亜人大戦報告書
『滅竜教会の信者三万人によって始まった空白地帯への進攻――大魔獣ベヘモスの討伐のまま進攻した彼らは異世界の勇者により進攻を阻まれることとなる。
その後にアスカロンに封じられた古龍ジャバウォックの目覚めと魔法により滅竜教会の信者は絶命した者、昏睡状態にある者などが続出し、王国の三割もの死者を出し、また国王の崩御と共和国に外交のため不在だった女王が王座を退いたため、新たにレティシア・ブルースフィアが玉座につくことになった。
また、この度の戦犯である滅竜教会を正式な邪教として廃教とし、新たに
神龍教を国教とした。
帝国に被害はなかったが、空白地帯での獣人の居住区である森林地帯の消失にともない、両国に流民として獣人が出ていっている。
王国の亜人差別の制度は全て撤廃されたものの、未だに亜人には住みづらい国であろう。
帝国はこの苦境の時代を乗り越えるためにも友好国に援助を惜しまない、と皇帝の宣言を受けて、現在は王国復興のため、多くのボランティアを募っている。
この機にと開戦派が動こうとしたが、勇者の声により、戦争は防がれることになった。
亀裂による世界の滅亡に手を取り合える契機とし、王国と帝国はさらに互いの協力関係を強くしている』
「…………」
羊皮紙に書かれた内容を聞きながら俺は安堵の息を吐いた。
ジャバウォックを討伐して一月。
未だに王都の復興もままらないし、空白地帯の復興だって年単位でかかるだろう。
だが、マーリンとケーティア筆頭に王国と戦争を狙っていた主戦派はその力を削がれ、穏健派が盛り返してきたことで帝国が弱体化した王国の併呑をすることなく、復興のために王国へと出かける労働者も募っているほど協力関係になっていた。
マーリンはマーリンで帝国で戦ってくれていたらしい。
まぁ、空白地帯もそうなると領土にしないといけないだろうし、ジャバウォックの瘴気で汚染された村や街もあるので、そんなものを領土にしたくないってのもあったみたいだ。
未だにアンデットとかいたらしいしな。
強くてもレベル30程度のアンデットらしいから俺が呼ばれるほどでもない。
という訳で、今の俺は帝都に戻って屋敷で休憩中だ。
(今回の任務はさすがに疲れたな)
元々は眠りから覚めたベヘモスの移動ルートの調査だったのに、えらい事件に巻き込まれたものだ。
だが、得られたものも大きい。
この世界と地球の異能力の関係もそうだが、ジャバウォックの最期の言葉――女狐――ジャバウォックを利用していた誰かがいた。
恐らくは使徒の上にいる存在。
ゲヘナの言葉もそうだが、意図的に世界崩壊を狙っている存在がいるのだ。
そして、ジャバウォックが滅獣だった以上、この世界崩壊の亀裂や滅獣もその存在が送り込んでいると見るべきだろう。
今までの厄獣についての正体はまったく不明だったが、この世界でより詳しくわかりつつあるのだ。
(社長との契約――がまさか異世界で果たせるかもしれないとはな……)
倒すべき存在の姿が浮かび上がりつつあることに、俺は獰猛な表情を浮かべて空を睨んだ。
亀裂の塞がった空は青々と広がっているが、その向こうには不吉さを知らせるような曇天が迫りつつあったのだった。




