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3話:ねぇ、お話聞かせてくれない?

「ねぇ、お話聞かせてくれない?」


 そう声を掛けられたクロトは驚いた。


 自分自身で「死にたい人」を募集しておきながら、うら若き村娘に声を掛けられるとまでは思っていなかったようだ。街を追われ、行く先々の村々でも敬遠されてきた少年は、その一言に思わず感極まって泣いてしまった。



「落ち着いた?」

「……ああ、すまない。初対面の子に恥ずかしい姿を見せたね」


 黒いフードを目深に被った少年は、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。


 メルと名乗った少女は、突如泣き出した怪しげな風貌の少年に驚くも、まずは落ち着くまで隣で寄り添ってくれていた。彼よりも若く見えるが、できた子である。


 改めてみると、可愛らしい女の子だ。


 日の光を浴びたようなオレンジの髪は鮮やかだ。髪は短めながらもフワッとしたボリュームがあり、頭にはシンプルな赤いカチューシュを付けている。目はクリッとしていて、笑顔が印象的な女の子だった。


 涙目をこすりながら、お礼を述べるクロト。


 メルは物珍し気な顔でじろじろと見ていたが、それはよかったとクロトに満面の笑みを返した。家族に姉がいたため、そこまで女性に免疫がないわけではないが、やはり年頃の少年らしく、ドキリとしてしまう。


 そんなクロトを茶化すように、二人の世界に割って入ってきたのは、黒玉のロロだ。


「おや、とうとうクロトにも春が来たのかね」

「うるさい、ロロ」

「わっ……精霊さん? ふふ、変わってるのね」


 メルはロロの出現に驚きこそしたが、クロトにも見せた笑顔で、同じように迎え入れた。


 ふわふわとメルの掌に降り立ち、そのまま仲良く話し出す二人。一人はただの黒玉だが、物怖じしないメルはさほど気にせず会話を楽しんでいる。


 どこか除け者にされたような感情を頂いたクロトは、無理やり本題に入ろうとごほんと咳払いをした。


「遅れましてだが、改めて。僕は死霊術師のクロト」

「そして、私がお目付け役のロロだ」

「おい、適当なことを言うな」


 ロロは言葉遣いは決して悪くないが、ことあるごとにクロトにちょっかいをかける。


 クロトの年は15歳、5年の下積みを経て、晴れて1人前の死霊術師として活動しようと、故郷から出向いてきたばかりだ。


 ロロはその下積み時代からの付き合いであり、なんならクロトが初めて死霊術を使った、謂わば使役第一号なのであった。


 対するロロにどういう感情があるかまでは分からないが、どこかクロトを子供扱いし、まるで親目線で接することがままある。そんな態度がどこかこそばゆく感じるクロトは、ぶっきらぼうに言葉を発して、ロロを黙らせた。


「メルよ。よろしくね、死霊術師さん」

「ああ……よろしく、メル」


 こちらも改めての挨拶をするメル。


 これから語るのは死について。本来年頃な少年少女が語る内容ではない。

 それでもどこか穏やかな陽気と共に、春を感じるような邂逅となったのだった。



 *



「死霊術について、簡単に説明しておこう」


 そう話したクロトから語られる、死霊術にまつわる話。


 死者を操るその術は、生者には忌避されがちだ。街のしっかりとした学び舎がある場などでは、そうした職業に関する知識も下積み期間中に学ぶ。


 だがこうした小さな村では、主要な職業、剣士や戦士の話はよく聞かされるだろうが、馴染みの薄い死霊術師の話などは、全くといいレベルで伝わっていないのだ。


 世界の不公平さを嘆いたのは今に始まったことではないが、これは街に村にと練り歩いてきたクロトが発見した気づきである。そして、クロトの危惧する通り、メルにもそういった知識がなかったため、今こうして教え込んでいるわけだ。


 職業として成立しており、決してやましい職業ではないこと。邪道と囚われがちな死霊術師のイメージは、一部の犯罪を犯す輩にスポットが当たりがちなせいだという持論。


 少しばかり死霊術師に肩入れした内容ではあったが、純粋な村娘はうんうんと頷き、クロトの力説に一定の理解を示した。


 そして、話さずには先に進めないこと。

 クロトの適性が人間のテイムであることも、包み隠さず話した。


 クロトの足元には折られた手書きの看板が、不器用に補修されて横に置かれていた。


 これは彼なりの誠意の現れなのだろうと、メルは思う。この小さな村で生まれ、このかた10年、外の世界を知らずに育った。騙す気なら、これほど組みやすい相手はいなかったはずだ。


 世間知らずな村娘に、一から十まで説明するクロトの姿勢に、メルは柔らかい笑顔で応えるのであった。



「……それで、僕は死にたい人を、もしくは死ぬ前の人を探しているわけだ」

「うん、よく分かった」

「なかなかの力説だったな。町長選挙にでも立候補したらどうだ?」

「その柄にもない力説で、今は疲れてるんだよ。そっとしておいてくれ」


 あくまで茶化すことを忘れないロロだが、その力説中は大人しくしていた。その本心を読み取れないほど、クロトとロロの付き合いは短くない。


 彼流のねぎらいの言葉をクロトは雑に受け取り、大きく背伸びをして見せた。クロトから提示できる内容、条件は全て伝えた。次はメルの番だ。


「それじゃ、誰が僕をお呼びか教えてもらってもいいかな」

「え?」

「え?」


 予想していた反応とは違う表情を見せたメルに、思わず驚くクロト。


 対するメルもクロトの反応が、いやその言葉自体が理解できないと言わんばかりに、驚きと疑問の表情を張り付かせたままでいた。


「メル、もしや死が近い人が身近にいて、その人のために話を聞きに来てくれた、というわけではないのか?」

「え……うん」


 クロトに変わり、ロロがメルに尋ねる。それにクロトは頷き、同じ疑問を抱いたとアピールする。


 まだ10歳と若いメルが、興味が勝っただけかもしれないが、怪しい少年の話を一人で聞きに来た。時折笑顔も見せて受け答えする彼女に、クロト達は誰か思い悩む人、もしくは死期の近い家族でもいるのかと、そう推測していた。


 そう説明するクロト達の言葉をようやく飲み込んだのか、メルは改めて首を振る。そして、告げられる少女の言葉に、今度こそ彼らは言葉を失った。



「私が、死にたいの」

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