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トーガ・ユーリ


 少年兵士と少女兵士にこの世界の常識について色々聞いていると、馬車がゆっくりと停まった。

 

「勇者様、到着でございます」

 

 御者のお爺さんが丁寧に扉を開けてくれたので、色々教えてくれた二人にお礼を言って馬車から降りて城に向かった。

 

「勇者よ、此度の戦い見事であった! そして、冒険者達も大義である!

 今宵の宴は勝利の美酒によってくれ!」

 

 国王からの祝辞から始まった祝勝会は豪華絢爛の一言に尽きた。

 

 コースとビュッフェの料理は日本でも高級レストランででるようなレベルのもので、初めて食べる料理はどれも美味しかった。

 

 楽団の演奏を背景に下のホールでは貴族が優雅にダンスをしていた。

 

 なんか貴族の令嬢とかが挨拶とダンスの誘いやら、婚約しましょうまできたが、骨を埋めるつもりはないので、挨拶だけにとどめる。

 

 てか、貴族の令嬢だけでなくお近づきなりたい貴族の当主やら、財閥、商人に雇ってほしそうな冒険者や傭兵まで来るので顔と名前を覚えきれるか! と突っ込みたくなる。

 

 亀裂の魔物の戦いで功績をあげ冒険者も招待されており、そっちのほうが話が合ったな。

 

 あっちだと『曙』もそんな面もあったのだろうか?

 

 まぁ、金銭で依頼を請け負うとこは同じだな。

 

 ダンスとか興味もないので食事を重点的に回っていると――。

 

「あれが……新しい……か……」

 

「どう……すか? ……やはり……するべきだ」

 

「我々に…………がおられる」

 

 なんか変な視線を感じる。

 

 観察するような、それでいて敵意を含んだ嫌な視線だ。

 

 ただ、勇者ってだけでこの会場では注目されているのでどこの誰かまではわからない。

 

 ただ、勇者に対して、よくない感情を持っている者もいるって感じか……。

 

 何もやらかしてないからそんな敵意を向けられて知らないのだが。

 

 なので、俺は並んでいる料理を存分に楽しむことにしたのだった。

 

「あなたが此度の滅獣を倒された勇者殿ですか?」

 

 分厚い肉汁の滴るステーキを食べていると、不意に声をかけられた。

 

「ん?」

 

 ステーキから視線を変えると俺と同じくらいの年の金髪碧眼の青年が立っていた。

 

 整った顔立ちだが、視線はどこか人を見下したものを感じるし、視線がさっき感じた嫌なものと似てるぞ。

 

「まぁ、そう……だけど」

 

 権力者なのか取り巻きも結構いるな。

 

 格好は俺を召喚したローブの集団を思わせる。

 

 胸にかけた十字架っぽいのを握ってる面々は宗教関係者なのか?

 

 それに見た感じ、戦闘慣れしてそうだ。

 

 体つきもひ弱な貴族と違い鍛えてるようだし、装備もブレスプレートやショルダーガードなど武装してる。

 

 なんか魔物の素材で作った装備っぽいが所々金糸の刺繍とかしてあるし高そう。付与魔法とかもかけてあるのか……。

 

 後ろにいる冒険社風のメンバーも同じちゃんとした装備だ。

 

 見た目は美人揃いで男の仲間はいないようだ。

 

 なんか値踏みや品定めするような眼差しでこちらを見てる。

 

 対して俺は学ランなので、見るからに装備に差があるよな。装備だけ見たらバカにされてると思う。

 

 などと考えていると、金髪の青年は軽くお辞儀をし、

 

「私はトーガ・ユーリと申します。この国で、あなたと同じ勇者をしております。以後お見知りおきを……」

 

 え?

 

 どういうことだ??

 

 トーガ・ユーリとやらの自己紹介に俺は目を丸くした。

 

「勇者って他にもいるのかよ?」

 

 あそこにいたのは俺だけのはずだ。

 

 他国にいるかもとか言ってたが確認には時間がかかるとか言ってなかったか?

 

 なんで召喚された日に他の勇者がいるんだ?

 

 てか、勇者がいるなら召喚なんかするなよ!

 

 まず、こいつに頼れよ!

 

「あなたと違い召喚者ではなく、選ばれた勇者なのですがね」

 

 ユーリは選ばれたを強調して言った。

 

 選ばれた?

 

「選ばれたって? 何に選ばれたんだ?」

 

「あぁ、あなたはこの世界には神器があることもご存じないのですね」

 

 小バカにするような態度がイラっとくるな。

 

 神器?

 

 これは初耳なのだが――。

 

 聞かなかったから少年兵士も教えてくれなかったのか。

 

 たぶんこの世界では常識なんだろう。

 

 俺は異世界産で、こいつはこの世界産の勇者ってことか。

 

「これが神器――竜殺しの聖剣アスカロンですよ。忌々しい邪悪の化身である龍を殺す聖なる剣。この剣はかつての勇者が用いた剣でしてね。次の勇者が現れるまで、岩に刺さって抜ける者を次代の勇者と認めると伝えられていたなのですよ」

 

 岩に刺さってる剣はエクスカリバーだろうが……。

 

 どっちもブリテン産の神話の武器だが、微妙に設定が違うぞ。

 

 ユーリが背中に下げていた鞘から抜いた剣は光を反射して目映く光っている。

 

 柄には細かな意匠が施されていた。

 

 汚れどころか、傷一つない磨き抜かれた刀身は神聖さを放ち、抜いた瞬間に周囲の邪を払ったように感じられ、芸術品のような精緻さがあるのに、武骨な強さを兼ね備えている。

 

 俺とユーリの方を見ていた他の招待客もアスカロンを見て、何人かが感嘆のため息をついているのもわかる。

 

 剣の良し悪しに詳しくない素人でもわかるほどの見事な剣だ。

 

「凄い剣なのは見たらわかるんだが、なんで滅獣の戦いにはいなかったんだ?」

 

「残念ながらその時は私は国の依頼で離れておりまして。私がいれば異世界の勇者を召喚する必要もなかったでしょう。一度目の亀裂は私が閉じたのでね……」

 

 暗に自分がいればモビーディックも倒せた、って言ってるなー。

 

 なんと言うか、嫉妬っぽいのがあるぞ。

 

 活躍する前に倒されたのが悔しかったのか?

 

 そんなに注目されるのが好きなのだろうか。

 

「それなら次の時は頼りにさせてもらうよ」

 

「えぇ、その時は私の力をお見せしましょう。この世界で培った力を――ね。まぁ、より早く機会があると思いますよ?」

 

 ユーリは終始挑発的な態度のまま自己紹介をしてとっととどこかに行ってしまった。

 

 しかも、なんか引っかかる言い方だったな……。

 

 にしも……なんだったんだ? あいつは?

  

 協調しようとかまったくなく、ただただ嫌味な自己紹介だったぞ。

 

 


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