決戦前夜2
闇が支配する森の中、昼のような明るさを放ち、野火のように広がる軍団――滅竜教会。
「いよいよ明日!我々は神の名の下にこの地に巣食う亜人どもを殲滅するのだ!」
「これは前祝いだ!」
「ユーリ様に!」
「ユーリ様に!」
「神の祝福を!」
圧倒的な数で進軍している騎士達の何人かは酒をのみ、信者もくつろいでいた。
神に与えられし魔法の力の劣る薄汚い獣人や蜥蜴人など恐るるに足らない。
盲目的な教えに従う彼らは奇襲や罠で亡くなった同胞は神への信仰が足りないと言い、生き残った我々こそが神の僕だと信じていた。
そして、神器に選ばれたユーリが敗けることはない。
奇襲でユーリと進との戦いを見ていた信者は進が劣勢で逃げたのも見ていたし、ユーリが亀裂を沈めた戦いも見ている。
故に今回も勝利を疑っていないのだ。
死んでも殉教者として神の国へと迎えられると信じていた。
いつものように兵士が囲み、厳重に見張られているのは教皇よりも巨大な天幕。
だが、いつものように女騎士が中にはいなかった。
たった一人――ユーリがいつに座っていた。
手を組み、目を閉じて瞑想するようにしている。
「異能力者は許さない。僕の存在を否定するあいつらの存在は絶対に……」
ブツブツと話す声は誰にも届くことなく闇へと溶けていったのだった。
◆
俺が目を開けるとそこは灰色の世界だった――。
空も海も大地の境目もなく、見渡す限りの水平世界。
まぁ、こんな光景は地上ではありえないと断言できる。
「これは幻術? 精神世界ってやつか? それともこの世とあの世の境ってのか?」
「この光景で驚かんとはまったく前の世界がどんなのか気になるのう。精神世界が最も近いと言えようか?」
呆れた声はティアだ。
いつの間にか俺の前にティアが立っていた。
「まぁ、魔法みたいなチートが蔓延る世界だよ。この世界みたいなファンタジーじゃねぇがな」
どっちかと言えばSF寄りの世界だが、言ってもティアには通じなさそうだ。
ファンタジーって言っても首を傾げてたし。
「それより、ドラゴンフォースについて教えくれよ?」
「あぁ、そうじゃな。この世界が現実よりも遅い時の流れでも時間は有限じゃからのぅ」
ティアは頷くと指を鳴らした。
直後、ティアの前に立ちはだかるように白い光が集約し、人間大の姿をとる。
「ドラゴンフォースは純血種の龍の力を倒し、その力を得ることじゃ。この魂の領域で妾の力に打ち勝ってみせよ!!」
金色のオーラを纏うティアと瓜二つのそれは無機質な瞳で俺を見つめていた。
まるでゴーレム。
ティア・ゴーレムってところか?
「この世界では妾の全力。そして、進の全力も出せる。主の全てをとして戦え!!」
直後にティア・ゴーレムの瞳が灯火の様に紅く輝いた。
ドッ! とティア・ゴーレムから噴き出す魔力の量に思わずたじろいでしまう。
神――厄獣の王すら匹敵する威圧感。
ユグドラシルすら凌ぐぞ!?
「はっ! 燃えてくるな!」
だが、こっちのSP、MP、HPも全て満タンになっている。
決して絶望的な状態ではない。
「進よ。妾の分身は一切の手加減は出来ぬ。この世界での死は精神の死じゃ」
「リスクは承知したはずだぞ?」
最後に引き留めるように呟いたティアに俺は笑って首を振った。
ここまで来て辞めるつもりも選択肢もない。
何がなんでも会得する。
「では……行くぞ!」
「やってやる……。アナザーコスモロジー解放」
直後、ティア・ゴーレムの身体がブレた。
俺の権能と最強種の力が幻想の世界を大きく歪ませる。




