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最強女帝の現代転生  作者: フジタヒロシシ
9/32

女帝の高校生活スタート⑤


魔法の確認をしよう。

みなが寝静まった深夜に、わたしはベッドを降り、机に向かった。

今日も色々なことがあった。

(既に日付は変わっていて、昨日のことではあるが)

体力測定では、おかしな記録を叩き出し。

オカルト研究部の見学では、活動内容は問題があるが、どうやら本物のオカルトを経験したらしい。

LINEで(れん)に聞いたところ、やはりわたしの名前は一度も出した記憶がないという。

まあ、人間の記憶などあてにはならない。

この国の政治家もよく使うではないか、『記憶にございません』と。

それに、予めわたしの情報を掴んでいた可能性も多々ある。

直感ではそれらの可能性は否定されるのだが、そう結論付けた。

本人に直接聞いてみないことに正確な解答が導き出せない事象は、他人がどうこう推測してみても無駄なのだ。

そう考えながら、わたしは机に向かって座る。


前世の記憶を取り戻したあとの日課といえば、魔法の確認である。

鍛練や学習ではない、ただの『確認』だ。

今回のことで、無意識のうちに魔法が使用された、という可能性がある。

わたしの現在の能力を計り、今後の普通な高校生活を送る上で、これ以上の目立つ行為は自重せねばなるまい。

だから、魔法の力を今一度正しく認識し、問題があるなら制御して、学校生活に臨まなければいけないのだ。


肉体の操作とは、自身のものとはいえ扱いが難しい。

前世では肉体強化は日常茶飯事で、特に制御してなど考えなかった。

当然だ。

戦場で敵が襲いかかってくる状況で、手加減などしない。

あらゆる手段を講じて、降りかかる火の粉を払い消さなければならない。

殺めぬように筋力を操作して、相手に致命傷を与えずに鎮圧する、なんて芸当は、前世において一度もしたことがなかった。

だから、今回も必死になるあまり、意図しないところで、魔法が使われたのではないか。

もしそうなら、可能性が少しでもあるなら、確認しなければならない。

たとえどんなにわたしが、肉体強化の魔法を上手く制御できると自負していても、だ。


ちなみに、器物の損壊が出ない程度には、他の基本的な魔法は既に試し打ちしてある。

ライターほどの灯火を指先から出したり。

空のコップを水で満たしたり。

離れた場所のものを手元まで引き寄せたり。

身体を床から少しだけ浮かせてみたり。

以前の世界で最も簡単だったそれらは、こちらでもすぐにできた。

物理法則な同じであれば、難しいことなどはひとつもない。

逆に今の、科学が進歩した世界の方ができることは多かった。

光を集めて部屋を明るくするとか、レーザー光線として打ち出してみたりだとか。

『光』というエネルギーについての研究が万全でなかった前より、今世は解っていることが多いだけに、やれることは増えた。

ただ制御は難しいらしく、レーザーを打ち出したところ、部屋の天井にごく小さな穴を開けてしまった。

わたしの部屋が二階で良かった。一階だったら、たまたま上にいるかもしれない母の身体に、風穴を開けていたかもしれない。

すぐに天井は、穴の周りの部分を拡げたり伸ばしたりして、一見では判らない程度には修復された。

慣れないことはするものではない。潰す肝がいくらあっても足りない。

――そんな具合で、わたしは毎夜に魔法の力を確認していた。


今日は肉体強化について、確かめてみようと思う。

魔法によって身体を強化する、というのはいくらか方法がある。

脳に働きかけ、制限を取り払うやり方。

無理な運動を強要されると、脳が行動の端々にブレーキをかける。それを魔法で誤魔化し、限界まで運動能力を高めることができる。

また筋力を強化するやり方。

運動により使用される箇所の筋肉を無理矢理増やしてしまう。単純に、腕の筋肉を使う運動なら、近くの他の場所から、筋肉を動かしてくっつけてしまえば良い。

ここまでは主に己の身体と向き合って、魔法を媒体にして誤魔化すもの。

他者(、、)に働きかけるものではないから、字面にするよりずっと簡単に行える。

ただあくまでそれらは、人間の限界を意図的に引き出すものである。人間以上の力を出すことはできない。

日々の鍛練により、肉体の限界までの幅を広げることはできる。筋力の絶対量を増やせば、それだけ自在に操れるエネルギーが多くなるのは当然だ。

でも人間という形を与えられている以上、たとえば熊と戦ったり、恐竜(前世では、この世界で言う恐竜のような生物がいた)を打ち負かしたりできない。絶対的な筋力量――というか質量に差があるからだ。

じゃあどうするか。わたしみたいにひ弱でか細い女の身体が、世界最強と呼称されるには、なにをすれば良いか。


言うだけなら簡単だ。

エネルギー量は、そのエネルギーを発生させる際の物質の重さと速度で決まる。

それは前世でも今世でも、共通な法則だ。

だったら速さを上げれば良い。

世界(、、)に働きかけて、空気抵抗をなくす。

身体に推力をかけて――背中にジェットエンジンをつけるようなイメージか――跳躍する。

質量を増やしたって良い。

運動の箇所に、そこらにある石やら岩やらから、蛋白質や骨よりも重いものを身体に取り込んでしまえば、身体は重くなる。

言うには易し、しかれども世界(、、)に働きかけるというのは、自分の身体をどうこうするより、労を要するのだ。

意思が自分とは別にあるのだから、当然である。

ただ優れた魔法使いは、それらをやすやすとやってのける。

世の理を理解し、世界(、、)共にある(、、、、)者には、そう難しいことではない。

わたしもそれらは得意だった。

まあ尤も、わたしが使ったのはごく若い時分と、年老いて肉体が衰えた頃だけである。特に後者は、闘争とかでなく、歩いたり物を持ち上げたりの、日常生活で使われた。

帝たる存在が、戦場で己の身体を強化して、戦わなければならない状況など、敗戦間際にしか訪れないのだ。


過去の懐古が長くなった。

やはり二〇〇年という前世の記憶と人格は、昔を振り返り、ああだこうだ、と論じるのが好きらしい。

わたしは机を立ち、部屋の中央辺りに移った。

跳躍をしてみよう。単純に、ジャンプするのである。

大きく広い家だったので、もちろんわたしの部屋だって、子どもに与えるには大きすぎるくらいの空間的スペースがあった。

こんな、普段とやや違った運動をしたいときには、大いに役立つものだ。

まずは最も単純な、自身の肉体強化を試す。

世界(、、)に働きかけて、脳の制御を取り払い、自分の限界を引き出す。

ぐっ、と脚に力を込める。

無駄に高い天井までの距離は、頭頂部からおよそ二メートルの位置にあった。

普通の女性であれば、いくら限界まで能力を引き出したとして、あそこまで届くはずはない。

――いくらか不安があるので、最初はほどほどにしてみようと思った。

果たしてジャンプした瞬間、わたしの不安は的中した。

すぐに天井が、目の前まで来たのだから。

慌てて身を捻り、頭でなくて背中で天井に当たる。

ちょうど、柔道の受け身を取る体勢と同じだ。

一瞬後に、ドン、と大きな音が響き渡った。

危なかった。咄嗟に身体の向きを変えていなければ、頭から天井に落(、、、、)ちていた(、、、、)かもしれない。

強い衝撃に、酷く肺が圧迫される感覚を味わいながら、次は地面に向かって落ちる。

幸いにして今度の着地は、静かに、優しくできた。


「アキ、なに? 今の音。ずいぶん凄かったけど」

「――ごめん、ベッドから落ちた」


大きな音に驚いた母が、すぐさま飛んできた。

そりゃあ深夜に、いくら防音が効いていても、あれは消しきれないだろう。

重力に逆らった運動だったといえ、三メートルほどの高さから落ちて、受け身を取ったのと同じようなものだ。

部屋に入ってきて、怪訝な表情を見せる母に、わたしは床の上から答える。

それくらいしか、できる言い訳がなかった。


「もう、気を付けてよね」


ただ、彼女は欠伸をしながら、そう注意を向けてくるだけだった。

天井に娘がぶつかった、などとは、到底考えに及ばないだろう。


「ごめんなさーい」


わたしは背中を擦りながら謝辞し、布団に潜り込んだ。

程なくして母は部屋を出ていく。

それを見ながら、わたしはほっと安堵の溜め息を吐いた。

あっぶねー。とは、口汚くもそのとき思った全てである。

流石に天井に傷をつけたり、大穴を開けたりしては、誤魔化しのしようもない。

また怪我もなかったから(背中に痣くらいは出来ているかもしれないが)、衝撃こそ大きかったが痛みはさほどない。


今夜判明したのは、やはりこの身体は以前と比べ、どうやら作りがおかしい。あるいはおかしくなったらしい。

いくら身体の限界を引き出したといえ、垂直跳びで三メートルほどもある高い天井に達するなど、はっきり言ってあり得ない。

前世でも二〇〇年の間に、魔法を使わずにそんな芸当ができる奴はいなかった。

明らかにおかしい。


ただ今日のところは、魔法の確認はここまでにしておこう。

これ以上の騒ぎは迷惑になる。加減をしようにも、加減をして『あれ』だったのだから、どうしようもない。

ベッドに潜り込んだのだ、このまま寝てしまおう。

確認は、また明日でもできるのだ。

それに、自身の様子が明らかにおかしい、とは確認できたのだ。

及第点をつけておこう。


わたしはそんなことを考えながら、深夜二時の就寝を迎えた。

一日の疲れが相当に溜まっていたのか、眠りはすぐに訪れた。

夢は見なかった。


ただ。

頭のどこか片隅で、僅かに残る思考が言うのである。


ところで高野(たかの)姫子(ひめこ)とは、何者であるか、と。

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