亜人大戦3
聖壁ごしに突撃してくる亜人を眺めながら、ヘーミッシは側に控えていた信者からは武器を受けとった。
「あなた達は手はず通りにしなさい」
「はっ!」
「全ては教皇様とユーリ様の御心のままに!」
「我らの祈りを」
「祈りを!」
理性を失っていない中央軍約5000の騎士と信者が両手を組み、神に祈るような格好で魔力をヘーミッシの手にした武器へと注いでいく。
膨大な魔力が彼の武器に込められ、眩い光を帯びていた。
溶けた鉄のようなオレンジ色の光は液体金属のように形を変え、弓へと変化した。
「なんだありゃ?」
「恐らくは魔法具――それもかなりの上位のものでしょうか?」
「やべぇなぁ、やばさがビリビリ感じられるぜ」
鬼徹とシャールスも顔色を変えた。
俺の第六感もあれがやばいと告げている。
ユーリの神器並の凶悪さをあれは秘めている。
信者5000人分もの莫大な魔力で発動する武器がまともなはずがあるまい。
「さぁ、神の一撃をその身に受けなさい」
矢をつがえずに魔力でできた弦を引くと、禍々しい魔力の集約された矢が現れる。
デヴァインセイバーよりも遥かに凶悪な威力を秘めた矢にゾワリ、と背中を死神の指が撫でた。
聖壁がある以上、雷龍の咆哮でも防がれる。
炎神の吐息もだ。
なら、障壁の内側から攻撃すればいい!
「射たせるかぁぁぁ!」
俺は異能力を発動。
拳大の氷柱を数十本、障壁の内側に形成した。
「ぬっ!」
溜めで動けないヘーミッシは焦りの色を浮かべるが、逃がさん。
「雹牙!」
カチカチに凍らせた氷が高速で放たれれば鈍器で殴られるのと大差はない。
それが数十本。
袋叩きのようなものだ。
「させんっ!」
「あっま~い!」
ガガガガガガガガガガガガ!!
ヘーミッシを庇うように滑り込んだ二つの影によってそれらは全て砕かれた。
すでに楯と魔剣を展開して全力戦闘の構えだ。
「この間はよくもやってくれたよねぇ」
「ヘーミッシ様には手出しはさせん」
レミーラとソーマが再び現れたのだ。
「はっ! またぶちのめされたいのか?」
「まじムカつくぅ……。でも、あんたの相手は私達じゃないし」
「ユーリ直々に相手をしてくださるそうだ。光栄に思え」
直後、俺の頭上で殺気がはぜる。
「戦技・延髄割り!」
「ちぃ!!」
舌打ちとともに俺は磁力で自らを後ろに大きくひいては斬擊から身をかわす。
刹那な上から現れたユーリの剣が大地を抉った。
普通なら剣が刺さるだけなのに、まるで爆発でも起きたかのように円形に土砂が弾ける。
爆心地に立つユーリは髪をかきあげて俺を見据えた。
「今度は逃がしませんよ。偽物。亜人もろとも皆殺しにしてさしあげましょう」
「はっ! やってみろ転生者! 今度は決着をつけてやる」
黒き腕とユーリの神器が激突して火花を散らす。
「こいつは俺が倒す! ティア達は後を頼む!」
「まかされた!」
「ご武運を!」
「死ぬなよ!」
ティア、鬼徹、シャールスが横を駆け抜けるが、ユーリは見向きもしない。
こいつも完全に俺に狙いを定めていた。
「またコソコソされるのも面倒ですから、瞬殺してあげましょう! 戦技・全能力限界突破! 能力超向上! 神器封印解放!」
ユーリの筋肉が車のタイヤに空気を入れたようにミシミシと膨らみ、威圧感が増していく。
何倍にも強さが上がってるのを肌で感じられた。
それだけではない。
芸術品めいていたアスカロンのシルエットが変貌しているのだ。
剣と呼ぶにはあまりにも巨大。神器と呼ぶにはあまりにも禍々しい黒い剣。
大剣の峰はノコギリのように無数とギザギザが並び、根元は獣の爪のようなスパイクが飛び出していた。
まるで生き物を無理やり剣の形へ変化させたような不気味な剣だ。
「ずいぶん禍々しいな。まるで邪剣じゃねぇのかよ……」
だが、あの剣はやばい。
まるで厄獣の王――神や魔王の名を冠する種と対峙したかのような威圧感。そして、俺の意思とは別に身体の奥から熱が沸き上がってくる。
あの剣――本当に一体なんなんだ!?
神器に対して身体が神殺しとしての力を発動している?
それほど凄まじいってことなのか?
それとも別の――何かなのか?
こっちも温存だの言ってられない……。
「ハハハハッ! これがアスカロンの真の姿。邪悪を滅ぼし、力を喰らう神器! さぁ、私のステータスも解放しましたよ! 存分に力の差を見るといい!!」
酔った様な高揚感で高笑いするユーリ。
その言葉通り俺の目に映っていたユーリのレベルは今まで会ってきた敵とは比較にならなかった。
レベル――150だとっ!!
あ、ありえねぇ……。
普通にこの世界の強者のレベルと比べても一線を画してるぞっ!?
「これが――勇者の力だっ!」
凶悪な笑みを浮かべるユーリの姿が一瞬で消えた。
「神技・神千切り!」
青黒い不気味なオーラをアスカロンが帯びる。
触れし万物を破壊する滅びの魔力だ。
振り切った斬擊は進を余波で粉々に切り刻み、その先の山を七つ分かつほどの威力がある。
一撃で終わりにする。
刹那の速度で背後に回ったユーリはそのまま進の首を跳ねんと大剣を振るった。
奇襲の時程度の強さなら反応も許さずに首を跳ねられる。
勝利を確信して笑みを浮かべながら、ユーリはその凶刃を進の首へと放った。




