地方都市ガレス
「魔物の大量発生とかではないみたいだな」
「そうだね。道のりに山賊が発生しているわけでもやはりなさそうだね」
俺とマーリンは道すがら街道を使ったが、魔物が襲ってきたり、山賊が出たりもなく平和そのものだった。
都市の治安機能は維持できているらしく、街道付近の魔物は定期的に討伐できているようだ。
まぁ、魔物にまったく襲われなかったのは運がよかったのもあるだろう。
「魔物にとってもだろうね。進は今や並の魔物にとって逆に脅威だろうから。気配でも逃げ出すさ」
「人を化け物みたいに言うな」
化け物はお前だろうが、リッチーなんだから。
「強さは人外領域さ」
俺はジト目で笑うマーリンを睨みながら都市へ入った。
他の都市と同じく城壁に囲まれたガレスは東西南北の四ヶ所に入り口があり、都市のど真ん中を貫く河が水源として機能しているので、水が豊富。
なので、農業都市として有名らしい。
あちこちでパンを焼くいい匂いが漂っている。
露天も果物やら野菜やらが並べられ、思ったよりも活気があるな。
まぁ、冒険者の行方不明は割とあるし、市民には関係ない人間の方が多いからかもしれない。
この都市は小麦の自給率が高いので、価格も安い。
帝都からそこそこ離れているし、副都心ほどではないが、物質的には豊かなのだろう。
とても冒険者の行方不明者が続出してるとは思えないのだが……。
「まずはギルドで話を聞かないとね」
「そうだな……」
◆
「よく来てくれました。勇者神条様、賢者マーリン様。私はこのガレスのギルドマスターをしているイーラと申します」
「……小学生?」
俺とマーリンを迎えたガレスのギルドマスターは見た目は小学生くらいに見えた。
ギルドマスターと言えばアロンダイトみたいな元凄腕の冒険者だったイメージなんだが……彼女は小柄な見た目も相まって魔女っ子みたいなイメージを受ける。
「小学生と言う言葉の意味はわかりませんが、反応からその単語が誉め言葉ではないのはわかります」
イーラの声はアニメ声でさらに小学生感が強まる。
「ふむ、ここのギルドマスターは随分お若いのですね? こう……なんと言っていいのか……」
見た目と実年齢がマッチしていないマーリンもイーラの見た目に困惑している。
お前もアンデットだから見た目と年齢はあってないけど……。
イーラはマーリンの反応になれているらしくクスクスと笑い、
「初対面ではよく言われますね。口の悪い方ですと、『ギルドマスターの孫ですか?』なんて言うんですけど、正真正銘のギルドマスターですよ? これでも、年齢は――神条様の倍はあります」
まじですか?
俺の倍って三十路越えてるのかよ!?
年齢を明かさなかったから聞くと怒るんだろうな。
亜人とか?
見た目はロリっ子だが、中身はってやつか……。
言ったらヤバそうなので言わないけど。
「我々を呼んだのはこの都市近隣での冒険者の行方不明事件についてですよね?」
気を取り直したマーリンが話を進める。
まだ顔に動揺の色が出てるので、内心はまだ立ち直っていないのだろうが。
「はいです。ここ数ヵ月でこの都市で行方不明になった冒険者の数は平均の三倍。これは異常です」
「行方不明になった者達に共通点などはないのですか? 例えば同じ場所、方角での依頼を受けた――など」
「マーリン様は鋭いですね。我々もそこから洗っており、調べた結果、ここより北東にあるペリノアの森での依頼を受けた冒険者に集中していることがわかりました」
「そこの調査は?」
「勿論行いました。ただ、こちらも冒険者不足で調査に大人数を裂くわけにもいかず、さらに手練れの冒険者は別の依頼で都市を離れている状態でして。さらにあそこの魔物は森から出てこないのですが、レベルが高く奥に入るほど危険なのです。さらに低レベルの魔物が森付近で現れる頻度もあがっており、ピリピリしているのです」
そんな時に近くに俺とマーリンが来ているのを知って依頼を出したそうだ。
救国の勇者と大魔法使い――賢者の冒険者ならば少数精鋭で探索に出れると……。
森の近くなら捜索できるが、奥ともなれば実力者でなければならないが、今はそれができる冒険者がいない、と。
「わかりました。最善を尽くすと致しましょう」
「ありがとうございます。必要なものがありましたら遠慮なく申し出てくださいね」
イーラは肩の荷が軽くなったように表情を和らげて俺たちに頭を下げた。




