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帝国


 帝国に亡命してから数日が経った――。

 

 マーリンは弟子のところで魔法の研究やら歴史やらを調べていて、死ぬ前よりも大幅に進んでいる魔道具などに興奮していた。

 

 ……しばらく帰ってきそうにない。

 

 俺とティアは貴族宅が居並ぶエリアにある大きな屋敷を与えられ、拠点にしていいと言われたので、そこに住むことにした。

 

 皇帝陛下に与えられた屋敷はあっちの世界の1Kの部屋とは大違い。二階建てで十人は座れるテーブルのある食堂。暖炉があり、フカフカのソファがある大広間。さらに温泉並みの大浴場があり、庭はテニスコート二面分はある。部屋も二階には五つはあって、日本じゃ会長とか社長でも住んでなさそうな豪邸だ。

 

 ただ電気とかないから火は魔法か火打ち石から起こさないといけないし、

風呂を沸かすのも一苦労。食事も昔の召喚勇者の持ち込んだ知識で近いものが再現されているが、如何せん食材がこっちと地球では違うので、違和感はある。

  

 まぁ、家だけならあっちの世界に持って帰りたくなる素晴らしさだがな。

 

 ティアは新品のベッドは寝心地がいいと昼まで寝ている。

 

 仮にも世界の護り手なんだからもっと威厳が欲しいところだ。

 

 なんだかんだ、備え付けのベッドは寝心地が最高だ。

 

 屋敷にはメイドさんが二人居て、双子のメイドでリリさんとララさんと言うらしい。

 

 毎日、ベットメイキングしてくれるので、清潔なシーツで毎晩寝れる。

 

 掃除、洗濯、炊事etcの全てをしてくれるのだ。

 

 このままだとニートライフに染まりそうだ……。

 

 歳は二十歳くらいのお姉さんで、武術の心得もあるそうだ。

 

 武器をもってるのは見たことないが、お玉で戦う妹キャラみたいに強いのだろうか?

 

 髪の分け目で違いが分かるが、もし分け目を変えて入れ替わっても気づかないだろう。

 

 朝は起きるとウォーミングアップのために走ったり、魔力を練ったりして、昼からはティアと庭で組み手をしたりしている。

 

 アクトに頼んで他に召喚された勇者がいないかも当たってもらっている。

 

 ここまでが近況だ。

 

 さて、今日は図書館でもいくか――。

 

 目下調べているのはSPを早急に回復させる手段の模索と元の世界に帰る方法だ。

 

 SPは相変わらず回復は遅く、未だに権能を発動には程遠い回復量だ。

 

 できれば、ポーションみたいなお手軽アイテムが欲しいところだが、SPは勇者専用のステータスなので、汎用性のないポーション開発は需要もないし、ないだろうと言われた。

 

 まぁ、召喚された勇者なんてほぼいないんだがら、開発する人間もいないか――。

 

 元の世界に帰る方法については、屋敷まで用意してもらった皇帝や懐刀のアクトには相談しにくいので自分で調べている。

 

 あの二人は俺を帝国に置いときたいって感じだ。

 

 待遇もいいので、居心地はいいけどな。

 

 図書館には魔法についての書物も多いので読んでて飽きなかったが、今は魔法の本は読んでいない。

 

 なぜなら、俺は人族の扱う魔法が会得できなかったからだ。

 

 異能力を『覚える』でもコピーできなかったし、マーリンには才能がないって言われた。

 

 どうやら、魔力を魔法として具現化できないらしい。

 

 ティアの滅龍魔法が使えるのは、やっぱり魔法体系の違いなのか?

 

「せめて、俺もマーリンみたいな魔法が使えたらなぁ」

 

「なんじゃ、進は滅龍魔法では不服なのか?」

 

 図書館に一緒に向かう道すがらティアが頬を膨らまして俺を睨んできた。

 

 むしろ可愛い顔だが、からかうと拗ねるので止めておこう。

 

「いや、滅龍魔法がなかったらここまで戦えてないんだ、感謝してるぞ。ただ、雷だけだとバリエーションが少ないからなぁ」

 

「天空龍の力なのだから、風や光の魔力変換も練習せんからじゃ、時間がある今のうちにせよ」

 

「わかってるが、魔力変換がなぁ」

 

 一人の練習中ならできるが、ティアとの組み手だとどうしても雷龍系統になってしまう。

 

 咄嗟の状態だと、雷の魔力が出てしまう癖がついてしまっているのだ。

 

 ティアは年季が違うとばかりに、臨機応変で、抑え込もうとすると風で吹き飛ばしたり、光で目を眩ませたりと自在に滅龍魔法を使ってくる。

 

 ガチの時は亜光速まで出せるそうだが、反動でたぶん身体がもたないとか言ってたな。

 

 どこまで本当かわからんが。

 

「練習あるのみじゃな」

 

「先生の言うとおりで」

 

「殊勝さは重要じゃぞ」

 

 なんて話してる間に図書館についた。

  

 この世界の識字率が高くないので、図書館は一定水準の教育の受けられる貴族が多い貴族宅のエリアの近くに建てられている。

 

 寺院でも読み書きは習えるが平民の子供でも農作業や家事など手伝わなければならないことは多いのでなかなか読み書きを習う余裕がないらしい。

 

 ゴーレムでの全自動化案とかでてるか、現在の技術だと細かい作業は無理とされている。

 

 図書館は本来は入館料がいるのだが、俺とティアは勇者とその仲間なので顔パスで入れてくれる。

 

 擦りきれたり色の変色した古書や、亜人言語で書かれた書物も多いのだが、言葉が通じるのと同様に読めた。

 

 異世界ものだと、言葉は通じるが、まったく読み書きはできないものと、標準装備で言語が読めるタイプがあるが、後者でよかった。

 

 ただ、読めるだけで書けないのはいささか問題だが。

 

「おや、勇者様、龍魔人様。今日も、探し物ですかな?」

 

 俺の前に後ろ足で器用に立つウサギがいた。

 

 腰くらいまである大型のウサギで、真っ赤なビーズみたいな目でこちらを見上げている。

 

 ここの館長でウサギの亜人らしい――ほとんど魔物に見えるんだが、大昔からこの図書館を管理しているらしいので、誰も気にしないそうだ。

 

 何千万もある書物の全位置を把握しているので、彼に聞けば必要な本の場所はわかる。

 

 検索エンジンも兼ねているからだ。

 

「今日は歴史についての書物を教えてくれ」


「では、こちらに――」

 

 館長の案内で俺は今日もティアと勉強だ。


 それと異世界から来た勇者がもたらした歴史書――伝記物とか、物語物の小説も調べている。

  

 勇者はこの世界に召喚され、世界の危機を救い、そのまま永住する者が大半で、そうでない者は人知れずに新たな旅に出てしまうらしい。

 

 ――その旅ってが元の世界に戻ったのだろうか?

 

 話の種類は世界に脅かす魔物を討伐する話、魔王なる恐るべき敵と戦う物語、そして、最後が衰退をもたらす天才に対して、戦う話。

 

 この三種類だ。

 

 この世界の天才は繁栄と衰退をもたらす存在らしい。

 

 残念ながら、その天才とやらを見たことはないのだが――。

 

 それに、戻る手段は見当たらないな。

 

 魔法で可能性があるのは召喚魔法か。

 

 ただ、現在ある召喚魔法は魔物や武器など、この世界にある人間以外のものを呼び出す魔法しかないらしい。

 

 俺を召喚した古の魔法とやらは、滅龍魔法と同じく失われた古代魔法だそうだ。

 

 古代魔法か……。

 

 アビスを名乗った使途とやらも扱っていたな……。

 

 結局あいつは謎のままだったが……。

 

 それに関して調べるには滅龍教会か、王国を調べるしかないのか――。

 

 滅竜教会――。

 

 まだあいつらとは何の決着もついてない。

 

 俺を嵌めたツケは必ず払わせるがな!


 

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