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第三ラウンド


「戦えるものは詠唱者を護りなさい!」

 

 俺の作戦を実行するために、ケーティアの呼び掛けで魔法使いが一ヶ所に固まり魔力集めていた。

 

 本来なら『裁き』のような集団魔法でも、と行きたいところだが、練度が足りないので無理らしい。

 

 なので、マーリンが魔方陣を書いて、そこにいる魔法使いの魔力をかき集めて超級の魔法を放つ手はずだ。

 

 ユグドラシルが狙い撃ちにしてこないように俺とティア、ケーティアにハンナ、ラディアスは前衛職は彼らの防衛だった。

 

 まぁ、ユグドラシル自体は動いていないで、そこまで必要ないか……。

 

 と思ったが甘かった。

 

 魔力の高まりを感じてか九つの首が一斉に俺達の方を向いたのだ。

 

「まずいですね。気づかれましたよ!」

 

 詠唱の中心にいるマーリンの顔が焦燥に歪んだ。

 

 上級の上の超級魔法の発動準備中はエルダーリッチのマーリンでも動けないらしい。

 

「魔法の方は!?」

 

「進の作戦で必要な威力にはまだかかります!」

 

 周囲の魔法使いの魔力を集めている魔方陣が淡い輝きを放っている。

 

 時間ごとに光が強まってるが、まだまだ弱々しい。

 

 まぁ、強い魔法って発動に時間がかかるのはお約束だしな。

 

「さて、第三ラウンドといくか」

 

「ユグドラシルの足止めか。今度は退けそうにないの。魔力の残留には気を配るんじゃぞ」

 

 ティア先生は不敵に笑って指導してくれる。

 

 見た目は幼女だが、実に頼もしい。

 

「勇者様、私達も微力ながら加勢します」

 

「当てにしてる!」

 

 俺の言葉にケーティアは嬉しそうな表情で頬を染めた。

 

 勇者と戦えるのってそんなに嬉しいのか?

 

 だが、こっちは権能の残りは一発。しかも、SPのことを考えれば異能の発動は抑えないとな。

 

 滅龍魔法でどこまで戦えるか――。

 

 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 

 高層ビルを横にしたような巨体をくねらせてユグドラシルが動き出した。

 

 背中が内側から押し上げられるように不自然に膨れ上がると、ボコリ、ボコリ、と吐き出すように巨大な木塊を飛ばす。

 

 直径二十メートルほどのそれらが四個。

 

 巨石のような木塊はみるみる形を変えて、二本の腕と足を持つ人形――巨人を産み出した。

 

 逞しい丸太の様な胴体、彫刻のような深い彫りの顔。西洋風な顔立ちの巨像。

 

 それらの眼に意思の光が宿ると共にゆっくりと立ち上がったのだ。

 

 ルォォォォォ!

 

 おぞましい産声をあげ、巨人が俺達を見下ろしている。

 

 世界樹の世界観では巨人族の国を内包する世界があったが、それ絡みか!

 

「雷龍の羽衣!」

 

「雷光龍の羽衣!」

 

 先程と同じ身体強化でブースとした俺とティアは巨人へと向かって走った。

 

 十八個の瞳が一斉に俺達へと向けられた。

 

 グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

 

 ユグドラシルの咆哮に巨人達の狙いが俺とティアへと向く。

 

 ユグドラシルの産み出したモンスターだけあって意思の疎通はできるようだ。

 

「妾と進で一体づつ。あと二体はお主らで対処せよ!」

 

 ケーティアに言い放つティアだが計算がおかしい。

 

 まだ戦士職の冒険者は二十人はいる。

 

 十人、十人、一人、一人、って割り振りがおかしい。

 

「おい! 俺も一人でかよ!」

 

「妾の滅龍魔法に他人への補助魔法はないのじゃ! それに連携などできまい!」

 

「ぐ……わかってるがっ!」

 

 ティアの言葉に反撃できそうになかった俺は鼻を鳴らして巨人の一体を見据えた。

 

 20メートルほどの巨体。

 

 うなじを切らないと倒せないとかチートな回復力があるとかなら倒せそうにないがどうなんだろうか?

 

 木彫りの巨人――ファンタジーならゴーレムとかが連想される。

 

 オオオオオオオン!

 

 巨人は岩のような拳を大きく振りかぶると、俺めがけて躊躇なく振り下ろしてきた。

 

「はっ! しゃらくせぇ! 雷龍の鉄槌!」

 

 俺は大きく両足を広げてスタンスを決め、力任せて迫ってきた拳を殴りつける。

 

 ズドォォォォォォン!

 

 迫撃砲のような轟音とともに衝撃が弾ける。

 

 拮抗したのは一瞬。

 

「ラァァァァ!」

 

 振り抜いたのは俺の拳で、巨人の拳が大きく吹き飛ばされた。

 

 たたらを踏んで後退するのは木製の巨人。

 

「はっ! 所詮は木偶人形だな!」

 

 犬歯を剥いて笑った俺はそのまま体勢を崩した巨人へと追撃する。

 

「雷龍の鉤爪!」

 

 雷光を帯びた五指が巨人の脛を抉る。

 

 ロォォォォォォ!

 

 自分の重みでメキメキと傷口を開きながら巨人片足が折れていく。

 

 再生能力はなしか……。

 

「雷龍の双擊!」

 

 そのまま、倒れて宙を仰いだ巨人を切り捨てた。

 

「他愛ないな」

 

 倒れた巨人の首を跳ねた俺はユグドラシルを見上げた。

 

 他の巨人達も冒険者達が一丸となって倒している。

 

 さすが帝国の誇る冒険者達だな、あの巨体を押している。

 

 一撃で半壊させらたとは思えない手際のよさだな。ユグドラシルが別格だったってことか。

 

「また産み出されたら面倒じゃ、今のうちに攻めるぞ!」

 

 四肢と首を跳ねたティアはそのままユグドラシルめがけて走る。

 

 俺も迷わず走っていた。

 

 ユグドラシルが再び背中を膨らませ始めたからだ。

 

 また魔物を産み出されたら面倒だ。

次は巨人よりも強い魔物が出てこないとも限らないしな。

 

 ユグドラシルは鎌首を揺らして俺とティアに狙いを定めている。

 

 ヒュゴ!

 

 大気を引き裂き、首がしなる。

 

 不規則で動くユグドラシルの首はまるで鞭だ。

 

 樹木のような体皮は触れれば、鑢のように削られるだろう。

 

 それにあの太さ――大人が両手を回せないほどの太さの首はそれだけで凶器になる。

 

 鋭い牙は何本にも剣だ。

 

 能力向上の『雷龍の羽衣』を纏っても恐ろしく速い。

 

 古い格ゲーみたいにカクカクとコマ送りみたいに見えるのだ。

 

 ユグドラシルとのレベル差が大きすぎるのか?

 

 こいつのレベルは???だからわからないが――。

 

「雷龍の鉤爪!」

 

 しゃがんだ頭上を丸太のような首が通り越す。

 

 巻き込んだ風に頬を叩かれながらもカウンターで放ったが、切り落とすに至らず、ユグドラシルの表面を焼いただけに終わる。

 

 さっきより強くなってるぞ!

 

「雷光龍の双擊!」

 

「雷龍の咆哮!」

 

 ティアの両手十本の雷撃と俺が放った疑似ブレスを重ねてようやく一本首を落とせた。

 

 傷口からは血もでない。

 

 炭化した切断面はすぐさま下から盛り上がった木に押し退けられ、そのまま首が生えてくる。

 

 落とした首はすぐに砂に溶けてなくなった。

 

 ユグドラシル本体の養分になってるんじゃないよな?

 

「先程よりも硬いな……」

 

「大地の魔力を吸ってるせいなのか?」

 

「恐らく……。このままでは際限なく強くなりそうじゃな」

 

 ティアは弱ったように顔をしかめた。

 

 龍形態ならまだしも、人の姿では倒せそうにない。

 

 進の作戦が決まればよいが――。

 

 ギョォォォォォォォォォ!

 

 ユグドラシルは四つの首で俺とティアを牽制しながらも背中から再び魔物を産み出すべく、突起物を伸ばし始めた。

 

「やばいぞ! また何か出てくるぞ!」

 

「問題ありません! 二人とも下がってください!」

 

 慌てる俺にマーリンの声が響いた。

 

 見れば、マーリンの立った大地が目映いほどの光を放っていた。

 

 十分な魔力が溜まったらしい。

 

「ティア!」

 

「うむ!」

 

 察したティアも素早く交替。

 

「空の王たるボレアス、エウロス、ノトス、ゼピュロスよ!我らの魔力を代価にその偉大なる威風にて、我らが前に立ち塞がり、厄災の全てを薙ぎ払いたまえ!」

 

 権能発動時の言霊に似ているな。

 

 何十人もの達人級の魔法使い、最高位のエルダーリッチの魔力をかき集めて発動するだけあって魔法名だけでは発動しないらしい。

 

「猛々しき風よ!荒々しき風よ!雄々しき風よ!鋭き風よ!四神の嵐をもって大いなる敵を吹き飛ばせ!」

 

 天空に魔方陣が浮かび上がり、雷雲が立ち込め始めた。

 

「超位魔法! アネモイ!」

 

 稲光とともに空に描かれた魔方陣から風の塊が打ち出される。

 

 

  

  

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