亜人大戦
「こうして見ると壮観だな」
俺の眼下には滅竜教会の信者が無数に迫ってきていた。
しかし、彼らの多くは正式な訓練を受けたわけでも軍人でもない。
ゾロゾロと迫る様はまるで幽鬼の軍勢だ。
「投石器用意!」
シャールスの声とともに巨大な岩が宙を飛んだ。
岩の重量がかなりの速度で飛来するのだ。
人間など一たまりもない。
それにあれだけ広がっていれば、どこに投げても外れようがない。
高い放物線を描いて落下する岩の軌道は過たず滅竜教会に迫るが――。
パキィィィィィィィィィィィン!
中空で見えない壁に阻まれ、投げられた岩は信者へ届くなくこと砕け散るった。
岩とぶつかった瞬間に見えた正八角形の障壁。
あれは――。
「『聖壁』だ!」
「噂の集団高等魔法かっ! 構わん! 放て!」
シャールスの号令に大量の岩が投擲される。
それらは一つ残らず広範囲に展開された『聖壁』によって防がれていた。
「岩なんかいくら投げても意味がないぞ!」
「わかってる! とにかく放て!」
あれは分子融解能力ですら防げるほどの強度をもっている。
たかが岩など何百個投げても突破は不可能だ。
にも関わらず、シャールスは投擲の命令を止めない。
「集団高等魔法は魔力もバカ食いするはずだ。とにかく射ちまくって魔力切れになればこっちのもんだ!」
「つーか、投擲以外に武器はないのかよ!?」
「これでいい!!」
しかし、岩を弾きながら、ジリジリと信者の軍隊が迫ってきていた。
こっちの攻撃が大したことないと思って平然と進んできやがる。
『聖壁』も健在で、投げた岩を完全に防いでいる。
それだけではない。
中空に巨大な魔方陣が二つ描き出されていく。
あの紋様は――!
「やばい!! ディバインセイバー――裁きがくるぞ!!」
直後、柱の様な太さの白い閃光が魔方陣から放たれた。
真横からのそれはまるで巨神が振るう槍だ。
巨木を焼き飛ばし、衝撃で大地を抉り取り破壊を撒き散らしながら迫ってくる。
「進!」
「わかってるって!」
「雷天龍の咆哮!!」
「雷龍の咆哮!」
俺とティアは大きく息を吸い迫る光の柱めがけてブレスを放つ。
二人の滅龍魔法が混じりあい、より巨大なブレスとなってぶつかり合った。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!
ティアと俺のブレスとディバインセイバーが相殺し合い、耳をつんざくような轟音を撒き散らす。
凄まじい閃光と音に頭を殴られたような衝撃が来るが、たたらを踏んでこらえる。
「さすが、勇者殿と龍魔人様。頼りになります」
「ハハ! さすが、我らの切り札!」
高等集団魔法を二人で相殺した俺とティアに驚く鬼徹とバシバシと俺の肩を叩くシャールス。
だが、ほっとする暇はない。
中空に再び魔方陣が描き出されたからだ。
まだ、完成してないが、すぐに第二擊が来るぞ。
「どうすんだよ!? いつまでも咆哮で相殺してても埒があかねぇぞ!?」
「問題はねぇ! 二発目は射たさん!!」
シャールスが自信満々に言い放つと、それまで中空で輝いていた魔方陣が唐突に揺らいだ。
まるで濡れた指で文字を触ったように滲み、薄くなっているのだ。
「何が起きたんだ?」
迎撃魔法か?
だが、獣人も蜥蜴人も鬼人もあまり魔法は得意じゃないって言ってた。
となると、魔法を使う信者側の問題か?
「進! あれを!」
ティアが滅竜教会軍の端っこを指差している。
釣られてそちらを見ると、何やら土埃が上がっていた。
土煙はまるで滅竜教会を挟み込むように立ち上ぼっていく。
「何事だよ!?」
「地下に潜ませていた獣人の部隊です。奴らの聖壁がドーム状に張られるのは予想できたので、その内側に入ったら挟撃する手はずでしたので」
「投石しかしなかったのも奴らを調子付かせて潜ませた獣人部隊のところまで誘き出すためだ。やつらは俺たち亜人を見下してるからな、武器があれしかないと思えばそのまま進んでくると思ってたぜ!」
作戦通りに事が運び、鬼徹とシャールスの顔に笑みが浮かぶ。
さらに挟撃で混乱したのか、聖壁にも揺らぎが生じていた。
聖壁の防御に頼っていた分、内側に入られればなすすべはあるまい。
身体能力で遥かにまさる獣人が信者達を圧倒。
揉み潰しながら、中央の軍勢に迫っていく。
す、すげぇ……。
獣人無双の勢いだ。
「今だ!中央の軍勢にありったけの岩を投げろ! 弓も全部だ! 攻めまくれ!」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
背後からの大声とともに背後から雨のように矢が放たれ、さらに何十個もの巨岩が投げ飛ばされていた。
このまま簡単に勝てるのか?
そう思えるほど順調な作戦の嵌まりようだ。
だが、俺は甘かった。
順調な時ほど、油断してはならないと――。




