空白地帯
冒険者ギルド――。
帝国、王国、共和国――その他の国々全てに支部が存在し、国家権力に縛られないながらもその影響力は侮れない一大組織――。
当然、帝国でもその力は大きなものだ。
だが、その冒険者ギルドは現在、危機的な人不足に陥りつつあった。
帝国の兵士は徴兵制ではなく、専業制で自衛隊みたいな公務員だ。
街道付近の魔物の討伐、都市の治安維持は基本的に彼らが行っている。
だが、専業とは言っても冒険者のように未開地や過酷な僻地などに行ったりはしないし、討伐する魔物の種類もほとんど決まっている。
なので、突発的に出てくる魔物や強敵扱いされる魔物は冒険者に依頼が出されるのだが――。
アヴァロン帝国では、現在徐々に魔物の被害が増えつつある。
前回と前々回の滅獣との戦いで冒険者の多くが命を落とし、Bランクのパーティーも半数が命を落としているせいで、冒険者の数が不足しているからだ。
数が減り、一人当たりの仕事量が増えたため、優先度の高い依頼には名指しで頼むケースがある。
そうしないと依頼を出しても受ける人がいないからだ。
「それで俺とティアに名指しの依頼かよ」
「よいではないか、たまには何やら鬼人の集落の近くで休眠明けのベヘモスが目撃されたらしいからの、それの調査じゃ」
「どっちも聞いたことない種族と魔物だな」
「ベヘモスは比較的、龍種に近いかのぅ。混血はそこそこ混じっておるが、古の魔物じゃ。まぁ、倒そうとは思わん方がよいわ」
ベヘモス。
陸亀に似た超大型の魔物で、サイズだけでも城並らしい。
普段は地中深くで休眠しているが、不定期に目覚め、大地に出てくると莫大な被害をもたらしてきたそうだ。
歩く天災として畏れられている。
ちなみに、記録だと前回目覚めたのは二十年前。
巨体が通った後は廃墟が残るのみになってしまうほどで、あまりの大きさゆえに討伐は不可能とされ、魔法や大量の爆薬で驚ろかせて進路を変えるのが基本とされるほどの脅威らしい。
某モンスター狩りでの巨大龍みたいな話だぞ。
大昔は何度も軍隊が討伐しようと幾度も挑んだが、被害だけ増えて討伐できた記録はない。
鬼人の集落は、帝国と王国の間にあるとある場所に住んでおり、両国に取引はある。
ただ、亜人なのでほとんどが帝国相手だそうだ。
王国では亜人を嫌う滅龍教会が煩いからだろう。
鬼人――見た目は人に近いが、額や頭の両側に角が生えており、一人でも十人の兵士に匹敵する戦闘力を誇る。
俺の想像ではムキムキマッチョで厳つい大男のイメージだ。
性別は男だけとかか?
今回は討伐ではなく進路予測が仕事なので、気は楽だ。
そんなもの討伐なら依頼は拒否したいところなので。
ただ、進路が空白地帯を抜けて、帝国内の主要都市に被っていれば、間近な都市を基点に即座に防衛軍を作るらしい。
悲しいかな進路上にある小さな村などだと避難で済まされるのが現実だ。
被害を受ける側ではたまったものではないが、帝国も進路変更で使われる爆薬や防衛軍の費用をかけるのは滅獣での現状、被害や国力回復の費用を考えると厳しいらしい。
帝国としても、王国として、空白地帯で留まってくれるのが望ましいみたいだ。
ちなみに、空白地帯とはベヘモスが休眠から明けた時に徘徊するエリアで、両国ともに討伐不可能な動く災害地域など領地にしたくなかったため当地国家がない場所を指している。
ただ、王国と帝国が領地としてないだけで、そこにも生きる種族はいる。
迫害を逃れたり、人間を嫌ったり、ベヘモスの生態系を知り、それを利用する種族などだ。
ほとんどが亜人で鬼人も昔から空白地帯に住む種族とされていた。
帝国としてはそこの種族は帝国の民でもないので守る義務も義理もないって感じなんだろうな。
少し冷たいが仕方あるまい。
そのために両国とも領地にしなかったわけだから。
地竜に引かれる馬車で10日――。
ようやく俺とティアは空白地帯と帝国を分ける国境に来ていた。
分けると言っても長い壁があるわけではない。
草原から巨大な木々が生える森へと変わっただけだ。
ただ、生える木々の大きさは数年で樹齢百年を越える大木にも匹敵する巨木となり、まるで自分が小人になったかのような錯覚に陥ってしまうほど高く太い。
まるで一本一本が塔みたいだ。
木々のサイズがサイズなので、馬車でも通れるほどに木々の間が空いている。
巨樹の森――これが帝国や王国と空白地帯との境目だそうだ。
ここで権力をもつのは獣人――犬と猫種と鬼人、蜥蜴人らしい。
なので、まずは目撃情報をもち、権力のある鬼人の里を目指す。
「地図じゃとここより2日行くと鬼人の集落らしいな」
「では、行くとするかの」
俺とティアは地竜をさらに走らせ、森の中へと進むのだった。




