転生した桃太郎くんは普通の生活を送りたい 〜御伽噺最強だった拙者が現代に転生したでござる。同じく人間に転生した犬猿雉(美女)が発情しっぱなしなので普通の学園ライフが送れないでござる〜
ご覧頂き、ありがとうございます。
構想中の物語の第一話を短編に致しました。
一度最後まで読んで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
2022.06.02追記
ファンアートを頂きましたので、後書きにてご紹介させて頂いています。
「昔むかし、ある所にお爺さんとお婆さんが住んで居ました」
母上の優しくも暖かい手が拙者の腹を優しく撫でる。
「お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました」
じわじわとやってくる眠気を押し退け、拙者は母上が語る【桃太郎】という御伽噺を聞き逃すまいと耳を傾ける。
だってこの桃太郎、話がめちゃくちゃで面白い。
「お婆さんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました」
もう既に事実と異なっている。
実際は桃が流れてきたのでは無く、空から降ってきたのだ。
桃太郎は元々異星人。
事実、桃から生まれて食べたら食べただけすくすくと育ち、犬や猿、雉の言葉を理解して更には悪魔的怪力の持ち主である鬼を退治してしまうほどの人物。
当然、地球人にできる芸当ではない。
……何故拙者がそのような事を知っておるかというと、拙者の前々前世がその桃太郎本人だったからだ。
拙者は輪廻転生によりこの世に何回目かの生を受けた桃太郎の生まれ変わり。
前世で積み重ねた徳のおかげで前世の記憶をそのままに転生を繰り返しておるのだ。
転生の回数を重ねる度に未来へ、未来へ。
次第に文明は発達し、ようやく人殺しのない平和な世界に生まれ変わることが出来た。
鬼ヶ島にのたまう鬼どもを退治した後、寿命を全うし生涯を終えた。
その後の1回目の転生では本能寺で、2回目は池田屋で。3回目は戦闘機による特攻で死んだ。
生まれ変わる度に拙者は戦争に駆り出され、無念の死を遂げている。
若くして!
年はもいかぬ若者のまま!
その、お、おなごも知らぬまま!!
4度目に生を受けた平成というこの時代の日本には戦争が無いようだった。
今度こそ人生を全う出来る。
普通に! 一般人と同じようななんてことのない生活。
拙者は戦いに疲れていた。
戦うのはもうこりごり。
でもまぁ、戦争がないのであれば拙者の夢見た普通の生活を送れるというものだ。はっはっは。
「……鬼を退治した桃太郎は、お爺さんとお婆さんと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし……」
そう、この人生こそ拙者はこの物語のように幸せな最期を迎えるのだ。
器量の良い女房を見つけ、幸せな生涯を遂げるのだ。
拙者は、桃太郎こと〝桃成 太郎〟はまだ幼い心にそう誓ったのだ。
◇
〜10年後〜
ピンポーン。
高校のブレザーに袖を通し、慣れないネクタイを四苦八苦しながら結んでいるとインターホンの呼び鈴が鳴った。
はいはいと、洗い物をしていた手を止めて母上……母さんがインターホンに対応する。
「あ、おはよー姫子ちゃん。今行くから待っててくれる?」
『はい、分かりました』
やばい、もう約束の時間になっちゃったのか。
母さんはマイク越しに一言二言言葉を交わすと、通話を切った後でネクタイを結ぶのを手伝ってくれた。
「ほらほら、姫子ちゃん来たわよ。急いでね」
「あ、うん。ありがとう」
慣れた手つきで拙者……俺のネクタイを結ぶと襟を直してくれた。
今日から俺は高校生。
自分で選んだ高校の制服もまともに着られないなんてカッコ悪いから、ネクタイの結び方くらいは練習しておかなきゃな。
「さ、気をつけて行ってくるのよ。お弁当、本当にきび団子だけでいいの?」
「うん、明日からもずっとそれで頼むよ、母さん」
母さんにそういうと、きび団子入りの巾着袋を腰のベルトにくくりつけた。
お腰につけたきび団子。
これは前々前世からの縁起担ぎみたいなものだ。
この世でいうルーティン……いや、この場合はジンクスか?
本能寺の時も池田屋の時もこのきび団子を携えてなかったから不幸な目にあったんだ。
縁起担ぎでもなんでも、きび団子をこうしていないと収まりが悪い。
俺は母さんに「いってきます」というと玄関を飛び出した。
◇
「おはようございます」
玄関から出ると、正面にいたブレザー制服姿の女の子がうやうやしく一礼した。
長い黒髪をサイドで結い上げたサイドテールを揺らし、キリリとした形の良いまゆ毛、黒目が大きな凜とした瞳。鼻筋の通った顔立ち、透き通る肌、そして桜色の可愛らしい唇。
これぞ大和撫子だと言ったような美少女が俺を出迎えた。
薙刀でも持たせたらどれだけ様になるだろうか。
「すまん、またせたな」
「いえ、待つのは得意ですので」
ハキハキとしてキレのある返事を返す彼女は犬山 姫子、あだ名は〝犬子〟
犬子は俺と同じく、前世で多大な徳を積んだ為に現世に人として転生してきた〝犬〟だ。
お察しの通り、俺と鬼ヶ島に鬼退治に行った犬の生まれ変わり。
俺と同じ様に前世での記憶を持ったまま同じ回数だけ生まれ変わり、こうして現世では幼馴染として俺に付き従ってくれている。
俺に対して敬語なのは前世での主従関係があるからだ。
俺は普通の人生を送りたいと思っているので普通に接して欲しいんだけど律儀に慕ってくれている。
「ははっ、得意ってなんだよ。……? どうした」
すると犬子が俺の姿をつま先から頭まで何往復もさせて眺めている。
なんだろう、制服が似合ってないのかなぁ?
見られるのは別に困らないけど、ジロジロと見られるのはなんだか不安になってくるんだよなぁ。
「そ、その……せ、制服、よくお似合いです……」
と、言ってしまったといわんばかりに犬子は白い肌を紅潮させ、目線を逸らして口元を押さえた。
側頭部で結い上げられたサイドテールが艶やかに揺れ、春の朝日を浴びて輝いている。
元家来だとはいえ、容姿端麗の彼女にそんな事を言われたら嬉しくないはずがない。
素直に好意を向けてくれる犬子は可愛いなと思った。
まぁ元主人に気を遣っているかもしれないけど、今日のところは素直に受け取ることにした。
「そ、そうか? ありがとな。じゃあ学校へ……ってなんだこれ?」
ジャラ……。
犬子が差し出したのは鉄製のチェーンだった。
訳がわからずとりあえず受け取ってしまう。
「はい。これをここに接続して……」
そのチェーンの先端を自分の首に巻いていたチョーカーにカチャリと接続する。
気がつくと俺の持っている鎖が犬子のチョーカー、首輪に繋がれていた。
「…………え」
そして犬子はすかさず四つん這いになると凜とした声で言い放った。
「さあご主人様、初登校と参りましょう」
「参れるかぁ!!」
思わずツッコミを入れる俺を見上げてコテンと首を傾げ、心底わからないと言った様子で訊ねる。
「何故です」
俺が飼い主、犬子がワンちゃんスタイル。完全に〝お散歩プレイ〟をしている変態にしか見えない。
「何故ですじゃねーし! 登校初日にお散歩登校する奴がいるかよ!」
「……!」(キラキラ)
「いや『明日からなら良いんですか』的な目で見んな!!」
「……」(しゅん)
「いや、落ち込むなよ。烏滸ましいぞ犬コロ」
てかよく見たらそのチョーカー、もろ首輪じゃないか。ホームセンターとかのペットコーナーとかに置いてあるヤツ!
「何故ダメなのですか。昔はよく首に紐をつけて町中を連れ回してくれたではありませんか」
「それはお前が犬だった頃の話な! 人聞きが悪すぎるから二度というんじゃねぇ」
「私は今でもご主人様の犬です」
「前世ではな! その姿で言うと意味合いがだいぶ変わってくんだよ!」
まったく犬子は毎度こんな感じだから困ったものだ。日常生活を送る分には問題ないんだけど、こうして話していると昔、犬だった頃のことを思い出すのか、犬っぽい事をやりたがる。
犬の頃にやっていた事全てにおいて、この人間の姿のままやってしまうとえらい事になってしまうのは分からないものなのかな?
しかもかなりの美形だからタチが悪い。
こいつ、アイドルグループに所属していますと言われても10人中10人が納得する様なルックスしてる癖に中身が変態なんだよな。
って言っても俺に対してだけだし、そもそも前世が犬だから仕方ないのかも知れないけど。
未だ物欲しげな視線を向けてくる犬子を無理やり立たせて、膝についた砂を払ってやる。
「さぁ、行こうぜ。入学式に遅れちまう」
「あ、ご主人様っ」
俺は犬子に首輪を外すよう指示すると歩みを進める。
前世までは出来なかった最高に充実した〝普通の生活〟を送るために。
今日から始まる男子校生ライフに思いを馳せ、心弾ませて。
……でも俺は未だ知らない。
この先に待ち受けるのが、主人に忠実な才色兼備の幼馴染と、運動神経抜群のスポーツ少女と、人気読者モデルの美人教師に囲まれたギャルゲーもかくやというとんでもない学園生活だということを。
そして、世界を恐怖に陥れる事態が起こるということを。
俺がその世界を救う英雄になるという事を。
今はまだ誰も知らない。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
こちらのお話は構想中の物語の第一話を短編にした作品です。
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感想、レビューも短くても大丈夫なので是非!
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
2022.06.02追記
犬子のファンアートを【なんでも書いちゃうヨギリ酔客】さま(@tane_hanashi_No )より頂きましたので紹介させて頂きます。
すごく可愛いくて、お気に入りです!
ありがとうございます。
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