ジャバウォック対異世界勇者2
権能発動時の神気、本来の身体能力に異能力を加算した身体能力による一撃は山河を砕き、地形をも変える。
権能の一つはもう通じない。
ジャバウォックの命がまだ二つあるとするなら、暴食を使っても倒しきれない。
最低でも権能なしで一つ命を断たねばならない。
(こいつを滅獣王と同等と見るなら手加減はいらなねぇ。『聖杯』を使って全力が出せるなら十分勝機はある!)
「雷龍の崩拳!」
「幻龍の絶拳!」
進の身体の半分ほどもある拳と進の拳が激突した。
直後、二つの間で挟まれた空間が軋み、衝撃が土砂を巻き上げる。
対龍魔法が果たして龍に対してどれほど効くのか――。
「なっ!?」
全力で拳を振るった俺は思わず声を漏らしていた。
「ほぅ……ただの人間ではないようだな」
山をも吹き飛ばすはずの一撃はジャバウォックの拳と拮抗していたのだ。
(まじか……)
モビーディックですら、ダメージを与えられるほどの力を込めいるのに、びくともしない。
「ゲハハハハ! 我の拳を受け止めるか人間! 」
ジャバウォックは余裕の笑みを浮かべ、もう一方の手を高く掲げていた。
「っ!」
「だが、その程度だ!」
岩のような拳は落石どころではない。
隕石にも近い一撃が容赦なく進の頭上に影を落とし――。
「妾もおるぞ!」
紫電の翼を生やしたティアが横からその拳を殴りつける。
直撃の軌道がそれた拳が大地をたわませ、衝撃だけで側の建物が崩れていった。
「ティア! まだ出なくていい! 準備してろ!」
「大戦も知らぬ小娘が粋がるな!」
ジャバウォックの頭がティアと俺を見下ろし、大きく口を開き――。
「幻龍の吐息!」
二つの口から放たれたのは毒々しい紫色の霧状のブレスだ。
明らかに炎や雷とは違う。
(幻覚効果のある霧か? それとも毒か?)
ジャバウォックの結界に触れた飛竜は即死していた。
何かしらの状態異常が発生するブレスと見るべきだ。
しかし、霧のブレスなら対策は打てる!
「はっ!そんなもん!」
「吹き飛ばしてくれるわ!」
「「風龍の咆哮!」」
台風以上の圧縮した風で、霧を吹き飛ばす。
暴風はそのままジャバウォックに無数の風の刃を与えるが、黒い鱗には掠り傷すらつかない。
どんな硬度だよ。鱗は金属製か?
「風は苦手でも、対龍魔法なんだが……」
「あれが全盛期以上なら想定内じゃ! 怯むな」
ぼやく俺にティアは自ら纏うオーラをさらに強くする。
「ティアよ、何故敵対する?龍種の存在意義は世界の守護だ!なぜ、滅びに向かう人類に荷担する?」
「人類が滅びに向かうだ?滅獣になって世界を滅ぼそうとしてるのはお前だろうが!!」
「人間よ……。我はかつて未来を視たのだ。人類に世界を委ねた先にあるのは文明の発展の先の滅亡なのだ」
ジャバウォックの言葉は俺の世界にむしろ当てはまるだろう。
地球環境や汚染など世界規模の危機を抱えているのだから――。
この世界の文明はそこまで発展していない。
だが、これから先そうなるのか?
だからって……。
「そんなもん何百、何千年も先だ!今すぐ起きる訳じゃねぇだろうが!」
「いずれ起きるなら今滅ぼせばよい。起きてからでは遅いのだ!」
益虫か害虫の卵かわからないが、害虫の可能性があるなら生まれる前に全部壊すってかよ……。
「身勝手だな……」
「ジャバウォックよ、貴様が滅んでから人類は多くの過ちを犯しながらも反省し自らの道を進んでおる。じゃが、人類は人類でよりよい世界を作ろうとしておるわ!」
それは龍種が減っても役割を護ってきたティアの言葉だった。
「ははっ! そうだな……。俺の世界も同じだ。お前みたいな上位者から見れば、ちっぽけな存在だが、人間だって捨てたもんじゃねぇんだよ!」
疫病、世界大戦、核、人口増加、環境汚染……様々な問題に立ち向かいながらも人類は前進しているのだ。
それを否定するのは――俺達への否定だ。
「ゲハハハハ!ならば証明してみるがいい!人間たる貴様の手でな!」
「ハナから、そのつもりだ!」
俺は神気を一気に練り上げる。
「見せてやるよ! 俺の最強の権能を!」
『聖杯』を取り出すと同時に俺は第一の権能を発動させる。




