風説は光のごとし
迷うことなく、俺は学生パーティへと進路を転じる。
「ちょっといいかな?」
プロムナードのベンチでくつろいでいた三人の少年少女に声をかける。
「は、はい!」
「わ、私達になにか御用でしょうかっ?」
瞬時に立ち上がり、姿勢を正す三人。
「ああ。いや……楽にしてくれていい。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「はいっ! なんでも聞いて下さい!」
眼鏡の少年が薄い胸をとんと叩く。彼は後衛の魔法士だろう。
「今キミ達が話していた、ガウマン家の陰謀。詳しく教えてほしいんだ」
「あ、はい。えっと。でもこれは……なんというか、風の噂というか、ゴシップというか……」
「それでもいい。だめかな?」
背の高い少女が眼鏡の男子を小突いた。
「騎士様がお尋ねなんだから、余計なこと言わずに答えればいいの」
「そうだぜ。失礼だろ」
ツンツン頭の少年も同調する。
「わ、わかったよ……えっと……」
おずおずと口を開くのを、俺は努めて柔らかい表情で待つ。
「ガウマン侯爵が教会のやり方をよく思っていないのはご存じですよね?」
「ああ。学院が教会側にいることも把握している」
ついこの前知ったばかりだけど。
「だから、今回の騒動は学院の弱体化を狙ったガウマン侯爵の陰謀なんじゃないかって言われてるんです。ここの一年生にガウマン侯爵の令嬢がいまして、そのパーティメンバーが犯人だっていうし……令嬢が侯爵から送り込まれた間者だって説も」
「その話、どこで聞いたんだ?」
「えっと、僕は学内新聞で知りました。学院中どこもかしこもこの話で持ちきりですよ」
まずいな。
そこまで広まっているとなれば、クレイン達もただでは済まない。急いだ方がよさそうだ。
「わかった。ありがとう。悪いね、時間を取らせてしまって」
「いえっ、とんでもありませんっ」
「騎士様とお話しできただけで、身に余る光栄ですっ!」
「はは。大げさだ。じゃあ、失礼するよ」
笑いながら身を翻し、学生会館へ足を向ける。
と、その前に。
「あ、あの……まだ何か?」
「いや」
俺自身の、胸中の憂いを少しでも軽くするために言わずにはいられなかった。
「君達が風説に惑わされない賢明な若者であることを願うよ」
三人はぽかんとした後、はっとして表情を引き締めた。
「それじゃあ」
今度こそ、俺はその場を去る。
クレイン達の関与はまだ確定じゃない。ただの噂があたかも真実であるかのように流布されてしまえば、彼女達はいわれのない誹謗中傷を受けるだろう。
そして、俺のその憂慮は現実のものとなっていた。
学生会館。クレイン達の作戦室の前に、何十人にも及ぶ人だかりが出来ていた。
どうやら、クレイン達の責任を追及する学生達と、それを嗜める教官達とでせめぎあいが起こっているようだった。
「なぜ止めるんです! 昨日のアウトブレイクがガウマン侯爵令嬢の仕業なのは明白でしょう!」
「その通りですよ! 現にソル・グートマンが下手人であることを認めているというじゃないですか!」
そうだそうだと、学生達は声を荒げる。
それに対し、厳めしい教官達は毅然とした態度で作戦室の扉を封鎖していた。
「パーティメンバーが罪を犯したからといって、彼女達までが同罪であるとは限らない」
「君達の怒りも理解できるが、根拠もなく個人を糾弾するのは感心しないな。誰が悪いのかを判断するのは、学院の調査を待ってからでも遅くないだろう」
滔々と制止の言葉を並べるも、学生達は引き下がらない。
「メンバーの罪はリーダーの罪です! メンバーがあれだけのことをしておいて、知りませんでしたじゃ済まないでしょう!」
「むろん連帯責任は免れないが、それは諸君が口を挟むことではない。私刑などもっての外だ。国も学院も法によって治められている。そんな簡単な道理も理解できんか」
「人が死んでるんですよ! 一人や二人じゃない! たくさん! うちの仲間もです! それを法やら道理やら並べ立てられて……許せますか!」
「では聞くが、感情を剥き出しにして誰かに八つ当たりをすれば満足するのか? 貴様の仲間への想いはその程度か。実にくだらん」
「なにをっ!」
口論は激化していく。
一触即発。すぐにでも剣を抜いてもおかしくない剣呑さだ。




