異世界スイーツ
ジュゥゥゥゥゥゥ。
カタカタ!!
「「「………………」」」
炊き出しから食材をもらって何やら始めた俺を亜人の子供達が興味深げに眺めている。
この砦で唯一の人間なので、興味はあるが声をかけるのは怖いのか、遠巻きたっている。
現在、俺は混ぜ作業だ。
ティアに薄く切った石を鉄板がわりにして、魔獣の卵、ミルク、小麦っぽい粉、魔獣の乳を使って生地づくり。
ティアの魔法で平らに磨かれた石板は鏡のようになっている。
本来はクリーム色の生地だが、材料が違うので若干緑色がかかって他の野菜を練り込んだみたいな色になっている。
包む具材はとりあえずドライフルーツメインで、新鮮な果物も少々。
南国風と派手な色で中はクリームみたいな不思議な果実だ。
ココナッツみたいな甘味と泡っぽい食感の謎の果実。
密と魔獣の乳で作ったクリーム。
これもいくつかある。
(傷んでるわけじゃないはずだから、大丈夫だよな? ティアに毒味してもらうか?)
状態異常無効の権能のおかげか、いいまで食当たりだの胃腸炎だのとも縁はないが、これからもそうありたいので、第一号は誰かに食べてもらうか。
何せ、毒蛇でも平然と食べるティアだ。
ちょっと素材が変わったクレープでもダメージはないだろう。
ただで配るし。
などと外道なことを考えながらクレープ生地を混ぜ終えた。
戦場で休暇中に子供から金を巻き上げるなんてことはしない。
まぁ、ボランティアみたいなものだしな。
「石は十分暖まったぞ」
石を熱してくれていたティアのほうも準備できた。
火の滅龍魔法は使えないので、薪での普通の熱し方だった。
ファンタジーらしく魔法でやりたいが俺は普通の魔法は使えないし、他の亜人は俺との距離があるので頼みづらいのだ。
「さて、異世界産のクレープはどんな味かな?」
俺が熱して油を引いた石板に生地を流し込んでいく。
「なにしてるのー?」
「たぎたし?」
「それを言うなら炊き出しだよ?」
「でも、ご飯っぽくないよ?」
「でも、美味しそうな匂いだよ?」
「うん、甘い匂い!」
興味津々の子供達が徐々に近づいてきていた。
ふむ……匂いにつられてきたか。
揃った素材からわずかに香る甘い匂いに誘われたかな?
獣人は鼻がいいから離れてても匂いがわかるのだろう。
「ふむ、確かに旨そうな匂いじゃのう」
「まだ焼いてないんだから、摘まむなよ」
生地を見つめるティアに俺は釘をさし、生地の入ったボウルを手に取り、熱した石板に生地を流していく。
ジュゥゥゥゥゥゥ!
できる限りの薄く伸ばした生地から甘い匂いがさらに強くなり、俺の食欲も出てきた。
この匂いならたぶん味も大丈夫そうだな!
焼けた生地を別の皿に移し、果実を盛り付け、クリームを塗り、クルリと生地でそれらを包み込む。
完成だ!
「これが……地球のスイーツ……クレープである!」
どや顔でいってみたが、まぁ、誰もわかるまい。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
ただ、子供達はめっちゃ興味津々だ。
石板の側まで来ている。
ヨダレ垂らしてる獣人までいるし。
「………………」
俺の横にもヨダレを垂らしている神の眷属がいた。
うん、もうこれはアホの子でただの幼女だ。
決して全亜人に尊敬される龍魔人とやらではないだろう。
見た目相応だ。
(ティアの精神年齢ってどうなんだろうな? 妙に子供っぽいところもあるしな。ただ、妙に大人びてるところもあるんだが――)
実年齢はとんでもないが、どんな人生を送ってきたのかは聞いたことがないし、ティアも話してくれないからな。
まぁ、機会があれば聞いてみるか。
「ほれ…………」
俺は試作第一号をティアに渡した。
「うむ。大義である」
見た目がロリで、ヨダレまで垂らしていたティアが偉そうに言うと笑える。
そのまま小さな口でクレープを頬張り――。
「旨い! うまいぞ!」
目を輝かせるティアに他の獣人や鬼人の子供も警戒の色を解いていた。
「食べるか?」
「「食べるぅぅぅ!」」
モフモフした子供達に囲まれ、俺はしばしの亜人の子供達との憩いの時間を楽しんだのだった。




