戦場での休暇1
使われていなかった砦と言っても、一万人の亜人が集結できる規模だ。
城下町ともいえる広さの敷地がある。
ただ、建物はほとんどが腐り落ちたり苔むして武器庫や物資保管などの重要な施設以外は全然使えていないので、建物と言えるほどの立派なものはあまりない。
まぁ、蔦や木の根、巨大な葉っぱで作ったテントがメインだろう。
亜人――特に獣人は木上や洞窟で暮らす種族も多いし、蜥蜴人も生活は狩猟がメインと原始的な生活だから、建物に関してはあまり気にしていない。
てか、あばら家ですらほとんどないので、プライバシーもないレベルだ。
逆に日本家屋ばかりの街並みだった鬼人達は野ざらしに近いこの状況は落ち着かないらしい。
フリーダムすぎてダメっぽい。
とはいえ、急遽戦になり四日後には決戦ともなると悠長に建物を作る暇はないだろうしな。
城壁補修に木材も石材も回さないといけないからそんなのを作るより、城壁の補修が優先だろうし。
非戦闘員が多い敷地では、槍を削ったり、矢の作成とか裏方を作業をしており、炊き出しの匂いがそこらで漂っている。
薬草を煎じている鍋からは毒々しい緑紫の湯気が出ているが大丈夫なのだろうか?
見張りの休み時間なのか、鎧を纏った大柄な鬼人や入れ墨のある犬人が炊き出しで食事していた。
卵や魔物の肉のスープと木の実、焼いてないパンっぽいのを食べてる。
ファンタジーだなぁ。
見れば、ゴブリンの上位種のボブゴブリンやハイオークとかもいるぞ。
ただのゴブリンやオークは魔物の討伐対象だが、彼らは人と取引したり意思疏通もできるので、そんなことはないらしい。
彼らから見ても、ボブゴブリンとゴブリン、オークとハイオークの関係は、人と猿よりも遠い関係なので、気にしないとか。
まぁ、ハイオークの前で豚肉とかは食べるのは気が引けるか。
何せ、パッと見は二足歩行するムキムキの豚だし。
いや、牙持ちだと猪か?
帝国ギルドで討伐したオークよりも凛々しいと言うか逞しい顔つきと言うか……。
彼らはパワータイプで蜥蜴人や鬼人にも匹敵する膂力なのだが、少数なので、獣人の派閥に属しているらしい。
ボブゴブリンも同じだそうだ。
彼らはパワータイプではないが、魔法はわりと使えたり、手先が器用なので矢を作ったり、罠作成をしている。
「さて、休みをもらえたがどうするか?」
俺はテントだらけの敷地に出て頭をかいた。
いきなりの休みをもらえてもやることが思い浮かばん。
祭りじゃないから屋台があるわけでもないし。
「ふむ、これから戦ともなれば皆も羽を伸ばすわけにもいかぬじゃろうて」
フードで顔を隠し、龍の気配を殺したティアも退屈そうだ。
「異世界人として皆に役立つ娯楽でもないのかのう?」
「すげぇ無茶振りだな。できれば、異世界人に、この世界の娯楽を提供して欲しいものだが、一つ考えてみるか……」
ティアの言葉に俺は顎に手を当てて考える。
漫画やアニメでのお約束ともなるならば――。
「いっちょ、料理でもしてみるか?」
「ほぅ……異世界料理か。興味深いな」
俺の思い付きにティアが目を輝かせた。
「地球料理を披露してやろう」
◆
とはいえ、戦場だ。
凝ったものとかは無理だし、機材だの材料だってシンプルなものしかないだろう。
なので、ここはシンプルな料理をつくることにした。
TKG――卵かけご飯は最高だが、あれを地球料理として紹介するのはいかがなものだろうか?
もう少し見映えのいい●ンスタとかないが、料理がいい。
そう言えば、炊き出しは当たり前だが、飯がメインでお菓子とかはないな。
せいぜいフルーツがあるくらいか。
せっかくだし、作ってみるか……。
台は石切で余ったのを使って、卵は魔物の卵をちょっと貰おう。
具材は――なんでもありだな。異世界だし。
俺はメニューを決めると早速取りかかることにした。
俺の世界でお馴染みのメニュー――クレープに――。




