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 可視化できるほどの高密度の風の塊はまさに柱だ。

 

 天空から撃ち放たれる鉄槌は大地に直撃した瞬間、俺達まで吹き飛ばすほどの風量を撒き散らす。

 

 爆風なんて生ぬるい風に巻き上げられた砂が壁舞い上がる壁のようだ。

 

 ユグドラシルの分厚い外皮や根っ子、砂が巻き上げられ、真空の刃に切り刻まれていく。

 

 ギャォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 柱に呑まれたユグドラシルは苦悶と怒りに震える声をあげて再生能力で傷を癒すが、それを無数の風の刃が切り刻む。

 

 再生と風の刃による攻防はまったく終わりが見えない。

 

 大地に叩きつけられている柱の中、ユグドラシルの巨体が徐々に中空へと持ち上げられつつあった。

 

 砂が吹き飛ばされ、大地に張り巡らされていた根が姿を現していく。

 

 まるでクモの巣のような長く全方位に広がっていたのはそれらを容赦なく風の刃が切り刻んでいった。

 

 船を繋ぎ止めるロープが切られるようにブチブチと音を立てて無数の根が力なく落ちていく。

 

 俺の魔法でも切れなかったユグドラシルの首が何度か落とされるのも見えた。

 

 そして、見た。

 

 巨体から下へと伸びる無数の根の中心に禍々しい赤黒く脈動する魔力の塊――それはまさに巨獣の心臓に見える。

 

 そこだけは傷つけられまいと、必死に身体を捩り、根を集めて密度を増すユグドラシルの姿を――。

 

 やはり、あれが弱点か!

 

 だが、悠長にそれを見上げる余裕はなかった。

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

 

 飛ばされる!

 

 咄嗟に身を伏せるが砂地じゃ掴むものもない。

 

 眼を閉じて息を止め、顔を腕に埋めて、砂から眼や喉を守るらなければ。

 

 砂が雨のように俺の身体を打ち付ける。

 

 風神の怒りを体現するかのような嵐は留まるところをしらない。

 

 いつ治まるんだこれは!

 

 これじゃ、権能を使う余裕なんかないぞ!!

 

 気を抜いたら俺まで風に巻き上げられそうだ。

 

 このままだと作戦が!

 

 必死に身を屈める中、急に風がやんだ。

 

 温かくて、甘くて、柔らかい感触が背中に伝わってくる。

 

「進!」

 

「ティア……?」

 

 うっすらと目を開けると、俺に抱きつくようにティアが覆い被さっていた。

 

 その背中からは翼が生えている。

 

 それが合わさってシェルターのように俺達を守ってくれているのだ。

 

「砂嵐は妾が護る! 奴を――討て!」

 

 そうだ。

 

 これが最初で最後のチャンスなんだ!

 

 俺は全神経を権能発動へ向ける。

 

 二割のSPで足りるのか?

 

 だが、できないではすまされない!

 

 足りなければHPでもMPでも寿命でもくれてやる!

 

 だが、何がなんでも仕留めてもらうぞ!

 

「我がもとに来たれ勝利のために!不死の太陽よ! 燃え盛る天空の焔よ、天より放たれし裁きの柱となりて、罪深き咎人に白き殲滅の光を下せ!」

 

 言霊を唱えきった途端、ガンッ!と頭を殴られたような衝撃に襲われた。

 

 視界が急に暗くなりかける。

 

 SPが根こそぎもっていかれたか――。

 

 それだけじゃない。

 

 MPも一気に底を尽き、HPがグングン吸われている。

 

 やばい――意識がもってかれる。

 

 俺は爪を手のひらに食い込ませ、唇を噛み締めて痛みで意識を保たせる。

 

 口内に鉄の味が広がったが知るか。

 

 今ここで、気を失うわけにはいかないのだ。

 

 後少し――持ってくれ!

 

 雷雲が立ち込める中、闇を裂いて再び第二の太陽が現れる。

 

「終わりだ――ユグドラシル!」

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 最後の足掻きと吼えるユグドラシルめがけて、白きフレアが降り注いだ。

 

 荒れ狂う風によってさらに火力を増した焔は天を突く巨大な火柱となってユグドラシルを――天に割れた亀裂すらも焼き焦がしていく。

 

 焔の中で悶えるような影が動いていたが、その姿は徐々に小さくなり、やがて完全に姿を消した。

 

 天を焼く焔に亀裂が溶けるようになくなり、空の色が戻るのを見た俺は唐突に意識を失ったのだった。

 

 


 

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