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Fantordina  作者: 藤川つばさ
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ぴょこっ ぴょこっ

……

………


 夢でも見てたのだろうか。周りを見渡しても誰もいない。綺麗な歌声だっただけに残念だ。


 そんなことはさておき、今日から探索開始だ。一晩ぐっすり寝たおかげで疲れも残っていない。


「とりあえず目的地に行くか」


 俺は歩みを進めた。




 ぴょこっ。ぴょこっ。


 何かがついてきている。昨日から気配を感じてはいたのだが本当にいるのだろうか。同業者……ということはないだろうな。俺たち以外にこんな変な仕事をしている奴は聞いたことがない。


 だったら、この村の復興に来た人か? いや、再興の話もなかったはずだ。ここの情報を聞いたときに確認はとった。


 いろいろ考えても憶測にすぎないか。思考すればいろいろな可能性が出てきてしまう。ならば直接確認したほうが早いだろう。おそらく俺を含めて二人しか今はこの村にいないだろう。挨拶ぐらいはしておいたほうがいいだろうと、俺は振り返る。


「あれ?」


 どこにも人影はない。確かにさっきまで気配も物音もあったのは確かだ。幻聴の類ではない。


「さっきまでいた気がしたんだがな」


 前に向き直り、また歩き始める。


 ぴょこっ。ぴょこっ。


 足音だってするし絶対についてきてるよな。もう一度振り返ってみる。


「………」


 制服を着た女の子が一人、そこに立っていた。


「何しにこの村にやってきたんですか?」


「仕事だ」


 嘘をつく必要もないので正直に答える。


「仕事ですか。もしかして復興?」


 嬉しそうな声色で訪ねてくる。この少女には悲しいお知らせだが俺は復興とは何も関係がない。


「期待させたようで悪いがそういう類の仕事じゃないんだ」


「そうですか……」


 少女は肩を落とす。本当のことを言ったのだがなんだか悪いことをした気分になる。


「では、どういう仕事なんですか?」


「探偵みたいなものだ。ただ、失せ物探し限定のな」


 嘘はついていないよな。やってることは探偵みたいなものだし。


「ということはこの牡羊村にある失せ物を探しに?」


「そうだ。依頼主が昔ここに住んでいたらしい」


 普段は他の人に依頼内容は伝えないんだが、なぜかこの子には話してしまった。俺ってこんなに口が軽かったのか?誰とも話してこなかったから自覚がないだけで。


「なら、少なくとも14年以上も前ですよね。残ってるんですか?」


「なかったらそう伝えるだけだ。できる限り手を尽くすつもりだけどな」


 きっとある、と依頼主は確信していたらしいが。


「なら案内しましょうか? 私、このあたりのことなら詳しいですよ」


 この少女がなぜここにいるのか、と尋ねるまえに次の言葉が飛んでくる。


「初めての土地だから案内してくれるとありがたいが、いいのか?」


「はい。久々に話せる人とあえて私も話したいんです」


 久々に話せる人とあえて?


「目的地はどこなんですか?」


 感じた違和感を唱えようとすると、さえぎるかのように話しかけてくる。


「地図でいいか? 目的地に目印をつけてある」


「はい。少し拝見しますね」


 少女が地図を覗き込む。いったいこの少女は何者なんだろうか。なぜ誰もいないこの土地に一人でいるのだろうか。疑問は次々わいてくる。


「……ここって」


 少女が小さな声でつぶやく。


「どうした?」


「……本当にここであってるんですか?」


 少女が地図を返してきながら俺に問いかける。何かあるのだろうか。


「ああ。依頼人にも確認を取ってるから間違いない」


「そうですか」


 少女は考え込んでしまった。


「何かあるんなら案内してもらわなくても大丈夫だぞ」


「すみません、案内はできます。ただ……」


 何やら言いよどんでいる。が、覚悟を決めたのか続きを話してくれる。


「ここの家は……いや、このあたりの家は昔あった火事で全焼してるんです」


「……え?」


 全焼? 火事で、全焼。


「家がなくても、向かうんですか?」


「仕事だからな。どっちみち確認もしたい」


 そんな話は聞いていない。ひょっとしたらこの16年の間に起きたことなのだろうか?


「依頼主の人も目的地がここなら知っているはずなんだけどな……」


「何か言ったか?」


「なんでもないです。では向かいましょう」


 俺は少女に案内してもらい、誰もいない村を歩き始めた。


「そういえば、なんで『牡羊村』っていうか知ってますか?」


「知らないな。理由があるのか?」


「一柱の神様が愛した土地が12個あったんです。それぞれの土地に女神様を使わせ、十二星座の地名を分け与えました」


 十二星座。占いとかで使われるやつか。


「牡羊の女神様がここだったってわけだな」


「ですね。ここに割り当てられた星座が牡羊座だったので『牡羊村』になったんです」


 十二星座なら他にも蟹町とか天秤区とかもあるんだろうか。なんとも微妙なネーミングセンスだろう。


「他の11個の土地はどこにあるんだ?」


「わかりません。あくまで伝承でしかないので。他の都道府県かもしれませんし、他の国かもしれない。もしかしたら他の星かもしれないし、他の宇宙かもしれない。そんな伝承です。他の土地の伝承も全然残ってないです」


 なんだか規模が大きい話だな。少女も心なしか少し興奮しているような。


「伝承の神様と女神様はどんな奴なんだ?」


「牡羊の女神様は慈悲深い方だったそうですよ。神様の話は残念ながら他に残っていませんでした」


「謎多き神様ってわけだな」


 俺が調べたかぎりでは出てこなかった情報だ。何かのヒントになるかも知れな……いや、ならないか。


「神様の話はなんだ? この土地にのみ伝わる伝承かなにかか?」


「はい。そんな感じです。知っている人もごく少数なので外で調べただけでは十二の土地以外は出てこないかと」


 誰もいないだけの村だと思っていたが案外面白そうなな話も残っているんだな。


「そろそろつきますよ。もうすぐ火事のあった場所です」


 たどり着いた場所に広がっていたのは、骨組みだけが残った、焼け焦げた家の姿だった。


「あらかじめ聞かされてなかったらここで立ち呆けてただろうな」


「探すんですか?」


 ここから探すのか? 本当に? 焼けた木片しかない。ただあきらめてはいけない。なんとしてでも仕事をやり遂げる。


「とりあえず探してみることにするか。案内してくれてありがとな」


「いえいえ。あの、手伝いましょうか?」


「いや、これは俺の仕事だ。わざわざ人の手を借りるわけにはいかない。依頼内容をあまり話すわけにもいかないしな」


 正直なところ猫の手も借りたいほどだ。だが、これ以上この少女に迷惑を掛けるわけにはいかない。


「そうですか……」


「そういば君はなんでこんなところに一人でいるんだ?」


 俺はずっと疑問に感じていたことを尋ねる。


「私ですか? 私は……」


 少女はうつむき、そしてはにかんだ笑顔で顔をあげる。


「幽霊、ですから」

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