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亜人大戦2


 パシィィィィィ!

 

 乾いた音とともに先程よりも小さな聖壁が再び展開され、中央の軍勢に放たれた岩や矢が全て弾かれた。

 

「思ったより再展開が早いですな」

 

「だが、さっきよりも遥かに範囲が狭いぜ!」

 

 シャールスのいった通り、あれでは中央の軍勢しか守れていない。

 

 決して少なくない数の矢と岩が聖壁から外れた信者達へと降り注ぎ、血渋きが舞う――。

 

 巨岩に押し潰されれば一たまりもあるまい。

 

 だが、矢を受けたはずの信者は倒れなかった。

 

 まるで糸で吊られた人形のようにゆらゆらと佇んでいる。

 

 生気を感じないそれは、まさしくゾンビだ。

 

「おいおい……どうなってんだ?」

 

 頭や肩、顔に矢が刺さっているのにたっている信者にシャールスは得体の知れない恐怖を感じる。

 

 まるで人ならざる軍団を目にしたようなおぞましい何かが潜んでいる――そんな気配を感じたのだ。

 

「ハハハハ! あなた達獣の浅知恵など我々には通じませんよ!」

 

 中央の軍勢から響き渡る笑い声。

 

 通常なら聞こえるはずがないのだが、魔法で拡声された声は砦のどこにいても聞こえるほどだった。

 

「何奴だっ!!」

 

 ティアの怒声に立体映像のように巨大な一人の男の姿が写し出された。

 

 慈愛の微笑みを浮かべている白髪で小太りの男だが、身につけたきらびやかな衣服は間違いなく教会でも高位――幹部か何かだろう。

 

「邪悪の化身たる龍の末裔ですか。幼子の姿を象るとはどこまでも下劣な生き物ですね。我が名はヘーミッシュ・ボヘミア。現教皇である!」

 

 こいつがっ!!

 

 どこまでも穏和な雰囲気を醸すこの男こそがこの戦争の、ティアの、俺の敵かっ!!

 

「さぁ、刮目せよ!これこそが真の神の軍勢である!」

 

 ヘーミッシュの高笑いとともに眼下に見える幽鬼のような信者達が一斉に白銀の炎に包まれた。

 

「なっ!? 味方に何をっ!?」

 

 驚く鬼徹だが、燃え上がったはずの炎はまるで水銀のようにうねり、信者を包み込むと、繭のように包み込んでいった。

 

「この感じはっ!! エンジェルフォールかっ!?」

 

「いえいえ、ゼクトほどの完璧なレベルのエンジェルフォールは再現できませんよ。せいぜい簡易術式での天使の召喚です。まぁ、獣人風情ならばこの戦力で蹂躙できます」

 

「っ、お前、自分の信者を――仲間を生け贄にする気かっ!?」

 

 エンジェルフォールを完全に発動したゼクトですら自我の無い怪物になっていた。

 

 それがこんな大量にまともな術式も組まずに変化させればどうなるか想像は難しくなかった。

 

 だが、バキバキと骨が砕ける音がそこら中から響いているのに、繭にくるまれた信者からは悲鳴ひとつあがらない。

 

「生け贄? 違いますね。彼らは神の尖兵として生まれ変わるのです。そのために我々は助力は惜しみませんよ」

 

「恐らく、事前に正気を失っていたのでしょう。それなら、矢が当たっても何も感じなかったような動きも納得がいきますからな!」

 

 鬼徹の呟きに俺は大声で唸った。

 

「この、外道がっ!!」

 

 部下や仲間をなんだと思ってるんだ。

 

「薄汚い獣人や邪悪の化身に荷担する偽物が正義でも語るのですか? 彼らこそ神の国へと選ばれた信者なのです。さぁ、神に祝福されし、天使の力を思い知りなさい」

 

「どこまでも腐ってやがるなぁ! 滅竜教会!!」

 

 ねばついたような蒸気が満ちたような息苦しい圧力とともに大量の繭から純白の鎧を纏った天使が一斉に飛び上がる。

 

 だが、その姿は天使と言っていいのか?

 

 白い鎧は外に出た途端、内側から染み出す赤黒い痣に汚れ、翼もまるで腐っているかのように崩れているものや欠けているものもある。

 

 まるで悪魔が天使に化けようとしたかのような――おぞましい軍隊だ。

 

「まるで堕天使じゃな。まったく人間と言うのはどこまでも救えぬわ!」

 

 俺と同じように怒るティア。

 

「さぁ、真の聖戦の始まりですよ!」

 

 ヘーミッシュの言葉に歪な天使が一斉に獣人達へと襲いかかった。

 

 ビャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

 

 あれだけ押していた戦線が今度は仕返しとばかりに押し返される。

 

 一体の天使に十人がかりでやっと戦えるが、あいては痛みも恐怖も感じず、片手や足がなくなろうと気にせず攻めているが、こちらはそうはいかない。

 

 召喚と同時に崩壊しつつある天使だが、あのままだと獣人部隊の壊滅は免れないぞ。

 

「くそっ! 撤退の合図だ!」

 

「させませんよ……」

 

 焦るシャールスにヘーミッシュが指を鳴らすと、中央軍の分厚い聖壁とさらに広範囲に聖壁が展開された。

 

 まずい。

 

 内と外の聖壁に阻まれて退路を断たれたぞ!

 

 一度目の獣人の攻撃はわざとか?

 

 捨て駒にした信者はどうせ天使化で死ぬのだから、その数を減らしてでも獣人部隊を誘い込んだのかっ!

 

「くそっ! このままだと全滅するぞ!」

 

「こうなれば、我々が外部から聖壁を破壊するしかなさそうです」

 

 シャールスと鬼徹は武器を抜いていた。

 

 投石や弓矢をいかけていた戦士も武器を手に取っている。

 

 最後は突撃がお約束かよっ!

 

 まったくファンタジーじゃねぇなぁ!

 

 血生臭すぎる。

 

「ティア!」

 

「わかっておるっ! 進こそ腹を括ったか?」

 

「括りたくはないが、残るつもりもねえよ!」

 

 このまま傍観者でいるほど俺の神経は図太くない。

 

 それにこうなるのもなんとなく予感はしていた。

 

 最後は全面衝突するだろうと――。

 

「「全軍突撃だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 俺とティア、鬼徹とシャールスとともに一斉に鬼人と蜥蜴人の戦士も滅竜教会めがけて突撃した。

 

 

 

 

 

 

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