魔人
「がぁぁぁ!」
直後に轟く咆哮が鼓膜をビリビリと叩く。
尖った犬歯と爛々と輝く赤い瞳は人ならざる者を思い起こさせ、眼があっただけで死を覚悟するだろう。
普通ならば……だが。
「龍炎擊!」
くぐもった声で唸る巨体から炎を纏った拳が頭を吹き飛ばさんと放たれた。
ジェット噴射のように加速した拳はまともに受けたら首から上を消し飛ばしそうな威力はある。
だが、狂人の眼光で怯むほど柔じゃない。
「甘いっての!」
即座に反撃で拳をショロトルの拳にぶつけた。
直後、俺の魔力とショロトルの魔力が一瞬溶けるように混じった。
「!?」
「!!」
なんだ――今のは……。
こんなことあり得ない。
普通、属性が違う――しかも、敵意のある魔力がぶつかり合えば威力が互角なら相殺。差があれば、そのまま片方が押しきられるのが道理だ。
なのに、何故?
戸惑う俺に今度はショロトルは口から炎を吐き出した。
まじかよ――!!
「お前は――なんなんだ!」
だが、ショロトルは何も答えない。
翼膜のように炎を広げたり、火炎放射状のブレスを吐き続ける。
この戦い方って――。
「驚いたかい?ショロトルは滅龍魔法が使えるのさ!」
「はっ!狂人が龍と契約でもできたのか?」
新しい玩具を自慢したい子供のようにはしゃぐファウストは人差し指をチッチッと振り、
「『龍鬼血』がただ魔物作るものだけとでも?あれは根源に近い龍の血なのさ。適合できれば強靭な肉体だけではなく龍の魔力も授かれる。まぁ、元が火の使い手らしいから、炎龍の滅龍魔法しか使えないらしいがね」
それで滅龍魔法を使えたのか――。
道理で、俺と似た魔法の使い方と思ったが……。
感覚的に近いと感じたのは同じ滅龍魔法を使えるからか?
「それだけじゃない。僕の研究で得た魔物の因子により、さらに身体能力も魔力許容量も上位の魔族をも上回る力を与えてあるんだよ!」
ファウストは自慢げにショロトルの性能を語るが、確かに自慢したくもなるわな……。
「さぁ、どうする? ショロトルの拳を止めたのは驚いたが、こいつは龍をも殺す魔法使いだ。勇者だろうが、龍だろうが、勝てると思うのかい?」
ただ……。
「滅龍魔法が使えるのが、お前はご自慢の狂人だけだと思ったのか?」
ザワリ……。
身体の細胞一つ一つから力が沸き上がってくる。
莫大な力が身体を包み、血が滾るを感じる。
「な、なんだ……。オーラ系の魔法? いや、それとは違う。なんだその魔法は!?」
戦くファウストに俺は自慢げに笑い、
「教えてやる。これが真の滅龍魔法――神龍力だ!」
滅龍魔法の奥義を解放する。




