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神器の間


 湿っぽく埃っぽい通路に入って何十分経ったのだろうか?

 

 途中で何度かゾンビがいたが、すぐに対処したので問題なく進めている。

 

「ん?」

 

 俺は目の前に出てきた階段を見上げて足を止めた。

 

 階段の上には石の天井が広がっていて前に進めない。

 

「あ、スイッチはこちらです」

 

 レティシアが石壁の一部を強く押すと、そのまま石が押し込まれ、騎士像の時と同じく重々しい音ともに天井が開いていく。

 

「こっちからも開けれてよかったぜ」

 

 万が一敵にこの通路を使われた時を想定して一方通行だったら力付くで破壊しないといけなかった。

 

 その場合は天井以外も崩れるリスクがあったからな。

 

 生き埋め……になる面子でもないがよかった、よかった。

 

 さてと……。

 

 階段を上ると使われていない倉庫らしき部屋だ。

 

「ここは?」

 

「一般の武器がある場所です」

 

 警戒しつつ上がってきたステファノは暗闇のせいか目を細めていた。

 

 光明石が急になくなって目が慣れていないみたいだな。

 

 俺とティアにはまったく問題ないが二人は見えにくいらしくまだ瞬きを繰り返していた。

 

「武器庫……神器の間には近いですね。ついてきてください」

 

 レティシアはブツブツと呟きながら頭の中で地図を描き、先頭に立つ。

 

「姫様! 先頭には私が立ちます」

 

 それを慌てておいかけたステファノはいつでも盾になれるように、前に立とうとレティシアを追いかけていった。

 

 

「ここが神器の間になります」

 

「おい!?」

 

 俺が召喚された場所かよ!


 見覚えのある道に既視感を感じていたが、やっぱり来たことがあった。

 

 今、俺達のいるのはカビ臭い幾何学的な紋様が床に刻まれた部屋で、召喚された時は混乱して辺りを観察する余裕なんてないので、気づかなかったが、奥に部屋がもう一つあったみたいだ。

 

 石とは違う金属で出来た扉は鍵があるわけでもない。どうやって開くのだろうかと見ていると、レティシアが触れると分厚く重そうな見た目とは裏腹にあっさりと開いた。

 

 さらに通路でもあると思ったが、広間のような空間は部屋五つ分はありそうな巨大な開けた空間だ。

 

「ここが開かれるのは、建国以来初めてでしょう」

 

 だが、それほど閉ざされていたはずの部屋は時が止まっていたかのような静謐さと神秘的な空気を讃えていた。

 

 広間の中はまるで全ての視線を集めるように中央に杯が浮いているだけで、他には一切何もない。

 

「これ……が神器か?」

 

 明らかに只の杯ではない。

 

 アスカロン同様に杯そのものが存在感を放っているのだ。

 

 まるで巨大な一つの存在がいるような――。

 

「神器かはわからぬが、間違いなく魔杯か聖杯の類いじゃろうな。信じられんほどの魔力を感じる」

 

 ティアは杯を凝視しながら呟いた。

 

 恐らく魔力を集中して杯を見てるのだろう。まぁ、見なくても杯からは肌で感じられるほどの魔力が溢れている。

 

「これが聖杯ですか。アスカロンと共に英雄ゲオルギウス様の使用したとされる……」

 

「これほどの武器が城にあったとは――。長年仕えていたがまったく気づかなかった」

 

 レティシアとステファノは杯の存在感に呑まれてて呆けるような表情をしていた。

 

 それほどにこの杯から放たれる力が凄まじいのだ。

 

「まぁ、この杯ならジャバウォックでもなんとかなりそうな気がするな」

 

 ただ、問題はあった。

 

 俺は杯なんて使ったことがないのだ。

 

 普通は使わない。異能具でも見たことないタイプだし。

 

「ティアは使い方わかるのか?」

 

「まさか……妾は人の姿じゃが龍魔人ぞ? 魔力を帯びた手刀は鋼を断つのじゃ。人間の武器や道具に心得などあるわけがなかろう」

 

 ですよね――。

 

 まったく期待してないが困ったな。

 

 これが凄くてもジャバウォックと戦える俺とティアがまともに使えないなら意味がない。

 

 某ゲームにある万能願望器とかなら話は別だが、そんなものがあっさりあるはずもないしな――。

 

「で、この杯ってどんな力があるん――?」

 

 杯の機能をレティシアに訊ねようと思った俺だが、目の前に現れた存在に言葉を続けられなかった。

 

「驚いたな。まさか、この神器の間が開かれるとは――。できれば来て欲しくなかった日だがね」

 

 半透明の幽霊のような男が杯の前に現れたからだ。

 

 彫りの深いイケメンで騎士像そっくりの姿をした男。

 

 だが、見事な鎧を着た男は腰からしたがない。

 

 というか、逆三角形になって漫画で出てくる幽霊みたいになっている。

 

 もしかしてこの幽霊って……。

 

「ゲオルギウス……なのか?」

 

「おぉ! 君は勇者だね! 間違いない!この世界と魂の色が違う! それにこちらは――もしかして龍なのかな?」

 

 俺には親しげな笑顔で、ティアには若干警戒した表情を浮かべた。

 

 まぁ、ジャバウォックと戦ったって話だし、龍を警戒するのは仕方ないか……。

 

「安心せい。妾は進の味方じゃ。人間をどうとか考えておらぬよ」

 

「そうか……。それならよかったよ。過激派にもし神器が渡ればもう人間に勝ち目はないからね。それこそ、異世界の勇者の異能力でもね……」

 

「まるで自分も異世界の勇者だったみたいな言い方だな?」

 

「そうだよ。私は君と同じく異世界から来た勇者だよ」

 

「な……に……?」

 

 ゲオルギウスの言葉に俺は今までで最も衝撃を受けた。

 

 この男も異世界人だ……と?

 

 

 

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