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2話:死後を操る職業ではあるが、決して命を軽んじる職業ではない

 やあ、ここに来てくれたということは、死霊術師に興味を持ってくれたんだね。そういう姿勢はすごく大事だ。きっとこれから紡ぐ詩を楽しむためのスパイスになるはずさ。


 え、急に何の話だって?


 おっと、これは失礼した。私は旅の吟遊詩人、この場を借りて、一曲お披露目させて頂けないかと思ってね。そうだな……死霊術師の紹介をする前に、まずはこの世界について、一つおさらいをしておこうか。



 この世界は君達の世界とはまた違う理で動いている。


 街には生活を営む人がいて、それを守る衛士がいて、その上には統治する王がいる。 


 国は数多くあれど、国同士での争いはそれほどない。何故ならこの世界にはダンジョンがあるんだ。凶暴なモンスターが闊歩するこの世界で、身内の争いなんてやってられないだろう? 人同士の争いは全くない、と言えないのが悲しいがね。


 しかし、そこにもまたドラマがあり、新たな詩が生まれる。私達は、いや少なくとも私は、この世界が好きなんだ。


 さて、そんな世界では当然、ダンジョンでの稼ぎで生計を立てるものも現れる。

 俗にいう冒険者だ。


 彼らは一様に己の得意武器や装備を身に纏い、命を懸けてダンジョンに潜る。各地に散らばるダンジョンは、そのダンジョンごとに難易度が違う。つまり、生息しているモンスターの強さに依存するということだね。


 規模が大きく、稼ぎがいいダンジョンの周りにはやがて人が集まり、街をつくる。交易の拠点となる訳だ。我々はダンジョンに生かされている、といっても過言ではないだろう。


 しかし、誰もがダンジョンに出向いて、稼ぎを得られるわけではない。


 この世界ではどんな小さな村であっても、ある風習が根付いている。世界のルールと言ってもいい。それはずばり、「職業適性診断」。


 ふふ、現実的な響きで逆にがっかりしたかい? しかし、これこそこの世界を形作る上で、非常に重要なシステムなんだ。


 子供達は10歳になると、教会で神託を受ける。そこで適性の合った職業を知り、15歳までは見習いとして学習していく。


 この適性は家系によるところも大きく、代々騎士を輩出している貴族なんかは、その傾向が特に強い。一般の農家の娘、息子は精々剣士や戦士。もちろんその後の実力は本人の努力と資質によるものだろうから、決して腐らないことが大事と言えるね。



 家系の違いでの偏りは貴族を例に出した通り。

 さて、皆お待ちかね、いよいよ死霊術師の話に入るとしよう。


 彼らも貴族と同じく、家系により、大半は死霊術師の適性を受ける。しかし、彼らの職業はまた特殊、その中でもさらに得意分野が分かれてしまうんだ。


 戦士でも剣が得意なのか、槍なのか弓なのか、そういった得物の違いと少し似通ったところはあるかもしれない。


 簡単に紹介して見ようか。死霊術師はその名の通り、死霊術を操るものだ。


 死霊術とは、死者を操る魔導のたぐいだ。家系として受け継がれてこそいるが、彼らは所謂日陰者。本来動いてはいけない、死者を操るのだから、生者から忌避されるのも頷けるというものだね。


 そんな彼らが操る死霊術は、大きく分けて3つのタイプに分かれている。



 一つはモンスターの屍を操る術に長けたものだ。


 ダンジョンで駆逐したモンスターは死骸となり、その場に残る。牙や角、肉などは素材や材料になるが、その解体は大変なものだ。多くのパーティでは、そういった修練を積んだ盗賊がその役割を担う。


 だが危険なダンジョンでは、当然ながら冒険者の都合に合わせてはくれない。常に危険と隣り合わせなため、めぼしい戦利品を採った後は打ち捨てられることも少なくない。そこで活躍するのが彼らだ。


 死霊術師の中でも、モンスターの屍を操るものは、気味悪がられこそすれ、需要はある。


 なにせ解体して荷物になるだけの屍が、自分で歩いて戦力にすらなってくれるのだ。ダンジョンにはモンスターがひしめき合っているから、仲間の手を借りれば調達も簡単。


 稼ぎ重視のパーティでは、わざわざ募集してたりもするぐらいだ。日陰者とは思えない、正に時代に合った職業と言えるだろうね。



 今度は霊魂を操る術に長けたものだ。


 モンスターの屍といった、物理的な屍を用いず、その魂を使役するタイプだね。

 これはモンスターだろうが人だろうが、その対象になり得る。


 彼らは身軽だ。必要なのは魂を宿す器、主にアクセサリーのような小さめの十字架を用いられることが多い。精神を直接攻撃できるその秘術は侮れない。


 モンスターを相手にするときにも、その体格に惑わされることなく、精神に狙いを定める。レベルの高いモンスターほど抵抗力もあるが、大きな戦力となることは間違いないだろう。



 そして、いよいよ最後だが、ずばり人間を操る術に長けたものだ。


 彼らが操るのは死霊術、つまり当然ながら死者がその対象でなければならない。このタイプは、はっきり言って不遇だ。


 死霊術師の家系でも、そう見ない特性らしいけど、確かに存在はする。ダンジョン内での亡骸探し、なんてことをやってる人もいるらしいけど、おおよそ一般の人からは忌避される。


 またこのタイプは、そういった周囲の環境もあってか、邪道に染まるものも少なくない。それは「墓荒らし」だったり、「誘拐」だったり、「殺人」だったり。


 死霊術師とは、死後を操る職業ではあるが、決して命を軽んじる職業ではない。そこは彼らの名誉にかけて、はっきり言わせてもらおう。




 一口に死霊術師と言っても、そのタイプによって、大きな違いがあることは分かってくれたと思う。おっと、どうやら長く引き留めてしまったようだね。


 私が今回紡いだ詩は、あくまで序章。これから始まる冒険に物語を感じ、見聞きする当事者の役目は君達に譲るとしよう。


 不遇だからと言って、不幸とは限らない。その信念を体現しようとする、面白い少年の話。ふふ、なんだか私も聞きたくなってきたよ。



 ではいつの日か、詩が恋しくなった時にまた会おう。

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