不穏な噂
「確かにロックゴーレムの石材の調達依頼達成になります。こちらが今回の報酬になります」
革袋に詰められた報酬を受け取った俺は帝国と王国では有名人だ。
ユグドラシルでは帝国の、ジャバウォックでは王国の壊滅を防いだのだから。
まぁ、どちらも被害は出たのだが……。
「次はマッドゴーレムのいる湿地帯か……」
…………まじで嫌だ。
何が悲しくてこの歳で泥まみれにならねばならぬのか。
「残念だが、その依頼は取り下げだよ」
「あ? なにかあったのか?」
次の滅獣の出現には時間があるはずだが?
「実はここから1日北にいったら、地方都市のガレスがあるんだが、そこで冒険者の行方不明事件が起きていてね。その調査をして欲しいと今、ギルドマスターに頼まれたんだ」
「行方不明? でも、言っちゃなんだが、冒険者の行方不明事件ってそんな珍しいか?」
貴重な薬草や魔物の素材は高額納税者金になるものが多いので、命をチップにする仕事。
森の奥で魔物に返り討ちに合ってそのまま食べられるってことも少なくない仕事だ。
故に冒険者の死亡率は他の仕事よりも遥かに高い。
兵士よりも上なのだから、職業別ランクの一位だろう。
基本命懸けだから当たり前だが。
「普通ならね。ただ、行方不明者のネームプレートもまったく発見されていないし、その数がここ数ヵ月で膨れ上がっているらしいんだよ。それに低レベルの魔物の増加もね」
ただでさえ、冒険者は滅獣との戦いで数が減っている。
Dランクはもちろん、将来的に成長するかもしれないE、Fランクの冒険者が短期間で行方不明になれば、不安から活動拠点を他の都市に移す冒険者も出るだろう。
これをギルド側から止めることはできないのだから。
しかし、そうなれば、魔物討伐数がますます減り、都市の治安すら脅かされる。
なにより、今は冒険者の戦力増強に力を入れている皇帝の覚えもよくないのだそうだ。
「強い魔物でも出たか?」
「いや、それも報告にはないね。あそこも五千人はいる、それなりの都市だ。Bランクの冒険者だって抱えているし、討伐情報がないのもおかしいだろう?」
そうなると、何かしらの事件か?
人身売買でも狙った犯罪集団?
それとも盗賊や山賊?
だが、当たり前だが、戦闘を生業とする者が多いので、冒険者は一般人よりも強い。
それを拉致して奴隷にして売るにはリスクが高いのでよほどの阿呆でなければやろうとしまい。
この国でも王国でも人種の奴隷販売は禁止されているし、亜人もレティシアが女王即位後に禁止にしていた。
少なくとも王国と帝国では人身売買は禁止されている。
まぁ、裏ではわからんが……。
だが、リスクが高くて、メリットが低すぎるだろう。
山賊や盗賊にしても、そんな冒険者に対して手を出せばギルド、帝国軍を敵に回してしまう。
ケーティア筆頭のAランクの冒険者は一騎当千の猛者だし、再編中だが、帝国軍だって精強だ。
少なくとも盗賊や山賊ごときにやられるだろうか?
それにネームプレートが見つからないのが変だ。
魔物に食べられてもあれは大抵消化できない金属加工してるので、見つかりやすい。
それに強い魔物が出現したり、討伐されれば何かしらの情報が流れてくるものだ。
それもないとなると――――。
「事件の匂いってやつがするな」
「私も同感だ。でなければ、指名依頼などださないさ」
俺とマーリンがロックゴーレム討伐でこっちに来ていたのを知ったギルドが指名依頼を出していたらしい。
本当に俺の周りは次から次へと問題が起きるな。
何かそう言う星の下に生まれてしまったのだろうか、と最近は本気で疑うようになっていた。




