやる気は出ない。せめて一緒に練習してくれる相手でも見つかれば、競争という名のやる気が出るのだが。
「今度ガルダーでも無理に付き合わせるかな」
そう一人で呟きながら、扉とは反対側の壁際まで移動し、プラナから火矢を一本受け取ると、右手に持った弩に装填する。そして、慎重に狙いを定めて弦の留め具を外した。
空気を切り裂く鋭い音に、炎が蠢く風音。一瞬、勢いで火が消えてしまうのでは無いかと心配したが、鏃を燃やしながら無事に外へ飛んでゆく矢を見て、二つの意味で安堵した。
「おぉ、流石俺だな」
火矢の飛来に騒然とする外の声を聞き流しながら、空いた手を差し出して火矢を受け取ると、装填し、再び窓の外に向けて放つ。が、タンッという軽い音を立てながら、窓のすぐ下の壁に刺さった。
「惜しい!でも上手いな」
壁に突き刺さった火矢はゆっくりと、布に含まれた油を炎と共に垂れ流し、赤い線を描いてゆく。
(想像より燃え広がるのが早いな)
想像よりも早い延焼速度を見て、俺はプラナから残りの火矢を受け取ると、一本は左の通路の手前の窓に。もう一本は扉の右側にある窓に、それぞれ放つ。
「話と違うじゃないの」
淡々と、興味無さげに呟くプラナは、口ではそう言うが、色々と察している様子で俺に背を向け、返事を待たずに元いた部屋へと戻っていく。
「そう言うなら、もっと興味を持ってくれよ」
矢を失った弩を床へ投げ捨て、外から聞こえる村人や村長の叫び声を聞きながら、足早に部屋に向かった。
部屋に戻ると、ガルダーは俺が指示を出す前から既に、ある程度の準備をしていた様で、木窓には、盾に装備していた手斧で傷を付け、クルルのリュックには全体が隠れる様に毛布で包まれていた。
『話が早くて助かるぜ』
『まぁな』
素直に礼を言い、まだ説明していない残りの作戦を伝える。
『建物が燃えているから手短に。ガルダー、窓を蹴破った後リュックを外へ投げろ。で、一拍置いてから、両手に盾を構えてお前に飛び出てもらう。一番危ないが、一番安全な方法だ』
『了解』
ガルダーは文句の一つも言わずに頷くと、壁に立て掛けてある自分の大盾を左手に持ち、俺の盾一つサイドテーブルの上に置くと、毛布で包んだリュックを右で掴み上げる。
『プラナは近くに村人が居た場合に備えて、いつでも水魔法を撃てる様に準備しろ。目を狙えよ』
『私程度の魔法なら怪我させずに済むものね。分かったわ』
そう言うと、プラナは両手のひらから丸パン程の大きさの水球を作り出した。
『俺は最後尾でリサを抱えて後を追う。村を出るまで隊列はそのままだ』
俺はもう一つの自分の盾を右手に持つと、ベッドで眠る少女を抱き抱える。念の為、少女の頭を盾で覆う様に抱き抱えるが、村人の攻撃よりも、走った振動で盾や鎧が当たる方が怪我をしそうだと考える。だが、その為の毛布でもある。それに、多少の痣は仕方無い。
『準備は良いな?……行くぞ!』
声高らかに合図を送ると、ガルダーが思い切り木窓を蹴り付け、大きな衝撃音と共に蹴り破った。
そして、右手に持ったリュックを外へ投げ飛ばし、サイドテーブルに置かれた盾を取る。そして、外へ飛び出そうとしたその瞬間。
──ガキンッ
という音と共に、リュックに投擲された農具が突き刺さった。
それに怯む事無く外へ飛び出したガルダーは、奥に見える村を囲う柵に向かって走りながらプラナに叫んだ。
『左4m武器無し一人!』
その叫び声に合わせてプラナは外へ飛び出し、両手のひらに浮かせた水球を目標へ投げ付ける。
『ぶごぉぉぉぉあ!』
溺れた様な悲鳴を上げる村人の叫び声を聞いて、
(目に当てろよ……)
と思いながらも、内心ガッツポーズを浮かべると、少女を落とさない様に強く抱き抱えながら窓から飛び出した。
外は村の裏側と言うこともあり、松明の灯りが少なくかなり暗い。
すぐ近くに、先程叫び声を上げた村人が持っていた松明が転がっているお陰で、なんとか足元を確認する事は出来るが、奥にある柵の場所がいまいち把握出来ない。
暗闇に目が慣れていない。と言えばそうなのだが、正確には違う。
少女の左ポケットに仕舞われた丸い水晶。プラナがいつの間にか入れていたソレが、俺の瞳に光を差し込み、手前の闇を濃くさせているのだ。
『くそっ!』
だからと言って、ここでプラナに火を出させてしまうと、村人たちの恰好の的にさせてしまう。そう思いながら、記憶とプラナの後ろ姿を頼りに走り続ける。
その時、背中を突き刺す様な悪寒に襲われ、本能的に身を捩りながら強く地面を蹴り付けて、一瞬だけ加速した。次の瞬間。
──ヒュン
先程聞いた風切り音。先程、扉の前で自分が発していたあの音が、耳元を掠める。
急に傾く体。振り子の様に、背中で揺れるリュックに体が一瞬持っていかれ、脚が縺れるのを既の所で踏ん張り、再び足を進める。
左腕から滑り落ちたリュックは、右肩の紐がまるで鋭い刃物で裂かれた様に切れていた。
『くそっ!くそっ!中身ごと買い替えかよ!今回の報酬も期待出来ないし、大赤字だ!』
背中に冷や汗が伝う。死神の鎌が首元を撫で、薄皮を裂かれる恐怖に、無意識に顔が歪む。
(死んでたまるかよ)
冒険者は常に死と隣り合わせ。いつ死んでも悔いが無い……のは嘘だが、いつ死んでも良い様に心構えをしている。だが、それは魔獣や魔物、動物相手であって“人間相手”では無い。
かと言って、人外相手に無様に死ぬつもりも、命をくれてやるつもりも毛頭無いが、人間相手にだけは殺されたく無い。それが、冒険者という生き物であり、皆が持つ意地だ。
生の執念が死の恐怖を抑え込み、意地で喰らって活力にする。火事場の馬鹿力とは、そういう物だ。
先程とは比にならない程瞬時に加速して、速度を緩める事無く足を回す。
追撃は無い。柵も目の前。そのまま足に力を入れ、前を走っていたプラナと同時に柵を飛び越えた。
『一旦村から離れるぞ!街道に戻るのは後だ!』
今、村の外を回って街道へ向かうと、“狙撃手”に狙われる可能性が高い。そう考え、街道とは真反対の平原に向かって走る。そして、走りながら指示を出して隊列を組み直した。
『弓を撃った奴がいる!後方には気を付けろ!ガルダーは殿、プラナは魁で行く。俺は何も出来んから期待するな!』
その言葉にガルダーは速度を落とし、反対にプラナは少し速度を上げる。
『何処まで行けば良いの!?』
先頭に代わったプラナがそう聞く。
『所詮相手は弓で今は夜だ!そろそろ回って街道へ向かって良いだろう!』
それを聞いたプラナは緩やかに左へ進路を変え、街道がある方へと向かう。
追手は居ない。付近に魔獣や動物の影も無い。この状況自体奇禍ではあるが、無事に逃げられた事は僥倖と言えるだろう。
かなりの大回りをし、街道へ辿り着いた頃には、俺たち全員の息は上がっていた。足は大岩が乗った様に重く、肺は悲鳴を上げて喉が痙攣している。出来れば、足を止めずにこのまま街へ向かいたい所だが、分かっていても、誰もその場から動こうとはしなかった。
皆、無言。いや、声が出せないのだ。唯一、軽装で荷も少ないプラナだけは少女を気遣う余裕を見せるが、その少女を抱えていた俺や、大盾を持ち厚い鎧に身を纏ったガルダーは、周囲の警戒をする余裕すら無かった。
人間相手はこれだから嫌なのだ。殺す気で襲い掛かってくる相手に手を出さず、全力で逃げなければいけない。だからと言って、その相手を殺す様な事は絶対にしないし、選択肢にも出てこないが。
仰向けになり、星空を眺めながら息を整える。心臓は未だに激しく打っているが、足の痛みや喉の痙攣は消えてゆく。霧がかかった様に霞んだ視界もクリアになり、周囲を警戒する余裕も生まれ始めた。
(そろそろ動かないとな)
そう思い、身体を起こすと、いつの間にか地面に下ろしていた隣で眠る少女を抱き抱え、周囲を見回す。
村の松明は見えるが、動く灯りは見えない。火を放った建物も、ここから見る限りではあるが既に鎮火している様だ。
『ガルダー、動けるか?』
未だに横向きで寝そべるガルダーに対して声を掛ける。
『……あぁ、欲を言えばこのまま眠りたいが、な』
ガルダーは横向きのまま足を丸めると、一度胡座をかく体勢で身体を起こしてから立ち上がった。
『仲間に死なれるのは御免だから辞めてくれ。……で、今からの事を伝えるぞ』
正直言いにくいし、自分でも嫌になる提案だが、仕方無いと諦めて口を開いた。
『荷物の大半を失い、食料もまともに持ち合わせていない。そんな中、のんびりと睡眠を取る事は出来ない。……町まで気合いで歩くぞ』
その言葉に、誰も反応しない。反対も賛成も、何もしない。ただ、顔だけはげんなりとし、拒絶を露わにしていた。
『文句なら、死んだクルルに言ってくれ。俺だって嫌なんだ……。だが、正直な話、早く町に行った方が安全だ。夜の内に休憩を取ると、村人が追ってきた時危険だし、夜が明ければ馬を使って追いかけて来る可能性もある。何より、先に村に行かれて衛兵にでも通報されれば、俺たちは豚箱行きだ』
そう言いながら、俺は歩き始めた。
背後から諦めた様な溜息が聞こえ、その後に足音が続く。
隊列は先程とは代わって、プラナとガルダーの位置が入れ替わった。その間に、ガルダーは俺の盾をプラナに手渡し、右手を使える様にしている。
『休憩は普通に取るから安心しろ。休憩無しは流石に死……って意訳石の魔力が尽きたか」
震える糸がゆっくりと静止する様に、重なった声が一つに戻る。そう言えば、意訳石は何処に仕舞ったのだろうか。だが、寝ている少女の服を弄る訳にもいかず、別に起動させておく必要も無いので、そのまま放置する。
「だが、今日は本当に最悪な1日だったぜ……。出来ればもう二度と、こんな経験はしたく無いな」
俺の独り言に、二人は苦笑する。腕の中の少女は、まだ眠ったまま。
「リサお嬢様よ、出来れば早く起きてくれよ」
その呟きから歩く事数時間。俺の願いが叶ったのは、朝日が地平線から顔を出したのと同時だった。




