砦2
「ゼクスクリスタルウォール!」
マーリンが呪文を放つと、走り出すと共に左右に半透明の壁がせりあがり、突進してきた魔物を阻んだ。
モーゼの海渡りかっ!
ドッ!と壁が揺れたと思うと赤黒い飛沫が舞う。
勢い余って魔物達が壁にぶつかったのだ。
よほど分厚いのか、天井から埃が舞うほどの衝撃でもヒビ一つの入ってはいない。
「外は棘状にしてあるから突撃した魔物達はかなり痛かっただろうね」
しれっと言うがエグいな。
何せ左右から津波のように俺達をめがけて殺到していたのだ。
それらの殆どが棘に刺さったと言っていい。
証拠に半透明の壁の大半が様々な色の体液で汚れていた。
「サモン・ブラッドナイト!」
足元に瞬時に描かれた魔方陣。そこから現れたの王都で俺が倒したアンデットの騎士だ。
相変わらずの禍々しい気配と重装甲はそれだけで見るものを恐怖に陥れるだろう。
落ち窪んだ眼窩に灯るのは生者を憎む光と殺戮への渇望だ。
それが二体。俺達の背後を護るように召喚されていた。
「ここの魔物ならブラッドナイトで充分だ。私達は先を急ぐよ!」
ブラッドナイトはこの世界では強い部類。
しかも、疲労はなく、身体の欠損も気にせずに戦えるのだから、壁にはもってこいか……。
「わかった!」
俺も壁の外で呻いたり、棘を避けて壁を引っ掻く魔物を無視し、さらに砦の奥へと急いだのだった。
◆
「まったく挨拶もなく僕の研究所を土足で踏み荒しおって」
「はっ!だったらチャイムとドアノブでも付けとくんだな」
俺とマーリンが最下層と思われる場所にいた。
闘技場かと思えるほどの巨大な円形の場所は、野球でもできそうな広いスペースに不釣り合いな小さな男が一人立っていた。
ネズミ色のローブに下顎を漆黒の螺くれた杖。
骨が浮き彫りになるほど痩せた身体に乾いた黒ずんだ皮膚が申し訳ないように張りついている。
額に三つめの目をもつ男は亜人?なのか?
男は俺たち二人を見るなり呪詛を吐いてきたのだった。
「減らず口を――。僕の可愛いモルモットまで随分殺してくれたね」
「つまり、君がこの施設の主か……。まさか魔族がこんな僻地にいるとはね」
マーリンは男を眺めながら顔を歪ませていた。
この男が『龍鬼血』を使った犯人。
「自己紹介くらいはしておこう。偉大なる魔王様の僕――ファウストだ」
「魔族? ゲヘナと同類かよ。それより、お前――冒険者をどうした? この砦に来たのは間違いんだよ」
俺は返答次第で即座に襲いかかれるように腰を落とす。
対して、ファウストは邪悪に嗤い、
「あぁ、あの弱い人間達かな? 丁度素材が足りてないから、モルモットの素材になってもらったよ!ハハハハ!」
「そうかよ!」
返答は予想通りだが、改めて聞くと虫酸が走る。
この世界は俺の世界以上に命を弄ぶ下衆が多い!
ファウストが言い放つと同時に地面を蹴り、瞬時に距離を詰める。
「!!」
「雷龍の斬爪!」
首をはね様と放った一撃だが、足元から飛び出してきた何かが俺の手刀を止めていた。
「ハハハハ!!よくやった!」
高笑いするファウスト。
それを守るように立ちはだかる大男はまるで獣を思わせる風貌をしている。
「なんだ……こいつは?」
ステータスがぼやけて見えない。
というか、レベル100越えの攻撃を片手で止めただと!
それにこの魔力は……。
近い。
肌ではなく最も奥の根元でそれを感じた。
こいつは何者だ?
「ハハハハ!そいつは僕の最高傑作の魔人――ショロトルさ! 」
赤黒い狂気のオーラを包む男と俺の目が合った。




