クサリク3
砦から飛び出した俺達は思わず目を疑った。
砦の中が揺れていると思ったが、違った。
砦そのものが震えているのだ。
まるで動物が永い眠りから身体を起こしたかのように。
ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
汽笛に似た音が轟き、音に驚いた鳥が一斉に森から逃げていく。
砦だけではない、積もった土がこぼれ落ち、生えた蔦が引きちぎられながら、動き出したのだ。
土砂が流れ、木々がそれに巻き込まれて倒れていく。
雪崩のように土砂が流れ、もりあがっていく。
同時に聞き慣れた不吉な――ガラスを叩き割る様な音が響き渡る。
「バカな……」
「このタイミングでなんで!?」
予測されている日と違うぞ!?
戦く俺達の目の前で空が割れ、真っ赤な亀裂が走っていく。
滅獣が現れる始まりの音と空だ。
さらに亀裂から大量の魔物が溢れだしている。
(おいおいまさか――)
この大地が滅獣なのか!?
タイミング的にはそうとしか考えられない。
水から出てくるように山と見紛う巨体が動き、左右に角の生えた牛らしき魔物が姿を見せる。
背中についている砦が可愛く見える。
どこぞのモンスターを狩るゲームで出てきた●山龍みたいだ。
大きすぎて全体が掴めん。
これだと龍じゃなくて、山牛か。
土色の巨体が背中に山を背負っているようで、冬眠でもしていたのか苔やら草やらも生えているほどだ。
クサリク
レベル???
幻獣族
クサリク……見た目でやっと思い出したが、メソポタミア神話での神獣グガランナと同一視される天の牡牛のはず――。
こいつはまさにその名を関するに相応しい威圧感があるし、魔王種とみて間違いない――。
だが、なぜ魔王種が施設にされていたんだ?
問い質そうにも獣に言葉は通じないし、目の前の青い瞳は無機質で意思の光はない。
機械のように感情はなく、巨大な瞳には俺とマーリンを含む景色が映っているだけだ。
「話ができないなら、速攻で倒してやる! アナザーコスモロジー解――っ!」
神力を練ろうとした瞬間、意識がないはずのクサリクの目がギョロリと動いてこちらを見据えたのだ。
あまりの巨大さに思わずたじろいだ俺の前で洞窟のような口が大きく開かれる。
MOooooooooo!
容器に入ったプリンのようにボコボコと五臓六腑が揺らされ、あまりの衝撃に膝をついてしまう。
それだけではない。
俺は自分の身体に起きた変化に愕然とした。
(アナザーコスモロジーが解除された! いや、雷龍の羽衣もだ。バフ解除か?)
強化していた能力が全て解除されているのだ。
これもクサリクの能力なのか?
だが、呆然としている余裕も時間もない。
割れ亀裂の周囲にとてつもなく巨大な魔方陣が無数に展開されているのだ。
それらは規則的に重なりあい曼陀羅のような神秘的な紋様へとなっていく。
「何を始めるつもりだ!?」
「大規模術式!? しかも、なんて魔力だ!! 」
俺以上に慌てたマーリンは慌てて杖を大地に突き立て多重魔法障壁を展開した。
「後ろに!」
「わかってる!」
慌てて俺がマーリンの障壁の背後に隠れと同時に、空が黄金色に輝き、轟音が炸裂した。




