1話:だって、仕方ないじゃないか
「はぁ……」
ため息が一つ。
のどかな街の中央、噴水の周りに備え付けてあるベンチに腰掛けていた少年から零れたものだ。少年は闇に同化しそうな黒いフード付きの外套に身を包み、大きな看板を肩にかけている。
唯一黒とは違う色味を放つのは薄紫の髪だ。短髪ではあるが、正面は右目を覆い隠すように伸び、髪が掛っていない左目には億劫な暗い光が宿っていた。
街の住人は怪しげな少年に遠巻きに視線を向けるが、その看板の文字を視認した後は、関わらないように足早にその場を後にしていた。
『~死にたい方募集~ あなたの魂引き取ります』
看板に書かれているのは、そんな謳い文句。怪しげどころか、物騒である。
もちろん、少年とてこんな宣伝をしたところで、まともな人は声を掛けてこないだろうなと思っている。しかし、彼のポリシーを守るには、こうした怪しげな行動をしようが、まずは理解と興味を持ってもらう必要があったのだ。
「衛士さん、あそこです!」
「げっ……」
無視されるだけならまだまし、不安に駆られた町人が衛士を引き連れてくる、なんてことはままある。
看板を下ろし委縮する少年は、なんとか説明を試みるが、当然理解されるはずもなし。死にたい人を探している、という看板の内容に嘘偽りはないのだから。
町中を行き交う人の中には、物騒な武器を背負い、鎧を身に纏った筋骨隆々の男達や、軽装だが剣や杖などを持った女性の姿も見受けられる。彼らは町人達のように、ひそひそ声で文句や不安は口にしなかったが、さりとて助けるわけでもなく。
ある種、そうなっても仕方がないという、憐みの視線を送っただけで、その場を去ってしまった。
「だから、僕はこういうもので……」
「まだ言うか! いいから、早く立ち退きなさい!」
結局少年の訴えは実らなかった。そればかりか、余計な仕事を増やされた衛士の怒りが収まらず、とうとう看板まで折られてしまった。早々に立ち退きを命じられた少年は、猫背な背中をさらに丸めて、陰鬱な表情でその場を後にするのだった。
*
「なぁ、クロト」
「なんだい、ロロ」
トボトボと歩く少年に、黒色の塊が声を掛ける。
少年のフードに隠れていたそれは、街を追い出された後、スッと出てきて少年の顔の近くに浮かんでいた。まるで黒い灰を丸い形状に固めたような、不思議な物体だ。
魔術師が使役する精霊ともまた違うようだが、そいつは目も口も見当たらない地味な見た目とは裏腹に、軽快な口調でもっともな言葉を投げかける。
「いい加減、やり方考えた方がいいんじゃないのか」
「うるさいなぁ……そんなの、僕が一番分かってるよ」
クロトと呼ばれた少年は、何度目かになるロロの小言にうんざりしながらも、理解を示していた。彼は死にたい人を、もしくはこれから死ぬ人を探している。
おおよそ常人が望む願いではないが、これには彼の職業が大きく関係していた。
「難儀なものだな、死霊術師というものは」
「お前が言うなよ、ロロ……」
死霊術で命を吹き込まれたロロにまで、ダメだしをされてしまった。
そう、難儀な職業なのだ、死霊術師というものは。
「だって、仕方ないじゃないか。僕は誰にも嫌われたくないんだよ」