滅龍魔導師
「………………」
ジャバウォックは今までで最大級の警戒をしていた。
あの時――アスカロンに封印されたのはすでに死に体だったからだ。
そして、そこまで追い込まれた相手はゲオルギウスなどではない。
あのおぞましき滅龍魔導師の気配――。
それと似た気配を目の前の少年――神条進は纏っていた。
「こりゃ……凄いな」
全身が――全細胞が躍動しているように熱い。
心地よい高揚感。
まるで初めからこの力を受け入れることができるのがわかっていたかのように馴染む。
沸き上がる魔力が輝きを増し、昼間のように王都を照らし出す。
まるで太陽か光の化身だ。
進が自らの神龍力をあっさりと取り込めたことにティアは驚愕していた。
適応できるのがわかっていたように、何度もしてきたように身体に馴染んでいる。
それはありえない。ありえるはずがない。
進がこの世界に来てから出会った龍は自分とジャバウォックの二柱のみであり、神龍力を取り込んだのはこれが初めてだ。
なのに――――。
そんなことできる存在は龍の因子を身体に持つもの。
それは――――かつての大戦で滅龍の果てに龍化してしまったとされる滅龍魔導師だけだ。
それ以外の滅龍魔導師はあの時に滅んでいる。
まさか……進はもともと龍と縁があるのか?
じゃが、そんな話は進から聞いたこともないし、この世界では龍魔人は自分しかいない。
後で聞いておかねば……。
ティアは全魔力を進に渡したため、ガックリと膝をついた。
後は――任せたぞ。
「任された!」
背中から魔力を噴き出して推進力に変えた俺はロケットの様にジャバウォックめがけて走った。
さながら金色の閃光だ。
ティアのオーラが黄金の光となって全身を覆っている。
速い!
今までとは比較にならない。
レベル350のジャバウォックはまだその動きを追えたが、レベル差だけなら埋まったと言っていい。
それほどの速度だ。
「滅神龍の鉤爪」
進の指から伸びた魔力爪がジャバウォックの鱗を裂き、どす黒い血が滲む。
浅いとは言え、自らの鱗を断たれたのだ。
やはり、スピード以外も全て肉薄したと見ていい。
「幻龍の蜃気楼」
ジャバウォックの姿が幾重にもぶれていく。
「また残像かっ!」
「ゲハハハハ! 人間に見破れるかな?」
巨体と思えない俊敏さでジャバウォックの爪、牙、尾があらゆる角度が放たれた。
さらに宙に浮かぶ何体かのジャバウォックがブレスを放とうと息を吸っている。
「何度も同じ手を食うかよ!」
進は振り下ろされた凶刃を凶牙を、さらに薙ぎ払われた尾までも無視し、滞空している一体に狙いを定め――。
「滅龍の穿哮!」
速度重視のブレスを放った。
今までのが広範囲に放たれたものに対し、レーザーのような超圧縮のブレスだ。
貫通力、速度を重視したそれは急所に当てるのすら困難だが――。
「ぐっがぁ!?」
肩を穿たれたジャバウォックは苦悶に呻き声をあげる。
――幻影を見破ってると伝えるには十分だ。
「んなもん、とっくに見破ってるわ!」
「何故だ……」
ジャバウォックは呻きながら幻影を消した。
バレているなら維持するだけ魔力の無駄だだからだ。
「ははっ!ネタバレしたらつまらんだろうが!」
答えは極めて単純で分身には影がないのだ。
俺が光源になってるので、ジャバウォックの偽物には影がないのを見抜くことができただけだった。
「――ならば、これはどうだ? 幻影の透景」
ジャバウォックの姿がかき消すように消えた。
また透明になったか!
だが――。
「それも対策はあるんだよ!」
俺は地面を力任せに踏みつける。
クモの巣状の亀裂が走り、土煙が舞い上がった。
舞い上がる土煙が視界を覆う。
風の無い中で巨体のジャバウォックが動けばそれだけで煙の幕が大きくゆらめく。
「捕らえてるぞ!」
「ぐっ!」
俺の拳がジャバウォックをとらえた。
鱗を砕く感触が拳から伝わる。
「ぐがっ!」
見抜かれると思っていなかったジャバウォックはもろにダメージを受けた。
ここで攻める。
光学迷彩がぶれながらよろめくジャバウォックに俺は拳を握りしめ――。
「滅神龍の砕牙」
「滅神龍の鉤爪」
「滅神龍の蓮擊」
爪は鱗を抉り、翼を引き裂き、臓腑を揺らす。
俺は最後のチャンスとばかりに一気呵成に攻める。




