クサリク2
「風龍の咆哮!」
真空の刃が混ざったブレスが洞窟内を駆け抜け、迫ってきた敵を切り刻んだ。
「キリがねぇ!」
苛立ち吠える俺の目の前で切り刻まれたのは五指の生えた人間の腕ほどもある触手。
触腕と言うべきか。
それらが階段をあがった途端、俺とマーリンめがけて殺到してきたのだ。
見れば肉の壁は呼吸しているかのように動き、硬いはずの床も不気味に上下している。切り刻まれた触腕は床に落ちると溶けるように吸収され、また壁から生えてくる。
ブラッドナイトが倒されたのもこれのせいだろう。
とにかく数が多い上に、切って切っても生えてくる。
ならばと、雷龍の咆哮で焼き焦がしてみたが、痛覚などないらしく、焦げたまま襲ってきただからたまらない。
壁を攻撃してもすぐに修復されるので、まったく進むことができなかった。
「一本一本の攻撃力は大したことないね。亀裂の魔物くらいの強さかな?」
「大したことあるわ!数を見ろ!数を!」
魔法障壁越しに冷静に分析するマーリンに俺は叫ぶように突っ込んだ。
目の前で蠢く触腕は十や二十ではない。
一本一本相手にしてたらそれこそキリがないのだ。
「進の権能でどうにかならないのかい?」
「……蒸し焼きになるぞ」
ここは砦の地下だ。
太陽神の権能なんて使ったら最後、俺達も熱気で死ぬ。
暴食もダメだ。
飲み込む範囲が定まらないし、あれは『聖杯』でSPを補わないと使えないし、ホイホイ出せるものでもない。
「そっちこそ、なにかないのかよ?」
さっきから火の玉や風の刃で応戦しているマーリンに俺が返す刀で訊ねると――。
「焼いても切ってもダメなら――これでどうかな?」
マーリンが短く呪文を唱えると青白い冷気が走り、壁を凍らせていく。
「おぉ! 動きが止まったな!」
霜が降りて凍りづけにされた触腕も動きが止まる。
再生能力特化は動きを封じる方が有効か――。
「でも、あんまり長くはもたないかな?」
「あ――成る程ね」
マーリンの言葉通り、凍っていた壁や腕が小刻みに震え、振動で氷に細かい亀裂が入り始めていたのだ。
「今のうちに走るぞ」
「やれやれだね」
倒す必要もないと割りきって俺とマーリンは動きを止めた触腕を無視して出口を目指す。
外に出れば権能で焼き尽くせばいいからな!今は放置だ!
霜が落ちて白く舞う洞窟をとにかく走る。
◆
「今度はマンティコアだね!」
「やっぱ繭の時に倒しときゃよかったよ!」
出口を塞ぐ決死隊が最後に俺達の前に立ちはだかっていた。
大量の繭から出てきたマンティコアは生まれたてらしくヌラヌラと粘液で身体中が妖しく濡れ張り付いた毛皮のせいが、別の獣に見える。
背後は触腕の群れ、前門は獣の群れ
か――。
どっちも御免被りたいところだが――。
「邪魔をするな!」
魔力を練り上げて高濃度の雷と鎌風を吐き出して一気に敵陣を切り裂く。
オォォォォォォォン!
相変わらず恐怖心のないマンティコアは予め決まっているかのように身体を焼かれようと足を落とされようとマーリンと俺に襲いかかってくる。
それらを魔法障壁で守りながら、俺達は砦の外へと走っていく――。
背後で弾かれたマンティコアや凍結をほどいた触腕達が追いすがってくるが、それを無視して走る。
出口まで後、少し――。




