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Fantordina  作者: 藤川つばさ
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『思い出 探します』

『なくしたものを探します。


 思い出の品なら探します。


 思い出の場所なら写真を取ります。


 依頼は……』


 車から降り、紙を握り見つめる。確認したいのはこんな自分の仕事の内容ではなく、裏に書かれた依頼内容だ。


『牡羊村』


 たどり着いた場所と同じ名前の文字列を見る。荒れ果てた土地、今ではだれも住んでいない。今が10月というのは関係がない。21日だからというのはなおさら関係がない。


 主要産業が打撃を受けたとかで、牡羊村に住んでいた人は都心の方へ引っ越してしまったのだ。


 庭付きの家は草が好き放題伸び、倉庫にはツタが絡みついている。この村の現状を確かめるためにも車を村の入り口で停めたのだ。


 情報を集める際、牡羊村の土地を管理している人を探したところ、誰も権利を持っていないことが判明した。


 こっちにとって都合のいいとらえ方をすれば、好きに侵入しても、何かを物色してもお咎めなしだ。れっきとした仕事なのだから自粛するけど。


『依頼内容 銀色のクローバー型のロケットペンダント』


 依頼主が書いた文章のほうへも目を通しておく。


『おそらく10cmほどの木箱に入ってます。


 中には小さな子供の写真が入ってます。


 家の場所は……』


 マークを付けた地図は用意してきた。17年ほど前の情報しか載っていないがきっと変わっていないんだろう。16年前に人が姿を消した村。そこにあるのは寂しさだけ。


「とりあえず、目的地に向かうか」


 独り言も誰に聞かれることもなく、空気に代わる。さっきの言葉を追うように前を見る。


 ……?


 今、何か動いたような……? 気のせいだろうか。こんなところに人がいるわけがない。そう、本当に人がいないのだ。恐ろしいほどに静かな村。


 死後の世界とはこんな感じなのだろう。昔は、子供たちや井戸端会議に花を咲かせているおばさんたちがいたのだろうか。


 そんな、もしもの光景を目の前の景色に重ねて想像する。


「寂しい村だな」


 お前は寂しくないのか? だれが住むこともなく、ただ静寂だけが過ぎてゆく。そんな光景が日常な村をはたして村と呼べるのだろうか。


 試しに目の前の小さな店に入ってみる。駄菓子屋だったのだろうか。商品がない棚、ガラスケース、小さなレジ、さらに奥へと続く部屋。


 様々なものが狭い店内におかれてある。そして、小さな思い出のどれもが埃をかぶっていた。


「ここを拠点にするか」


 活動するための本拠地を作るため、掃除をすることにした。さすがに長年放置されたこのすべてを掃除するのは無理だろう。ならば、この店内だけでも。


「それに……」


 お前だって寂しいだろ。誰の手もくわえられずに時の流れるままに過ぎ去っていったんだ。俺のエゴだろうか。少なくとも俺は寂しい。


「なんで同情してんだろうな」


 自分の境遇と重ねてしまったのだろうか。昔の、一人だった時期と。


「お前に話しても仕方ないんだろうけどな。掃除のついでに聞いてくれないか」


 そうだな、どこから話そうか。なんて、今も一人なのはわかっていても話すことを整理してしまう。


「俺は昔一人だった」


 いわゆる捨て子だな。5か6か、細かい年齢は忘れたけど親は俺を捨てたんだ。それからどうなったか想像つくだろう。俺は悪い奴とつるみ始め盗みを働いた。


 生きていくために必死だったんだ。こんなこと言っても犯罪に変わりはない。今でこそ時効だろうが俺の心にはいつまでも黒い影が残り続ける。


「いつかのある日、盗みに入った家のやつに見つかったんだ。背の高い男の人だった」


 でも警察に突き出されることはなかった。かわりに、


「私の仕事を手伝ってくれないか?」


 そんなことを言ってきたのだ。どうやら金目の物を探すことにたけている俺の能力に目を付けたらしい。俺は警察に世話にならないで済むのならと話を了承したのだ。


 俺を保護した後、家の主は住む家と食料、勉強道具を与えてくれた。


 俺にとっては命の恩人だ。日々を過ごしてるうちに長い年月が経って、やっと仕事させて貰えることになった。


「それが今回なんだがな」


 過去を振り返りながらもまだまだ作業は終わらない。何年間も放置されてた場所を掃除しているのだから仕方のないことではあるが。


 気分転換に一度、外の空気を吸うとしようか。埃まみれの駄菓子屋を一度眺めた後、外に出る。


 一つ、深呼吸。自分で話し始めたことだが、昔のことがリフレインして少し憂鬱になる。ただ、この村に吐き出してすっきりした自分もいた。


「きっと誰かに聞いてほしかったんだな」


 たとえ人じゃなかったとしても、聞いてもらったことに意味がある。そういうものなのだろう。


 ……? また、誰かいたような? ひょっとして誰か人がいるのだろうか?


「俺には関係ないか」


 もう一度深呼吸をした後、俺は駄菓子屋に戻った。




 何とか半日かけて店内と、ついでに座敷部屋を掃除し終える。


「座敷部屋があったのは幸いだな」


 寝床が確保できたのは大きい。車中泊でも問題はないが、長期間となるとさすがに体にくるからな。


 こうして、俺の初仕事一日目は終わりを迎えた。


……

………

「~♪」


 歌声が聞こえる。とてもきれいな女性の歌声だ。どこの誰が歌っているのだろうか。


ただ、体が動かない。体が疲れているのだろう。体力に自信はあったつもりだが、長い時間掃除したからか、かなり消耗していたようだ。


そして俺は再び眠りにつく。

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