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異世界召喚


「おぉ!」

 

「成功だ」

 

「神は我らを見捨ててはいなかった……!」

 

 感嘆とする声に俺はハッと意識を覚醒させた。

 

 ぼんやりとする意識は急速にはっきりとし、辺りを見回せる。

 

 なんかカルト集団の中にいる……。

 

 濃紺のローブを着た男達(女もいる?)が唖然としてこちらを見ているのだ。

 

 カビ臭い湿った部屋で、しかも、足元には幾何学紋様の魔方陣っぽいのも書かれている。

 

 あの隔界から意識が冴えたらカルト集団のど真ん中か……。

 

 どうなってる?

 

 壁は石造りで苔も所々に生えていてかなり古めかしい。

 

 こんな場所、漂流街にもなかった気がするが……。

 

 ていうか、あいつらの奥にある祭壇といい、RPGのスタート地点を彷彿とさせるな。

 

 おおぉ!勇者様よ! 我らをお救い下さい! とかフレーズで始まるんだよな。

 

 などと考えていると、ローブを着た集団がいきなり俺の前に跪き――

 

「おおぉ!勇者様よ!どうか世界をお救い下さい!」

 

 と俺の脳裏に浮かんだフレーズと似たような台詞をのたまった。


「は?」

 

 間違いなく俺はこの時顔がひきつっていたと思う。

 

 いきなり訳のわからんカルト集団の中にいて、今度は世界を救えって……。

 

 どこのゲームだよ。

 

 ま、その前は自称魔皇と戦いかけてたわけだが――。

 

「混乱されておられると思いますので、率直に言いますと、勇者様を古の儀式で召喚させていただきました」

 

「召喚……ねぇ」

 

 ゲームでも異次元から魔物を呼び出す職業とかあるよな。

 

 異能力がある世界の俺が言うのもあれだが、ファンタジーってやつか、この世界は……。

 

 それにしてもなんで俺?

 

 でも、煉獄は共鳴って言っていた。

 

 もしかして、その古の儀式とやらと関係しているのではないか?

 

 隔界は現実世界とは切り離された謂わば異世界だ。

 

 もしかしたら、この世界に近い場所だったのだろうか?

 

 それで俺がここに呼び出された……とか?

 

 それに言葉が通じるのはお約束なのだろうか?

 

 色々突っ込みたい。

 

「なぁ、俺以外にも召喚された人間……はいないのか?」

 

 煉獄は――人間じゃないな。

 

 あれは見た目も中身ももはや人外とみていいだろうし。

 

 だが、業火や美海、鮮血が呼ばれててもおかしくない。

 

 あいつらもあそこにいたんだし。

 

「召喚に応じられたのは勇者様お一人だけです。……ただ」

 

「ただ?」

 

「空から降臨された光は幾筋か確認されております。もしかしたら、他国にて召喚されたかもしれません」

 

 そうなると他のメンバーも来てるかもしれんな。

 

 業火とかは性格的に異世界ヒャッホーとかなりそうだ。

 

「それって確認できるのか?」

 

「現在、我が国は最大の猛威に晒されており、確認には時間がかかりますが可能です」

 

「猛威?」

 

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。どうか、勇者様のお力をお貸しくださいませ」

 

 一斉に土下座されると怖いんだが。

 

 ていうか、これで断ったら、俺を殺して次の勇者を!

 

 とか言いそうな雰囲気だぞ。

 

 一応、聞くだけ聞いてみるか……。

 

「とりあえず、話だけなら――」

 

「ありがとうございます!!」

 

「さすが勇者様!」

 

「予言は本当だったんだ!」

 

「これで世界は救われます!」

 

 そんな期待されても困るわ!

 

「では、勇者様。こちらへ、国王様にお会いくださいませ」

 

 俺は内心ため息をついてついていくことにした。

 

 暗い廊下を抜けると空気が変わった。

 

 なんと言うか俺達の世界より澄んでいる。街並みも――なんというか、ローマを思わせる中世風の街並みだ。

 

 煉瓦と石造りか……。

 

 全体的に建物の高さが低い。尖塔もあるが高層ビルの半分の高さもないので、空が高く感じられる。

 

 ん?

 

 間地からかなり離れた山の方――何やら空に赤い爪痕みたいなのが見えるぞ。

 

 まるでそこだけ空の色を剥がしたみたいだ。

 

 異世界だと普通の風景なのか?

 

「ほう、こやつが古の勇者か。ほんとうに大丈夫なのか?」

 

 謁見の間とやらに通されてからの第一声に俺はイラッとした。

 

 金ぴかの玉座に腰かけているのはいかにも王様、と言った格好の爺さんだ。

 

 なんか値踏みするような目が気に入らない。

 

「ワシがこの国の国王――アインノルド・ブルースフィア14世である。勇者よ、顔をあげよ」

 

 さげてねーし!

 

 それに14世か。俺の世界だととある革命でギロチンされた王様がいたよな。

 

 この王は大丈夫だろうか?

 

 どうにも値踏みする視線で好きになれない。

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。何故、勇者を召喚せねばならなかったのかとこの世界を滅びに向かう予言について」

 

 アインノルドの話によると、かつての予言により、次元の亀裂から滅びの獣が現れて世界を滅亡させる。その獣達を倒し、災害をはね除けなければ世界が亡びる、と言ったものらしい。

 

 滅びの獣……俺達の世界の厄獣に似てるのか?

 

 そして、それをはね除けるのが異世界の勇者であり、その召喚方法も予言のものらしい。

 

 ……すげー他力本願だな。

 

 とりあえず、挑んでからやれよと言いたい、と思ったが、さすがに挑んではみたらしい。

 

 この予言の年が今年だったらしいのだが、当初、各国は予言を蔑ろにしていたらしい。

 

 しかし、予言に記された日刻に世界の各地に厄災は舞い降りた。

 

 国々は一度目の亀裂はなんとか退けたのだが、再び二度目の災厄が起きた。

 

 空に亀裂を走らせて姿を見せた凶悪な魔物達。しかも、それが一体ではなく何百と現れたらしい。

 

 なんとか、国の兵士と、冒険者、傭兵とでなんか食い止めたが、いまだに亀裂はなくならず、そこから現れた魔物のボスらしき存在は倒せていないらしく、亀裂は開いたままであり、不定期に魔物が現れるそうだ――。

 

「て、こら!」

 

 話の途中で俺は思わず突っ込んだ。

 

「こら、とは、なんじゃ!」

 

「なんじゃ! じゃねぇ! まだその厄災は収まってねぇのかよ! 悠長に勇者召喚してる場合かよ!」

 

「収められなかったからこそ勇者に頼るしかなくなったのだ!!」

 

 ったく!

 

 なんつーダメな話だ。

 

 とはいえ……見捨てるのもな……。

 

 これでも『曙』は正義の味方――まで言えないが、そんな認識の仕事だ。

 

 この世界は異世界だが、とりあえず目の前のそれを解決しよう。

 

「んで、その亀裂は?」

 

「ノルン村上空だ。未だに定期的な魔物の襲来があって封鎖しておるが」

 

 バタン! とタイミングを図ったかのように扉が開きズタボロの姿の兵士が駆け込んできた。

 

「敵襲! 亀裂から再び魔物が現れました! 大型の魔物も――亀裂の主と思われます!」

 

 舌打ちしたくなるタイミングだな。

 

 これが漫画とかなら盛り上がるが、現実だと面倒なことこの上ないぞ!


「っ! そこに案内してくれ。この世界についてとか詳しい話は後でしてもらうがな」

 

「うむ。すぐに向かってもらおう!案内を!」

 

「はっ! 頼りになるかは保証しないがな」

 

 なんだかんだで異世界だ。

 

 俺の能力が通じない可能性だって高い。

 

 だが、脅威が迫っており、今も脅威があるなら戦うしかないだろう。

 

 帰るにせよ、この他力本願な予言とやらを信じてるこいつらが素直に帰してくれるかも疑わしいしな。

 

 謁見の間から出ると二人の兵士が敬礼してきた。

 

「勇者様! 我々が案内します!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 15.6歳くらいか。俺達の世界ならまだ学生だ。そんな歳で兵士なのか……。いや、俺も学生なんだが。

 

 そう考えるとどっちも異常なのか?

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

 とにかく、今は亀裂とやらに行かないと。

 

「あぁ!頼むわ」

 

 俺は二人の兵士とともに現場へと急ぐ――。

 

 

 

 

 

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