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内容をかなり変えました。すみませんお手数をお掛けしますが、はじめから
読んでいただけるとありがたいです。
「君は本当にすごいね。」
ニコリと皇太子から話しかけられる。ちょうど話に区切りがつき
宮廷医の診察が終わったあとである。
どうにも皇太子が胡散臭くてあまりも露骨すぎる笑顔か
アリスは眉を寄せてしまった。
それに気づき、皇太子は頬についていた手を外す。
「疑ってるのかい? まぁ君の気持ちはどうでもよいのだけど
一つだけ聞きたいことがあってね。筆談してもらえるかな?」
筆談は一番不利である。声帯による威圧感も出せなければ
空気も作り出せない。しかし、そんな不利な状況でもアリスはうなずいた。
(皇太子のことを探っておきたい)
「まず、君は今の状況をどう見てる?」
問われた意味が分からなかった。色々探ってくるかも知れないと
思っていたのに少し予想外な展開で少々面食らってしまう。とはいえ
隙を見せたくないので、表情上は変わらない。変わらないはずが
皇太子がクスリと笑った。それはまるで、幼い子供の拙いところを
みて出てしまうような笑みだった。
ああ、侮られているとアリスは感じ取った。
「特になにも。あなたこそどうなの?」
そう問いかけた。問いにわざと問いで返すことで暗に
なにも言わないよ、と伝えているのだ。
(さぁ、どうでるのか……)
ふっと微笑んだだけだった。微笑んでいるだけだったのに
凄みがある。その圧倒的な凄みに少し間抜けな顔をさらしてしまった。
「虐げられたのにこの交渉術はすごいと思うよ。
でも、……。それだけだね。」
少しの間遠くを見つめながらそういったかと思うと座っていた
椅子から立ち、部屋を出ていった。
(なんなの……)
出てきたのは怒りではなく困惑と悔しさだった。
よくわからないがあの皇太子はアリスのことを敵視していた
らしい。
(見返してやりたい。……悔しい。
そもそも、あの皇太子の敵視はお門違いよ。)
私はいくらあの国で貴族として恵まれた環境にいたとは言え
学べる時間などないに等しかった。使用人のような立場にいたのだ。
学園にすらいけなかった。
この苦しい七年ものの間に一生懸命培ってきた
知恵と努力をバカにされた気分だ。アリスは無意識に歯を食い
縛る。
「……いぁえぃ……ぅ」
喉を痛めているせいで何一つ上手く言えなかったが有言実行だ。
言霊、というらしい。すべても言葉に魔法がかかっていると。
そう、本に書いてあった。
(少しでも多くの知識を吸収して、見返す。)
その夜から城にある図書館でひっそりと勉強した。
皇太子はまだ滞在するらしい。
(まずは、話術、次に交渉術、……あ、あとインぺリス帝国の
ことについても。)
期限が決まってはいるが、今までとは違い1日中勉強ができる。
それに、鬱陶しいあの双子も自称家族とも顔を合わせないから気が楽だ。
(視線は少し気になるのだけど……。)
主に司書の目だ。本棚の影に隠れて勉強をしてはいるがどうしても司書
だけは、微妙な顔で通りすぎていくので気になって仕方がない。
(っは、いけない集中。)
とにかくインぺリス帝国が抱えているであろう問題を
書き出して解決策と共に分かりやすくまとめる。
その合間に話術、交渉術の応用、基礎の復習を行う。
余裕があればインぺリス帝国の語学を学ぶ。
この繰り返しをずっと行っている。
(語学は少し無理があるわね。)
大国だから、絶対学ぶべき言葉だったらしく、妹のレッスン
を盗み聴きしたことが何度かある。
少しでもと思いすすめてはいるが、語学なので流暢にしゃべる
段階までは難しそうだ。
朝、早く起きて日程を組んで。
(こんなに勉強できるのは初めて。)
思わず口角が上がるのを知ってか知らずか、
(楽しい。)
勉強ができる環境は本当に素晴らしいと思っていた。




