亜人議会
この巨樹の森には複数の亜人が棲んでいる。
湖や湿地帯を棲み家とした蜥蜴人、鬼人の里に住まう鬼人、巨樹の上や山に穴を掘って棲む獣人。
その種類は獣人がもっとも多い。
鳥人、兎人、小人族、土竜人……など少数の獣人が身を寄せあって生きている。
その中で最大の数と力を持つのが犬人と猫人である。
彼らは獣人の代表としてあげられ、まとめ役として獣人達に慕われていた。
蜥蜴人、犬人、猫人、鬼人の四者はこの森での最大権力を有し、それぞれが領土を分けるように棲むエリアを決めている。
そんな彼らだが、仲の悪いわけではない。
四年に一度、情報交換や交流のために顔を合わせて話し合う。
亜人議会――。
ただし、去年行われたため、平時なら次は三年後だ。
だが、再び議会の召集が決められた。
三日後、急遽巨樹の森の中心にある議会場で行われることが鳥人の遣いによって各種族の長へと知らされる。
議題は滅竜教会の侵攻についてだ。
その議会に俺とティアも出席を頼まれている。
勇者と龍魔人の肩書きは想像以上に重いらしい。
まぁ、滅竜教会には俺もティアも無関係ではないのだ。勿論断らない。
かくして、俺とティア、鬼徹に護衛二人をつれ、四人は議会場へと向かうことになったのだった。
護衛が二人なのは大昔に権威を見せようとした種族が大軍を率いて議会へ向かい、森の魔物を刺激したことで、大量発生した群れに議会場が大混乱したため、少数での移動が決められたのだ。
まぁ、それでも戦闘になることはあるが――。
「滅竜教会か――。やっとあの神器勇者に会えるのか」
俺は舐めさせられた辛酸を晴らせると思うと思わず拳を鳴らしてしまう。
当て馬としての異世界召喚に始まり、指名手配での日々。
どうしてくれようか?
「あやつを見くびるな。中身はどうあれ勇者じゃ、警戒せよ」
そんな俺を諌めるティアの表情はやや硬い。
一度、殺されかけてるってのがあるからな。
俺も油断してるわけではない。
今の俺はSPの回復値では権能がほとんど使えないのだ。徐々に回復しつつあるが、本来の調子にはほど遠い。
滅龍魔法だけでは心もとないのはあった。
だが、あのゲヘナの言葉。
俺の新しい権能についてのことだ。
まだ使ってないが、どんな効果か試しておくべきだったかな?
まぁ、試せるほどのSPがないから無理なんだけど――。
ぶっつけ本番になるが、つかうのも視野に入れておくべきか……。
ちなみに移動は徒歩になる。
なにせ、竜車に鬼巌の巨体は狭すぎるからだ。
ティアのおかげか魔物は寄りつかないから旅は順調なので、俺は移動がてらもう一人の護衛できた鬼喇と名乗った鬼人に他の亜人についての話を聞いていた。
鬼喇は鬼巌とは細身の女侍みたいな鬼人で大和撫子みたいな黒髪和服のお姉さん。
腰には刀を左右に一本ずつの二刀流。
金棒の鬼巌と二人とも前衛らしい。
「亜人議会に呼ばれるのは我々鬼人に蜥蜴人と犬人、猫人の四種族ですね」
犬人、猫人は見た目はほとんど人間で、犬と猫の耳と尻尾があったり、一部爪が鋭かったりする程度らしく、比較帝国内でも見かける種族だそうだ。
逆に蜥蜴人は人型の蜥蜴と言える外見らしく、肌も鱗に覆われ、牙や爪を武器とする種族らしい。
一説には竜と人の交配で生まれたともされるそうだ。
そうなると龍族の子孫になるのだろうか?
見た目は肉食なのだが、主食は魚で、排他的な種族のため帝国でも見たことがない人間の少ないらしい。
俺も見たことないな。
まぁ、アニメやゲームではどれも定番の亜人だからイメージはできるのだが。
鳥人は俗にハーピィーって種族だったしな。
腕に鳥の羽が生えて、足が鳥みたいになった亜人だ。
兎人と土竜人もどんな感じか想像に難くない。
兎人は帝国でも夜の顔になるとよくいたな。夜の店に勧誘してきたお姉さんもウサミミだったし。
たぶん、あれがそうなのだろう。
今回の議会には参加権がないから会わないだろうけど。
道中には炭焼き小屋のような無人休憩所が建てられており、俺たちはさしたるハプニングもなく議会場へと到着した。
「議会場って議事堂みたいなのと思ったよ。ただの小屋かよ」
小屋は言い過ぎだが、宿屋くらいの大きさしかないし、これなら帝国の冒険者ギルドの支部の方が大きい。
「まぁ、四種族代表と護衛しか集まれないので、大きさは不要となってこの形なんです。それにベヘモスが通る場合は大きさに関係なく破壊されるので、直すのに手間がかからないようにとの配慮ですよ」
俺の呟きに鬼喇が耳打ちした。
なんか声音的に不本意っぽい。
種族の代表が集まるにはみすぼらしいからな。
「よう、鬼徹殿とそっちは――なんで――人間……?」
ノッシノッシと巨体を揺らして近づいてきたのは、蜥蜴を人間のシルエットに合わせたような大男だ。
二メートル後半はあろう身体は鱗に覆われ、その内側からは筋肉がはちきれんばかりにその巨体を膨らませているよう。
鱗に刻まれた稲妻のような傷跡は歴戦の凄みがある。
ただ声をかけてきた雰囲気は気さくで、なんか親しみやすさを感じられた。
後ろに控える二人?の蜥蜴人も似たような体格だが、二回りほど小さい。
「そちらも壮健かな? シャールス殿。こちらは勇者様と龍魔人様だ」
鬼徹の紹介に俺は軽く頭をさげ、ティアは尊大に頷いた。
龍魔人――の紹介でシャールスとそのお着きの二人は目を見開き、慌てて土下座した。
何事!?
「「ははぁー!!」」
後で聞いたのだが、龍たる龍魔人は竜の血を引く蜥蜴人には絶対的な神らしい。
なので、目の前にいきなりが神が降臨された!って衝撃でひれ伏したらしい。
普段の威厳のなさを知ってる分、ギャップがすごいな。
ティアは得意気な表情を浮かべたまま機嫌よく議会場へと入っていった。
その後も犬人と猫人が似たような反応をしたのは割愛しよう――。
◆
議会場は大柄の亜人も入るので、通路や部屋は大きく造られている。
俺達が案内されたのは円卓を思わせる丸テーブルで、最上位とされるティアが座ってから、俺、鬼徹、シャールス、犬人代表のグスターボが席についた。
進行役としては決定権がない猫人のギニアが行う。
犬人と猫人は合わせて一票なので、片方が進行役になるらしい。
「それでは皆々様。会議を始めましょう」
鋭いアーモンド型の瞳で、頬に三つの猫髭を生やしたちょっと大人びた猫耳の女性が話を始めた。




