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ジャバウォック2


「はぁ! はぁ!」

 

 体内のSPをゴッソリと削られて俺は肩で息をしていた。

 

 百メートルを全力で走ったみたいに息が荒い。

 

 第二の太陽による焔はアンデットの軍隊を焼き払うとすぐに消滅したので、二次災害で山火事になることなどもない。

 

 まぁ、それ以前にほとんどの森が焼けてしまったので燃える樹もないのだが――。

 

「こ、これが勇者のお力か!」

 

「なんと凄まじい」

 

「こりゃ、まじで神話だな! 森がなくなっちまった!」

 

「今後のことを考えると不安ですが、今は生き残れたことを喜びましょう」

 

 最後の鬼徹の言葉は耳が痛い。

 

 ただ、砦よりも後方に鬼人の里はあるし、一番の被害者は獣人勢だろう。

 

 グスターボは目の前の光景に何も考えられないように呆けていた。

 

 いきなり龍が現れ、滅竜教会の信者を殺し、さらにアンデットの軍団が生み出されて、それが森もろとも消滅した――。

 

 短時間で色々ありすぎだ。

 

 一つの事態だけでも歴史書に記される出来事がこんな連発したから誰でも処理が追い付かないだろう。

 

 呆然として立ち尽くすのが普通だ。

 

「森よりも今はジャバウォックについてじゃ!」

 

 普通じゃないティアは冷静だった。

 

 さすが龍だ。精神構造が違う。

 

「わかってるが、いなくなっちまったぞ? どうするんだよ?」

 

「無論、追いかける!」

 

「どうやって?」

 

 ジャバウォックの速度は戦闘機もかくやと思える速度だ。

 

 馬だろうが、地竜だろうが追い付けないぞ。

 

 しかし、ティアはいつの間にか背中から龍の翼を生やしていた。

 

 この流れだと……。

 

「妾が追う。進よ、力を貸してくれ。あやつは絶対に野放しにしてはならぬのじゃ」

 

 いつになく真剣なティア。

 

 まぁ、あの魔法だけでもその危険性は十分だ。

 

 龍の戦闘力に加えて自分の僕や殺した敵をアンデットとして使役できるならあっという間に軍隊なんてできるだろう。

 

 通った村にブレスでも吐けばそれだけで数十から百のアンデット兵が作れるのだから――。

 

 …………。

 

 そう考えると事態は最悪じゃないのか?

 

 今すぐ討伐しないとやばすぎだろ?

 

 国が滅ぶとかそんなレベルの問題だ。

 

 意思をもつ疫病みたいな脅威だぞ。

 

 さらにもとは世界征服しようとしてたんだろ?

 

 思想も能力も危険極まりないぞ。

 

「わかった。でも、もう俺は権能は使えないぞ? それでもいいのか?」

 

「何のための滅龍魔法じゃ。進よ、もっと自信をもて!」

 

 ティアは俺の手をとると、フワリと中に浮かんだ。

 

「我々は――足手まといになりそうですな」

 

 まぁ、鬼徹や他の戦士には悪いが足もないしな。

 

「あとの事を頼む。まぁ、そっちは危険はないだろうし」

 

 戦争は意外な形で終わったのだ。

 

 滅竜教会の全滅で。

 

 ただ、復興は大変だろう。

 

 獣人は家も燃えてしまった、怪我人や死人も少なくないし、今までの生きていた森の半分がなくなったし。

 

「進よ。他人の事を心配しておる場合か、ジャバウォックについて心配せい!」

 

「お前は鬼かよ!」

 

 亜人の神様的な立場なんだから、もっと彼らのことも心配してやれよ! と思ったがティアは俺が突っ込む間も無く飛翔してしまう。

 

 瞬きする間に地面から離れ、グングンと大地と距離が離れていく。

 

「行くぞ!」

 

 それだけ告げたティアに引っ張られ、景色が急に流れ始めた。

 

「変だな」

 

「なにがじゃ?」

 

 飛びながらの呟きにティアが訊ねてきた。

 

「いや、普通は空気抵抗だの摩擦だの色々あるけど、まったく何も感じない。空にいるのに冷気もないしなぁ」

 

 流れる景色と浮遊感がなければ寝転んでいるような感じなのだ。

 

 飛行機よりも快適かもしれない。

 

「妾の魔力で周囲を囲んでおるからな。そのおかげじゃろう。普通の魔物に乗っておれば、進の言った物も感じるじゃろうがな」

 

「感じなくていいよ。それよりもジャバウォックについて教えてくれ」

 

 世界征服を目論んだ過激派の龍ってくらいはわかるが、それ以外はまったく知らない。

 

「そうじゃの。妾も戦争末期に生まれたので、戦時中の事は詳しくないが、ジャバウォックは大戦末期まで残った最後の過激派じゃった」

 

 ティアは昔の事を思い出すように視線を上へ向けて考えに耽る。

 

 今でこそ、人間が国を作り、魔物と住み分けが行われ、大陸の形が整ってきたが、あの時代はまったく違った。

 

 人間は小さな村程度の集まりがポツポツとあるだけで隠れるように洞窟や森に住んでいた。

 

 当日大陸を支配していたのは人間ではない。

 

 数ではなく質――一柱でも人間の国を滅ぼせる龍が支配していた。

 

 人間の多くが龍にとってはただの餌。

 

 だが、そんな中異端とも呼べる龍はいた。

 

 後の穏健派とも言われる彼らは他の種、魔物や人間との共存を主張した。

 

 だが、そんなものは当然受け入れられない。

 

 ジャバウォックを筆頭にした人間も魔物も龍にとっては餌であり、支配の対象とする過激派と揉めに揉めた。

 

 有り余る力を保有する者同士の揉め事はやがて武力解決の方向へと進むこととなり、起きたのが龍同士による大戦だ。

 

 天地を引き裂き、大陸のあり方さえも変えた戦いは天地戦争と呼ばれるほどで、余波で人間、魔物にも甚大な被害が出たそうだ。

 

 最後は穏健派が勝ち、彼らはひっそりと人目につかない場所に隠れ住むようになったのだが、最後まで抗ったジャバウォックは最後は現在の王国の王都にて人に討たれたとされている。

 

 その時の剣がアスカロンらしいのだが――。


「討たれたんじゃなくて封印されただけだったとはな」

 

「なぜ、いきなり封印を破るほどの力を得たのかは不思議じゃがな」

 

「それこそ劣化じゃないのか?」

 

 時の流れて封印が弱まったのかもしれない。

 

「それも考えられるが、あの魔法じゃ。誰か外部からの干渉があったとしか考えられん」

 

「古代魔法だよな?前に使徒を名乗ってた変た――仮面の悪魔は主が世界の敵だと言ってたが同じ主なのか?」

 

「龍に悪魔を従えるか――それこそ、邪神や神の類いじゃ」

 

 神に遣わされたとされる龍のティアは神の存在を笑い飛ばすような口調だ。

 

 まぁ、俺も神話に出るような神は空想の産物と思ってる口だけどな。

 

 あいつらは最も質が悪い。

 

「ゾッとしねぇ。できれば会いたくねぇな」

 

「そやつについてもジャバウォックに聞けばよいわ! そう簡単ではなさそうじゃがな」

 

「正直、聞きたくねぇし、関わりたくないんだがなぁ……」

 

 ティアは急停止して唸った。

 

 見ると空に紫色の雲が立ち込めているのだ。

 

 まるで侵入を阻むように、分厚い雲は風に流されることなく綺麗な変形に王国――王都の上空を囲んでいる。

 

「結界かよ」

 

「そんなところじゃな」

 

 どうやら簡単にはボス戦突入とはいかなさそうだ。

 

  

 

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