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対策


 ユグドラシルは何故か追ってこなかった。

 

 第一形態で受けたダメージが実は深かったのか、それとも下半身が地面に生えているから動けないのか、なんにせよ助かった。

 

 俺達とAランクパーティーの『白の百合』の面々が焼け野原の端まで待避していた。

 

 俺達の遠方に見えるユグドラシルは巨大を揺らしながら悠然と佇んでいる。

 

 他の行き延びた冒険者も傷を治癒したり、武器を磨いていた。

 

「さすがに厳しいのぅ」


「不死身は反則だろう……」

 

 ティアも俺も困った顔になった。

 

 魔力水と呼ばれたポーションでMPを回復させる。SPが回復するアイテムがあればいいのに……。

 

「後方から拝見しました。まさかアレほど再生能力をもつとは――」

 

 ケーティアも俺の側に座ってポーションを渡してくれた。

 

 いつの間にかいたが気にしまい。

 

 ありがたく飲んでおこう。

 

「その前に聞きたいのですが、あなた達は何者なんですか?」

 

 ケーティアの質問にテレス、ハンナも訝しげに俺達に視線を向けてきた。

 

 ラディアスはまったく興味なさげで得物を方に担いだままユグドラシルを睨んでいる。

 

「先程の魔法――あれ程のものは神代の魔法クラスです。それに未知の魔法――一介の冒険者とは思えません」

 

 探るような視線。

 

 嘘をついてもいいが変に疑われて戦いに支障がでても困る。

 

 どうせ、ここは帝国領だし、構うまい。

 

「俺は神条進だ。一応、勇者だな」

 

「妾はティアじゃ。唯一の龍魔人である」

 

「私はマーリンですよ。これでも賢者なんて呼ばれてましたね」

 

「異世界の勇者様に、龍魔人様、古の賢者マーリン様――。どれも伝説やおとぎ話の存在ですね……。戦闘を見てなかったら、にわかに信じられませんでした」

 

 ケーティアは驚きを隠せない表情で口を開いていた。

 

「……でも、異世界の勇者は王国で召喚されたはず。なぜ、ここに?」

 

 盗賊職で軽装のハンナは懐疑的だ。

 

 この世界での勇者ってあんまり信じられないもんなのか?

 

 偽物が多いからか?

  

「いや、亀裂からの滅獣をおさえるのが俺達の役目だからいても変じゃないだろう?」

 

 亡命しにきた、と言いたいが説明が長くなるので、誤魔化しておこう。

 

「でも、王国がこっちに勇者を派遣する?」

 

「疑うなら確認してみたらいい。……そんな時間があるならだが。今はそんな話はどうでもいいだろう」

 

 今の最優先の問題はユグドラシルの討伐だ。

 

 あの不死身の化け物をどう倒すか考えるのが先決なのだ。

 

 ハンナもそれがわかってるので、それ以上は聞いてこなかった。

 

「あの焔でも倒せないとなると国家規模の大魔法――それも連続で打ち込んで倒せるかどうかでしょうか?」

 

「ですが、空論でしょうね。国家規模の魔法は連続では撃てないですし、あの焔よりも威力は劣ります」

 

 魔法使いのテレスとマーリンが話し合うがいい案は出ていない。

 

 てか、権能って国家規模の魔法よりも上なのか。

 

 それで倒せないとなるかなり厳しいぞ。

 

「厄介なのはあの再生力だ。この世界には不死身の魔物とかいるのか?」

 

「不死身の魔物はいませんね。首をはねられない限りしななかったり、心臓を特定の武器で貫かないと死なない魔物はいますが、真の不死身など聞いたことがありませんね」

 

「私達も聞いたことはありません。アンデットですら、討伐方法がありますから」

 

「妾も真の不死身など存在せんと思うの。もしおれば、存在自体が強大となり知られておろう」

 

 マーリンとケーティア、ティアの三者の意見を考えれば、ユグドラシルは倒す方法がある。

 

 問題はその方法か――。

 

 どうしたものか?

 

 太陽神の槍を使ってもまた再生するような気がする。

 

 神殺しの第六感は侮れないのだ。

 

 さっき無視して失敗したわけだしな。

 

「おい……」


「帝国からの増援を待ってはどうでしょうか? 幸い、ユグドラシルは動いていませんし、騎士団が派遣されるはずですから」

 

 魔法使いのテレスは弱気だ。

 

 まぁ、魔法はみた感じ効果薄っぽいしな。

 

 マーリンの魔法なら通用してたが、中級レベルじゃ火力不足だろう。

 

 だが、今回は前回数にものを言わせた作戦で被害が大きかったから、少数精鋭できたし、無理なんじゃないか?

 

「それも手ですが、亀裂から新たに魔物が出てこないとも限りません。それにここにいる冒険者よりも実力はほとんど劣るでしょう……」

 

「ていうか、出てこないのが不思議……。前は際限なく沸いてでてた」

 

 ケーティアとハンナは否定している。

 

 確かにモビーディクの時は他の魔物も沸いてでてたな。

 

 権能で纏めて滅ぼしたから記憶に薄かったが……。

 

「おいっ!」

 

「どうしたのよ? ラディアス?」

 

 さっきまで一言も言葉を発さなかった女戦士――ラディアスの強い声に全員が振り向いた。

 

「どうやら、呑気に作戦会議してる場合じゃなさそうだぜ。あれを見ろよ」

 

 ラディアスは赤く染めた籠手でユグドラシル――の立つ大地を指差していた。

 

 溶岩色に溶解していた大地は冷めて黒色に染まっていたはずだったのだが――。

 

「なんだ、ありゃ……」

 

 俺の視界に広がっていたのは黒い火山地帯を思わせた大地ではなく不毛の砂漠。

 

 権能の余波を受けなかった草原地帯までも徐々に草が枯れ、肥沃な穀倉地帯だった大地はみるみる弱り、砂地へと還っていく。

 

「世界全てを砂漠にするつもりなのか?」

 

「動かないのはそのため??」

 

 ハンナとケーティアは戦慄しているが、俺は他のことが頭にひっかかっていた。

 

「龍脈の――大地の魔力を吸い上げておるな……。あのままでは大地どころか、この世界の生き物までも存在できぬ世界になるぞ」

 

 まるでユグドラシルに命を吸われているかのよ――ん??

 

 もしかして――――。

 

「おい、ユグドラシルは大地の魔力を吸い上げてるのか?」

 

「見ればわかるだろう。あいつに大地の魔力が流れ込んでるんだ」

 

 わかるか。

 

「生憎、俺の目は普通だよ。どこぞの魔眼持ちじゃねぇんだよ」

 

「ハハッ! 面白ぇ冗談だんな! そんな魔眼なんかあるわけないじゃねえか! 目に魔力を集中すんだよ。戦士なら基本中の基本だぞ?」

 

 ふむ……。

 

 全身の魔力を纏ってるのを眼だけに集中するのか?

 

 集めすぎて目玉が吹っ飛ぶとかないだろうな?

 

 俺はおっかなびっくりしながら、魔力をゆっくりと少しずつ眼に集中してみる。

 

 ピント調節するみたいな感じだったのだが、途中から視界にやたらと太い色付きの線みたいなのが浮かび上がってきた。

 

 地面を走る太い線がユグドラシルに向かって伸びているのだ。

 

 マーリンは他のメンバーと比較するとやたらとと色が濃い。

 

 ティアはヤバイくらいそれが濃いな。魔力の塊かよ。

 

 ラディアスの色が薄く、ケーティア、テレスは少し濃い。

 

 これって魔力の量なのか?

 

 ティアとマーリンの奴……どんだけMPがあるんだよ。

 

「これだけでかいと見えやすいな。隠蔽とかないのは所詮は獣ってことか」

 

 普通はこんな簡単には魔力の流れが見えないはずなのだが、ユグドラシルは膨大な量を集めてるが故に簡単に見えたらしい。

 

 てか、集中力がいるから、こんなの戦闘中はいきなりできないぞ。

 

 要練習がいるな。

 

 にして、なんだろう……。特に地中深くで集まった魔力が毬みたいに固まってる部分がある。

 

 マーリンよりも色が濃い。ティア並みだぞ。

 

 しかも、かなりでかいな。

 

 もしかしてあれが本体なんじゃないのか?

 

 ユグドラシルの上層部は攻撃用で下が本体。

 

 上側がどれだけ破壊されても下が無事だから死なないし、再生に魔力が必要だったとしても、大地から吸い上げ続けてるから、無限に再生できる――。

 

 説明はいくぞ。

 

 それに、それなら太陽神の槍でも死ななかったのも、地中深くで当たらなかったなら説明がいくし。悔しいが。

 

 賭ける――価値はあるか。

 

「試してみたいことが――ある」

 

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